#  112

アンドレ・マトシュ(ギタリスト) & サラ・セルパ(ヴォーカリスト)|
Andre Matos(g) & Sara Serpa(g)

インタヴュー:2012年10月2日 Via E-mail (インタヴュー・サイト”Entre Vistas“にて10月3日掲載)

インタヴュアー:ヌーノ・アブレウ(Nuno Abreu;“Entre Vistas”主宰)
ポルトガル語⇒日本語訳:伏谷佳代 (Kayo Fushiya)
協力:Izumi Production/Sara Serpa

Foto: José Sarmento de Matos
(c)ジョゼ・サルメント・ド・マトシュ

<はじめに>
ポルトガルのジャズを周辺とするシーンが近年注目を浴びているが、ポルトガル出身で欧米の大都市に移住して活躍するミュージシャンも数多い。ニューヨークを拠点とするヴォーカリストのサラ・セルパは、そのなかでも最も成功し、今後の活躍が期待されるひとりだろう。ピアニストのラン・ブレイクなど、彼女の実力を称賛するミュージシャンも多い。サラのバンドのメンバーでもあり、私生活でもパートナーであるギタリストのアンドレ・マトシュとともに、ポルトガルのインタヴュー・サイト『エントレ・ヴィシュタシュ』に回答したものを版元と本人の許可を得て、日本語に翻訳させていただいた。ポルトガル人らしい誇り高い開拓精神とともに、昔も今も変わらぬジャズの一大中心地のひとつであるニューヨークの、ミュージシャンに共通する事情など、歯に衣着せぬ発言が気持ちよい。インタヴューはすべてヌーノ・アブレウ氏によるものだが、注釈のみ補足させていただいた。サラとアンドレはそれぞれ新譜もリリース予定で、追ってJTでレヴューできればと思っている(伏谷)。 「今は世界は開かれていて、国境なんてないようなもの。僕たちは世界のミュージシャンだと思っているよ。」

「今は世界は開かれていて、国境なんてないようなもの。僕たちは世界のミュージシャンだと思っているよ。」


数々の偉大なるジャズ・ジャイアンツがプレイしてきた街・ニューヨーク。ポルトガルから米国へ立ち、かの地で音楽を学び、バルやクラブでプレイする。サラ・セルパとアンドレ・マトシュ夫妻がEメールによるインタヴューに答えてくれた。ふたつの国を隔てる地理的距離を考えると、ほぼ「ふたつの世界」を跨いでいるといえる。


Q: ポルトガルからボストンへ、そしてニューヨークへ。移住の動機はジャズだけによるもの?それとも人生を変えたいという意図もあって?

A&S; 時期は異なるのだけれど、僕もサラもバークレーで学ぶのにボストンへ行く機会に恵まれてね。移住は音楽的な動機だよ。ふたりが一緒になったのはもっとあとかな。ふたりともニューイングランド音楽院の大学院に行っていて。修士のあとにニューヨークへ行くことはごく自然の行程。ニューヨークへ行ってアーティストとして駆り立てられ、芸術的な刺激も受け、プロとしての生活に採り込まれるのに時間はかからなかった。幸運なことに、プロの世界に順応する糸口を早くつかめたと思う。

Q: ニューヨークにおいて、アメリカ人であれ外国人であれ、プロのミュージシャンとして在ることは難しい?

A&S: ニューヨークがいろいろな文化の要素を少しずつ持っているにしても、外国人は外国人に過ぎない。音楽においては、一方で伝統的なもの(ジャズであれ何であれ)を学んでその型に自らを押し込めるとしても、他方でそこに自分たちのヴィジョンや感性を持ち込むのはごく自然のこと。自分たちの音楽のフィールドでは、まあ人間関係にしてもそうだけれど、特定の音楽のフォームに行きついてしまうことがママあるね。それは結局、コミュニケーションの最良のツールとしての音楽の形態であるわけだけれども。僕たちは一緒に仕事をする人間の個性に対して最大限に尊重しつつ、オープンでいたいと思っている。ある種のショックとか挑発みたいなものが生まれて、養分となり、思わぬコンビネーションが生まれるところまでね...。音楽が僕たちを束ねている。でも、これはニューヨークに限ったことではなく、訪れるいろいろな場所で地元のミュージシャンたちと切磋琢磨するなかでいつも起こり得ることだけれども。多国籍編成の一例はサラのクインテット(※1)。最近、リスボンのホットクラブ(※2)で演ったときの編成は、ポルトガル人ふたりに、ドイツ人・日本人・アメリカ人がひとりずつ。とてもうまく行ったよ!

