#  111

デュオ・ガッザーナ:ナターシャ・ガッザーナ(vln) & ラファエラ・ガッザーナ(pf)|
Duo Gazzana: Natascia Gazzana. Violin & Raffaella Gazzana, piano

Interviewed by Kenny Inaoka via e-mails, October, 2012
Photos: Evandro Inetti & ECM Records

昨年9月、ECMから『Five Pieces』(ECM New Series 2238)でCDデビューしたイタリアの姉妹デュオ。姉のラファエラがピアノ、妹のナターシャがヴァイオリン。文学を中心に日本に強い関心を示す。2008年、岐阜市との姉妹都市30周年を記念してフローレンス特使として来日、各地で演奏会を開催。アンドレイ・タルコフスキー Jr. の映像とのコラボレーションによる「俳句プロジェクト」の展開を企画中。

http://www.duogazzana.com/index_full_screen/index_eng.html#/home
http://player.ecmrecords.com/duo-gazzana

♪ 東洋と西洋の邂逅をテーマにデビュー・アルバムをECMから


JT:ECMからのデビュー・アルバム『Five Pieces』についてですが、武満徹からシルヴェストロフまでの4曲を通して何を表現したかったのか、何か共通のテーマを見つけたのか、あるいは差違を見出そうとしたのか、はたまた何かストーリーのようなものを語りたかったのか、意図したものは何でしたか?

DG:あのアルバムで意図したものは東洋と西洋の邂逅でした。年齢も背景も異なる4人の作曲家の音楽を通して、われわれはひとつの方向性を打ち出したかったのです。ヒンデミットの中央ヨーロッパ的古典主義、ヤナーチェクのソナタの戦後東欧性から武満の極東の高度に洗練された音楽を経由して唯一現役のウクライナの作曲家シルヴェストロフの旋律まで、という流れですね。


JT:あの4曲はデュオを組むふたりの演奏家がデュオ・アルバムを制作する常道のようには思えなかったのですが。ふたりがソリストとしてそれぞれ存在し、ソリストと伴奏者というコンビではなかったこともその理由に考えられますか?

DG:その通りですね。われわれはデュオ・ガッザーナというデュオを組んではいますが、あくまでそれぞれが独立した奏者であり、アンサンブル用に作曲された楽曲にそれぞれが独自の立場で演奏に貢献しているのです。


JT:これらの4人の作曲家は何れも中央ヨーロッパの出身ではありません。あなたがたは中央ではなく周縁の文化に興味を示す方でしょうか?もし、そうであれば、その理由は?

DG:その作曲家がどういう出自であろうと私たちは、その音楽家の音楽を探究し、深奥に迫ろうと試みるだけです。


JT:この選曲にプロデューサーのマンフレート・アイヒャーのアドヴァイスが反映されていますか。あるいはあなた方独自の選曲ですか。

DG:私たちにとってまったく未知の作曲家であったシルヴェストロフを紹介してくれたことについてはマンフレートに感謝しています。私たちはたちまち彼のメロディーの虜になってしまったのですから。リスナーにも彼の美しい音楽を知ってもらいたいと思い、彼の<Five Pieces>をCDに収録し、アルバム・タイトルにすることを決めました。その他の楽曲についてはマンフレートは私たちの選曲を全面的に支持、20世紀と21世紀の音楽を演奏したいという私たちの決意を後押ししてくれたのです。


JT:マンフレートと知り合ったきっかけは? ECMでデビュー・アルバムを制作するに至った経緯を教えてもらえますか。

DG:マンフレートとはローマで映画『Sound and Silence』が上映されたときに出会いました。共通の友人の紹介によるものでしたが、私たちのデュオにとても興味を示してくれ、録音した演奏を聴かせて欲しいと言われたのです。数日後、彼から電話があり、演奏にとても興味があると言われました。それから何度か私たちの演奏会に足を運んでくれ、録音の話に発展したのです。


