#  108

Gabriel Vicéns|ガブリエル・ヴィセンス (ギタリスト)

1988年、プエルト・リコ(グァイナボ)生まれのギタリスト/コンポーザー。14歳で音楽、16歳でジャズに目覚め、高校時代にギタリストとして地元のローカル・クラブで演奏していた。卒業時には、優秀音楽賞とバークリー音大奨学生の資格を得たが、プエルト・リコ音楽院に進学、客員教授のエディ・ゴメスやデイヴィッド・サンチェス、ジョン・ファディスなど第一線ミュージシャンの教えを受けた。2010年同音楽院を首席で卒業、デビュー・アルバムの制作にとりかかり、2012年リリースにこぎつけた。

♪ デビュー・アルバム『Point in Time』について


JT:「Point in Time」というタイトルでどのような意味を伝えようとしたのか?

GV:「Point in Time」というのは、現時点(現在)での私の人生、という意味だ。言い換えると、私と私が共演しているミュージシャンが現時点で作曲し、演奏している音楽を表している、ということになる。


JT:このアルバムで意図した音楽的内容をうまく表現し得たと考えているか?

GV:さて、どうだろう。正直なところ、大変な作業で、ストレスも大きかった。デビュー・アルバムで、しかもほとんどすべて(マネージング、プロデューシング、作曲など)をひとりでこなしたからね。ベストを尽くしたし、現時点で僕が感じていることをうまく表現できたとは思っている。


JT:作曲にはどのくらいの時間をかけたの?

GV:2年前に書いたのもあるし、録音の数ヶ月前に書き上げたのもある。録音の前に何度も演奏しているから、こなれているとは思う。


JT:共演しているミュージシャンとは付き合いが長いの?

GV:その通り。彼らとはこれまでいろんな状況で何度も演奏している。例外はベースのマット・クロージーだ。彼とは録音のほんの数日前に出会った。大学のコンサートでアダム・ロジャース(g)、ヘンリー・コール(ds)と演奏しているのを聴いたんだ。演奏が終わったところで彼に話しかけ、すぐに同意を得た。人間的にも音楽的にも素晴らしい人物だ。


JT:ゲストのエディ・ゴメス(b)とデイヴィッド・サンチェス(ts)とは共演したことがあるの?

GV:彼らは僕が学んでいた音楽院の客員教授だったんだ。学校でも何度か共演した経験はある。彼らから得たインスピレーションや影響はとても大きかったので、録音に参加して欲しかったんだ。デビュー・アルバムだしね、一翼を担って欲しかった。


JT:学校ではエディやデイヴィッドからどんなことを学んだの?

GV:即興、ハーモニー、リズム、伴奏などあらゆること。とくに、バンドで演奏するときに知っておくべきことについて。


JT:プエルト・リコでの彼らの存在は?演奏を披露することもあるの?

GV:まずは、プエルト・リコ音楽院の客員教授であること。彼らと出会ったのは6年前だ。ジャズ・フェスにもよく演奏に来るよ。 JT:アルバム制作でもっとも苦心した点は?

GV:繰り返しになるけど、デビュー・アルバムだからね。本当の意味でチャレンジだった。大変なことは最初から分かっていたし、起こりうることに対しては心構えはできていたつもりだ。大変といえばすべてが大変だった。すべてがチャレンジで、じつに多くのことを学んだ。


JT:プエルト・リコ国外のディストリビューションの状況は?

GV:とても満足しているよ。各国で注目されること意外は望んでいなかったしね。あちこちでいい評価を得ているし、動きもいい。近いうちに各地でコンサートができればと思っている。


JT:リスナーに何か言いたいことは?

GV:僕が演奏を楽しんだように、僕の音楽を楽しんでもらえれば嬉しい。


♪ プエルト・リコのジャズ・シーン


プエルト・リコ(Puerto Rico) プエルトリコ米国自治連邦区 1898年の米西戦争でアメリカに併合。1897年自治権獲得、1898年アメリカ合衆国編入。公用語:スペイン語、英語。主都:サン・フアン。人口:約350万人。


JT:プエルト・リコのジャズ・シーンは概してどんな状況ですか?ジャズよりサルサやラテン・ベースの音楽の人気が高いですか?

GV:そうだね。人気はサルサやラテン系の音楽の人気が高いけど、ジャズも頑張っているよ。“ラテン・ジャズ”が盛んということかな。モダン・ジャズやポスト・バップ、エクスペリメンタルはそれほどでもない。演奏したり聴きに出かけたりする場所はフェスティバルはそれなりにある、というところだね。


JT:ジャズ・クラブは?