Q:ニューヨークで活躍する他のポルトガル人ミュージシャンとは知り合いましたか?

A&S; もちろん。でもポルトガル時代から知っている人たちが多いかな。数年前まではニューヨークで勉強しているミュージシャンたちは沢山いたけれど...。最近では僕たちとジョアオン・ギラマインシュ(サックス奏者)くらいかなあ。今は好んで試行錯誤しているようなものだけれど、自分たちでしかない音楽をやれていると思っている(もちろん、ジャズとインプロヴィゼーションのフィールドで)。それでも、自分たちが住んでいる市街地には、(ミュージシャンに限らず)たくさんのポルトガル人アーティストがいるよ。

Q: ニューヨーク・タイムス、オール・アバウト・ジャズなど...、大御所の批評家たちもあなた方を絶賛しましたが。やはり虚栄心を満足させられるものがあった?

A&S; 虚栄心なんかはないけれど。でも、人が気に入ってくれているのを知ることはうれしい。

Q: 批評、より正確には批評家たち、という存在はバンドのキャリアにとって重要だと思いますか?

A&S; 称賛されようが叩かれようが、自分たちの知名度を上げる、という一点のみにおいて重要だと思っている。もっと実験的でオルタナティヴな音楽の場合でも、集客力をあげて認知されるということは重要だ。また、そういった宣伝のことばかりをいつも考えないようにもしなければならない。多くは広告とかエージェントの都合であって、演っている音楽の質や量に拠っているわけではないのだから。理想的なのは、広報を担当してくれて、ミュージシャンがより音楽に没頭できる環境を整えてくれるような特定の人間をもつことだけれど。まあ、そうした環境にいるミュージシャンは稀かな。

Q: サラに質問ですが、2008年にアメリカで発売されたアルバム『プライア』の評判は?

S: 『プライア』は北米では批評家もふくめて評判は上々でした。でもね、もうリリースから4年も経っているので。その後、すでに2枚のアルバムを発表しています。ピアニストのラン・ブレイクと組んだ『カメラ・オブスキュラ』(※3)を2010年に、自己のクインテットの『モービル』(※4)を2011年に出したわ。今年の11月にも新譜をリリース予定で、タイトルは『オーロラ』、これもラン・ブレイクとのデュオでリスボン録音です。

Q: 他のアーティストのアルバムにも複数参加されていますが。おふたりでのアルバムの予定は?

A&S: すでにデュオでいくつか録音は済ませていて、近くアルバムとして結実すればいいと思っているのだけれど。リスボン、ニューヨーク、サン・ルイス・オビスポなどではライヴでお披露目もしたし。レパートリーも豊富で...。でもアルバムとしてどの曲を選ぶかのコンセンサスがいまいち取れていなくて(笑)。でも2013年までには解決すると思う。そうこうしているうちにも、間もなくそれぞれの新譜が出る。サラのデュオ・アルバム『オーロラ』。これはピアニストのラン・ブレイクと。そして僕のトリオ『ウ・ラガルト』(※5)。これはベーシストのデミアン・カバウドと、ドラマーのコリン・ストラナハンと。

Q: インストゥルメンタルとヴォーカル、どちらがよりお好みですか?サラの答えは推測できようものですが...。

A&S: 両方かな。実際、ジャズに限らず僕たちはあらゆる音楽が好きでね。昨今流行っているようなヴォーカル・ジャズにはあまり惹かれないけれど。あまりにもコマーシャリズムに走り過ぎているようで...。僕たちは率直で、クリエィティヴな音楽が好きだ。それを演っている人間の個性が反映されているようなね。インストゥルメンタル対ヴォーカル、なんていう、売れ筋みたいな考えにとらわれていない音楽が。

Q: どんな音楽に影響を受けてきましたか?