JT:ルガーノのスタジオはECMファンにはあまり馴染みがないと思うのですが、どんなスタジオでしたか。

DG:そんなことはありません。ECMにはこのスタジオで録音された素晴らしい作品がいくつもありますよ。例えば、(アンドラーシュ)シフのバッハ、(アヌアル)ブラヒム、ボボ・ステンソンとか!ミケランジェリも何度か録音している今や伝説的なスタジオですよ。すべて木製のもっとも評判の高い音響的にも完璧なスタジオのひとつです。演奏家同士もお互いの演奏が理想的な状態で聴き合えるのです。それに、素晴らしいスタインウェイが2台常備されていて、演奏家は気に入った方を選べるのです。


JT:レコーディングはスムーズに進行しましたか? 何日かけて?

DG:すごく集中力が高まっていましたが、緊張はしませんでした。マンフレートの素晴らしい感受性のお陰で、どの瞬間も平常心を失うことはありませんでした。通常のECMのレコーディング・セッションと同じく、3日間で終えることができました。



♪ 新旧の日本の文学を日常的に読んでいます


JT:来日の経験があるそうですが?

DG:2008年に岐阜市とフローレンスの姉妹都市30周年の機会にフローレンス市の特使として日本を訪れました。日本政府の招きでもありました。秋田、東京、京都、岐阜で演奏会がありました。


JT:どんな内容の演奏会でしたか?

DG:ベートーヴェンのソナタ、パガニーニ、ブラームスなどクラシック作品の他に、秋に相応しい<赤とんぼ>や<紅葉>など日本のメロディーも演奏しました。


JT:日本を楽しみましたか?

DG:予想を超えた素晴らしいものでした。人々と接したり、コンサートに出演したり、公式、非公式のミーティングに参加したり、とても充実した内容でした。日本は伝統と近代がうまくマッチしていてとても興味があります。パチンコというおかしなゲーム、六本木の森タワー(六本木ヒルズ)の夜景(今でも目に焼き付いています)、茶の湯、岐阜の鵜飼い、秋田の和風旅館、忘れ難い京都の時代祭り、神戸牛(あれを食べたら他のビーフが食べられなくなってしまった)、日本酒、松茸、大好きになった歌舞伎座、どれも素晴らしい経験でした。能楽堂を経験できなかったのはとても残念ですが、次回のお楽しみにしておきます!


JT:日本の伝統音楽を聴く機会はありましたか?

DG:日本とヨーロッパで何回かは聴きました。伝統楽器を使った音楽が多かったです。京都では雅楽のコンサートのあとで、箏と尺八と共演する機会ももらえました。


JT:来日する前に、日本の文化について調べたりする時間がありましたか?

DG:日本の文学や文化にはもともと親しんでいたのです。村上(春樹)、吉本(ばなな)、小川(洋子)、イシグロ(カズオ)などの現代の作家の他に、谷崎(潤一郎)や三島(由紀夫)、川端(康成)など日常的に読んでいましたから。『源氏物語』は素晴らしい体験でした。小津(安二郎)や黒澤(明)、溝口(健二)の映画も好きですし。基本的に日本の人たちや、われわれとまるで違う生活習慣に興味があるです。


JT:ところで、あなた方がそれほど日本に興味を持つようになったそもそものきっかけは何だったのでしょう?

DG:日本文学です。そしてそこから垣間みえる日本人の生活習慣です。そして日本人の持つ優美さとモノに対する接し方。あたかもモノに人格があるかのような接し方。私たちの文化にはないものです。そして私たちが出会う日本の人たちが私たちを急速に日本へと近づけたのです。



♪ タルコフスキーJr.と進める「俳句プロジェクト」


JT:新しいプロジェクト「俳句プロジェクト」について説明してもらえますか?