GV:本来のジャズ・クラブは2軒だね。その他に、ジャム・セッションやオリジナル・ミュージックを聴ける場所は何軒かある。


JT:ジャズを定期的に演奏している“ジャズ・グループ”は?

GV:数は把握していないけど、いくつかある。


JT:ジャズ・ミュージシャンはどうだろう?ジャズを中心に演奏してるの?あるいは、他のジャンルの音楽も演奏してるの?

GV:ジャズの演奏だけで生活して行くのはとても難しいと思う。僕が現在参加しているいくつかのグループはジャズ系といえるけど、僕の仲間は皆、家賃を払うためにいろんなスタイルの音楽を演奏している。


JT:学校で音楽は教えているの?

GV:そう。私立の学校はどこも音楽を教えているし、公立校のなかにも音楽を教えているところはある。


JT:ジャズ・フェスティバルはどう? ジャズだけでなく、他のジャンルのバンドも一緒?

GV:ジャズもあればサルサもあればロックも。フェスティバルはいろいろあるよ。


JT:音楽の専門学校は? ジャズ専門校もあるの?

GV:音楽の専門校は多分2、3校だと思う。ジャズ課程があるのは僕が卒業したプエルト・リコ音楽院だけだ。UPRやインターアメリカーナなどの大学でもある程度のジャズを教えているけど。


JT:アメリカやヨーロッパのミュージシャンもたくさん演奏に来るのでしょ?

GV:そうでもないね。プエルト・リコ最大のジャズ・フェス、ハイネケン・ジャズ・フェスティバルには世界各国のミュージシャンが参加するけど。他のコンサートではヨーロッパからは少ないね。ほとんど、アメリカと中南米だ。


JT:CDショップは多いの?

GV:CDショップは多いけど、ジャズのカタログはたいしたことないね。


JT:配信は?

GV:もちろん。というより、すべてがCD化されるとはいえない。ジャズでも配信だけというのも少なくないね。


JT:今後の傾向はどうなんだろう?

GV:すでに配信が主流になっているからね。CDが売れるのはライブの会場や、どうしてもパッケージ商品を手にしたいマニアックなファンだね。


♪ 自己紹介など...


JT:音楽家族に生まれましたか?

GV:家族でミュージシャンは兄貴だけだ。素晴らしいピアニストで彼からはずいぶんインスピレーションや影響を受けた。


JT:音楽に興味を持ったのはいつ頃?どんな音楽?

GV:兄貴の影響で小学校の頃から音楽に興味を持ち出した。彼がいつも僕に新しい音楽やバンドを聴かせてくれたんだ。例えば、Radiohead, Nirvana, Smashing Pumpkins, U2, The Cure, Pearl Jam, Stone Temple Pilots, Depeche Mode, Pink Floyd, Slowdive, Led Zepellin などね。日本のバンドもあったね、ラルクアンシエル、Xジャパン、グレイ、ルナ・シー...。なかでもラルクアンシエルにはとても惹かれたね。子供の頃は日本のアニメにもはまった。菅野よう子の音楽に初めて出会ったのはその頃だ。彼女の音楽はずっと好きだよ。とくに、Macross Plus, Please Save My Earth and Escaflowneのシリーズね。彼女の音楽以上に美しい音楽を聴いたことがないくらいだ。ビデオ・ゲーム「ファイナル・ファンタジー」の植松伸夫の音楽も大好きだ。彼らの音楽から大きな影響を受けた。彼らの音楽を聴きながら育ったから今でも心の中に残っている。


JT:日本のバンドの演奏には簡単にアクセスできるの?

GV:とても簡単だよ。Amazon、iTunes、YouTubeなどいろいろ手だてはある。たとえば、植松伸夫の音楽は小さい頃にずいぶん遊んだビデオゲームを通じて知った。菅野よう子の方は、兄貴が借りていた日本の映画やアニメのレンタルビデオを通じて親しくなった。兄貴はネットを通じて日本のCDもたくさん買っていたので、ラルクアンシエルも知るようになった。そのうち兄貴がVCDプレーヤーを買うほど熱を上げ、DVDでは発売されていない日本のバンドのコンサートをふたりでずいぶん観た。ラルクのコンサート・ビデオは1日に4回も5回も繰り返し観ていた時期があった。彼らの音楽は美し、エネルギーに満ちていたからね、本当にハマってしまったんだ。


JT:君の音楽にも影響していると思うかい?