A&S: ありとあらゆる。何が難しいって、いまこの瞬間だけでもそれぞれ10人ずつくらい名前があがってしまうこと(いつものことだけれど!)。

S: ラン・ブレイク、グリェルモ・クライン、ウェイン・ショーター、ビョーク、ビートルズ、ダニーロ・ペレス、アビィ・リンカーン、ディアフーフ、アルヴォ・ペルト、サラ・ヴォーガン、ジョアン・ジルベルト。

A: ディアフーフ、ジム・ホール、ソニー・ロリンズ、ポール・ブレイ、マディ・ウォーターズ、ベーラ・バルトーク、ビル・フリゼール、カルロス・パレージス、アタウアルパ・ユパンギ、ビリー・ミンツ。

Q: ボストンで知り合って、2008年に共にニューヨークへ。音楽的な環境において、ふたつの都市の違いは?

A&S: 僕たちにとって、ボストンは良き時代を過ごした街というか。教授陣や自分たちのアイドルだったミュージシャン達とともに徹底的に学んだからね。学生としての落ち着いた生活だよ。ボストンは本質的には大学街なんだけれど、不思議なことに文化的な環境にさほど激しい変化はないんだ。こうして学業を終えて、移住することに決めた。実際、音楽を生で演奏したり聴いたりできるスペースがなかったので。ニューヨークはいつも沸騰しているというか、止まらない街だ。ここで創られる音楽にもそれは反映されている。ミュージシャンたちは一点集中主義的で個人主義者。それでいて相互扶助的なコミュニティは形成されているけれどね。刺激的な反面、絶え間ない挑発を受けているようなもので。そして挑発によって僕たちは成長させられている。

Q: ポルトガルのジャズ・シーンはフォローしていますか?また、今後どのように進展すると思いますか?

A&S: ポルトガルのジャズは急速に発展している。ポルトガルに里帰りするたびに、未知の、若い世代のミュージシャンがどんどん出ている。バックグラウンドもじつに様々だ。とても良いことだと思う。だって、いつまでも同じ人たちばかりというのもね。ヴァラエティに富んでいて、いつも驚かされているよ。新しい版元もできているし、外国人ミュージシャンとの多様なコラボも盛んだ。こうした交感すべては、アーティストと聴衆双方の意識を拡張させるのにとても好もしいよ。

Q: ポルトガルに戻ってミュージシャンとしてやっていくことは考えていますか?

A&S: 僕たちはすでにポルトガルでもミュージシャンだよ。でき得るかぎりあっちでも演っているし、友達もたくさんいる。いつもベストを尽くして仕事しているよ。今は世界は開かれていて、国境なんてないようなもの。僕たちは世界のミュージシャンだと思っているよ。



<注釈>
※1 サラ・セルパ・クインテットのレギュラーメンバーは、Sara Serpa(サラ・セルパ; vo)、Andre Matos (アンドレ・マトシュ;acoustic & electric guitar)、Kris Davis (クリス・ディヴィス;pf & fender rhodes)、Ben Street (ベン・ストリート;b) 、Ted Poor (テッド・プア;ds)。

※2 ホット・クラブ・ド・ポルトガル(Hot Club de Portugal)…ポルトガルのリスボンに1945年からある老舗のジャズクラブでポルトガルのジャズ・シーンの中心を担う。国内外のミュージシャンによるライヴのほか、ジャズ・スクールも開講して地元の若い世代の育成にも貢献している。サラ・セルパもこのクラブのスクール出身(http://www.hotclubedeportugal.org/)。

※3 インナー・サークル・ミュージックより発売中。サイトで視聴もできる(⇒http://www.innercirclemusic.net/store/product_info.php?cPath=21_47&products_id=61)。

※4 同じくインナー・サークル・ミュージックより発売中(⇒http://www.innercirclemusic.net/store/product_info.php?cPath=21_30&products_id=77)。Five by Fiveの伏谷によるレヴュー(http://jazztokyo.com/five/five904.html)のほか、JazzTokyoでは多田雅範氏のコラム「タガララジオ25」にも言い得て妙の言及あり(⇒http://jazztokyo.com/column/tagara/tagara-25.html)。

※5 “Lagarto”は英語でいう“Lizard”、すなわち「トカゲ」の意。ベースのデミアン・カバウドはアルゼンチンのアーティスト。

【関連リンク】
http://www.andrematosmusic.com/
http://www.saraserpa.com/
http://entre---vistas.blogspot.pt/

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