DG:これは、われわれ「デュオ・ガッザーナ」と映画製作者でインターナショナル・タルコフスキー・インスティチュートの代表でもあるアンドレイ・タルコフスキー Jr.との共同プロジェクトなのです。そもそも集中的に俳句を研究しているうちに閃いたものなのですが、俳句というのは日本独特の審美感や感情を伝えるに完璧な詩型だと思うのです。つまり、俳句は人生の無常観や、素朴ではかなく憂いを含んだ美を喚起させるワビ、サビを理想的な形で伝える力があります。芭蕉の俳句にみられるように、人と自然の深いところでの交感が日本人の自然に対する親和性を強く醸し出しています。俳句から触発されたわれわれの音楽とタルコフスキーの映像によって異なるアートの融合を生み出し、俳句という詩型の突出した強靭さを訴求するのです。映像と音楽は移り変わる東西の四季をテーマにしており、日本の文化と西洋の文化の融合と相互の影響、両文化の親和性を浮き彫りにしています。このプロジェクトはまた日本の伝統文化に対するわれわれの畏敬の念の現れでもあるのです。



♪ 日本を再訪することが目下の夢です!


JT:生まれは音楽一家ですか?そうであれば両親が演奏していた楽器は?

DG:両親は高校のラテン語とギリシャ語の教師でした。ふたりともクラシック音楽の大ファンでしたが楽器は演奏しません。父は大変耳が良く、趣味でヴァイオリンを製作していました。


JT:音楽に興味を持ち出したのは何才くらいの時ですか?

DG:幼少の頃からですね。両親が好きだったクラシックをたくさん聴きました。ラファエラはウラジミール・ホロヴィッツが、ナターシャはアイザック・スターンがそれぞれアイドルでした。


JT:最初に楽器を手にしたのは何才の時ですか?

DG:小学校の時、8才くらいでした。姉のラファエラはピアノを、しばらくして妹のナターシャがヴァイオリンを始めました。


JT:専門教育の方は?

DG:ローマのサンタ・チェチリア音楽院で学位をとり、その後、スイスのローザンヌ音楽院を卒業しました。その後も、ザルツブルグのモーツァルテウム、ベルン、ジュネーヴ、シエナ、イモラなどでマスタークラスのレッスンを受けました。


JT:大学での専攻は?

DG:ナターシャはヴィジュアル・アーツ、ラファエラはイタリア文学と音楽学です。


JT:大学で専攻した学問が音楽に影響、反映されていると思いますか?

DG:もちろんです。音楽を含めて芸術一般、ヴィジュアル・アーツはいうまでもなくそれぞれが密接な関係を持っています。音楽を演奏する際にその他の芸術が音楽の理解力を深めてくれるのです。逆に、音楽を通して人間的な、また感情面での体験がさらに意味を増してくるのも事実です。


JT:クラシック以外の音楽も聴いていますか?

DG:はい。ラファエラはジャズが好きで、この点、マンフレートの手引きに感謝しています。ナターシャは他国の伝統音楽が好きです。


JT:ECMの提示する音楽はどうですか?

DG:その懐の深さと質の高さは驚くべきもので、彼らの営為には心から感謝しています。ECMのもっとも優れているところは、出自の異なる同時代の作曲家の“新しい”音楽を提示していることでしょう。これは他のレーベルにはおそらく期待できないことだと思います。


JT:あなた達はデュオで演奏することが多いのですか?時にはソロで演奏することもあるのですか?

DG:ほとんどがデュオでの演奏です。時にはソロで演奏することもあります。


JT:生活も一緒ですか?

DG:私たちの生活拠点は同じではありません。リハーサルや旅行、コンサートなどで一緒になることが多いのですが、離れて生活していることで出会いが新鮮なものになります。


JT:仕事がないときはどのように過ごしていますか?

DG:音楽を聴いたり、読書をしたり、映画を観たり、旅に出たり..。


JT:最後に夢を聞かせて下さい。

DG:ふたりともたくさんの夢があります。なかでもナターシャの夢は、ストラディヴァリウスかグァルネリを弾いてみることです...。 そして、私たち共通の最大の夢はもう一度日本へ出かけることです!去年3月の惨事には大変胸を痛め、フローレンスで何度かチャリティ・コンサートを開きました。被災者の皆さんには精神的な回復に努めて、早く明るい笑顔を取り戻していただきたいと思います。


















JAZZ TOKYO
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追悼特集
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
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by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

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