GV:作曲しているときは意識してなかったけど、とにかく小さい頃から聴き続けていたから、何らかの形で反映されているだろうことは充分考えられる。


JT:楽器を演奏し始めたのは?

GV:ギターを弾きだしたのは14歳の時だ。


JT:音楽学校に入学したのは?専攻は?

GV:14歳の頃にはクラシックとロックのレッスンを受けていた。ジャズの勉強を始めたのは16歳のときだ。


JT:プロとして演奏を始めたのは?

GV:高校の頃からクラブでは演奏していた。いろんなバンドでプロとして演奏を始めたのは音楽院時代だ。


JT:バークリー音大の奨学生に選ばれたのは?

GV:バークリーが年に一度開催している「バークリー・イン・プエルト・リコ」というプログラムだ。


JT:バークリーへの入学を断念して地元で勉強を続けることに決心した理由は?

GV:当時は地元の学校のプログラムに興味があったから。地元の教科は新鮮で皆とは違うことに挑戦してみたかったんだ。バークリーには誰もが行きたがっていたからね。もうひとつの理由は、当時すでにフェルナンド・マッティーナという素晴らしいギタリストのレッスンを受けていたこともある。彼はミュージシャンとしても素晴らしく、プエルト・リコ音楽院の教師でもあったんだ。だから続けて彼の教えを受けたかったこともある。音楽院ではエディ・ゴメスが客員教授として教えていることも知っていたし、エディには教えを受けたり、一緒に演奏してもみたかった。そんなわけで、地元で勉強を続けることにしたんだ。


JT:バークリーでは世界中から集まった才能に出会えるチャンスもあるよね。

GV:その通りだと思う。素晴らしいミュージシャンにもね。だけど、プエルト・リコも捨てたもんじゃない。


JT:判断は正しかったと思うんだね。

GV:そうさ、自信を持って言える。当時僕が興味をもっていたこと、必要としていたものはすべてプエルト・リコにあったし、プエルト・リコでなければ実現できなかった。僕が一緒に演奏してきた仲間とデビュー・アルバムも作りたかったし、それも実現できた。


JT:ところで、好きなミュージシャンやギタリストは?

GV:興味の範囲は広いからねえ。ジャズ、クラシック、映画音楽、ロック、ブラジリアン、ポスト・ロック、エレクトロニック、アンビエントもだ。ミュージシャンでいえば、ウェイン・ショーター、ニル・エヴァンス、ジム・ホール、チャーリー・パーカー、ケニー・ウィラー、エスビョルン・スヴェンソン、ブラッド・メルドー、マーク・ターナー、シームス・ブレイク、トマス・スタンコ、エンリコ・ラヴァ、クルト・ローゼンウィンケル、パット・メセニー、ジェシ・ヴァン・ルーラー、マイク・モレノ、ケニー・ギャレット、デイヴィッド・サンチュス、ミゲル・ゼノン、デイヴィッド・ビニー、アレックス・シピアジン、エドワード・サイモン、デイヴィッド・キコースキー、エルメート・パスコアール、ミルトン・ナシメント、カエターノ・ヴェローゾ、ストラヴィンスキー、ラヴェル、ドビュッシー、バッハ、バルトーク、メシアン、ウルリッヒ・シュナウゼ、アフェックス・トウィン、ブライアン・イーノ、ロビン・ガスリー、ボード・オブ・カナダ、菅野よう子、植松伸夫、ハンス・ツィンマー、クリフ・マルチネス、ハンモック、シガー・ロス、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ、モグワイ、レイディオヘッズ、ピンク・フロイド、ラルクアンシェル、ビョルク、ディペッシュ・モード、ソダー・ステレオ、レッド・ツェペリン、M83、スティング.....。


JT:なかでも影響を受けたと思われるミューシシャンは?

GV:難しい質問だね。皆それぞれ何らかの意味で影響を受けていると思うからね。なかでも一番と言われるとやはり兄貴のカルロス・ヴィセンスといわざるを得ないね。彼は小さい頃からいろいろ新しい音楽を聴かせてくれたし、彼から学んだことは半端じゃないね。


JT:メインのギアは?

GV:いま使っているのはフェンダーとイーストマン。アンプはアコースチック・イメージでスピーカーはレッドストーン・オーディオだ。


JT:最後に夢を教えてくれる?

GV:夢はいろいろあるけど、今のところは僕のバンドで僕の音楽を聴いてもらうために各国を巡演したいのと、サイドマンでもいいから各地を巡って見聞を広めたいことかな。











JAZZ TOKYO
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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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