#  113

来日直前緊急インタヴュー
チャールス・ロイド (sax,flute)|Charles Lloyd (sax,flute)

協力:ユニバーサル・ミュージック
翻訳:坂本 信
Photos:Dorothy Darr

♪ 映画を通じて日本に強い親近感を持つようになった


Q:日本に強い親近感を持っておられるようですが,,,。

CL:私にとってこの日本公演は、幸先の良い新年のスタートとなるでしょう。

 私は日本に対して強い親近感を持っていますが、その理由は映画にあると思います。大学生の頃には、黒澤映画を観て大きな感銘を受けました。彼には傑作がたくさんありますが、中でも『羅生門』と『デルス・ウザーラ』は抜きん出ています。それから、溝口監督の『雨月物語』も忘れ難い作品です。


Q:初来日のことを覚えておられますか?

CL:私が最初に日本を訪れたのは1966年か1967年のことでした。素晴らしい写真家であり、東京でDIGやDUGというジャズ喫茶も経営する、中平穂積氏の招きによるものです。彼はジャズに対する開かれた耳と、ステージの上やステージを離れたところで非常に貴重な瞬間を捉える目を持っていました。私たちは1966年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの時に友達になり、彼はその後、グリニッチ・ヴィレッジの私のロフトに遊びに来てくれました。当時スイングジャーナル氏の編集者だった児山紀芳氏と出会ったのも、同じ頃のことです。私たちは2008年にNHKのラジオ番組で再び会うことができましたが、それはとても楽しい、心温まる再会でした。彼はとても感受性の強い人です。


Q:琉球諸島にも行かれたとか。

CL:1960年代には、琉球諸島にも連れて行ってもらいました。現地では非常にソウルフルな伝統音楽も聴く機会がありましたが、それは私が少年時代を過ごしたメンフィスや、ミシシッピにあった祖父の農場で聴いた、ブルースを思い起こさせるものでした。


Q:デザイナーの山本耀司さんのモデルにもなられました。

CL:近年になって、私は素晴らしいデザイナーでミュージシャンでもある山本耀司氏とも友達になりました。彼とはいくつかのプロジェクトでコラボレートしましたし、私は彼がデザインした服も着ています。



♪ ニュー・カルテットは最初のカルテット以来最高のもの


Q:キース・ジャレットを含む最初のカルテットでは何を目指していましたか?

CL:私がキース・ジャレット(p)やジャック・ディジョネット(ds)、セシル・マクビー(b)と組んだ最初のカルテットは、素晴らしいグループでした。私たちはアルバム『フォレスト・フラワー』を通じて世界的に知られるようになりましたが、1960年代の終わり頃、私は内面に多くの問題を抱えるようになり、それが音楽にも影響して、私の生活も破綻してしまいました。そこで、私はグループを解散し、音楽から離れたのです。私たちが一緒に活動したのは、わずか4年間でした。世界を変えるのが私の夢でしたが、まずは自分が変わらなければ、世界を変えるという希望も持てないことを悟ったのです。


Q:“ニュー・カルテット”を結成するに至った経緯は?

CL:私はより強くなり、より強固な意志を持って活動を再開しました。苦い経験と良い経験の両方から、多くを学んだのです。

 私の“ニュー・カルテット”結成には、とても不思議ないきさつがありました。親友の名手ビリー・ヒギンズ(ds)が死の床で、「僕はもう生きられないかもしれないけれど、君とはいつも一緒にいるよ」と私に言いました。彼は2001年の5月に他界しましたが、9月11日の事件があった週にニューヨークのブルーノートで行うことになっていたライヴのために、エリック・ハーランド(ds)を遣わしてくれたのです。深夜にジャム・バンドで演奏していた彼の向こう側から、微笑みながら演奏する名手ヒギンズの音が聴こえてきました。私はエリックに、数か月後のライヴを一緒にやってくれるように頼みました。そのエリックを通じて、2004年にリューベン・ロジャース(b)、2007年にはジェイソン・モラン(p)と知り合ったのです。


Q:“ニュー・カルテット”はどんなバンドですか?

CL:私はこのグループが、最初のカルテット以来最高のものだと感じています。私たち全員が、ジャズの伝統に対する愛情と、新境地の開拓者の精神を共有しています。どのミュージシャンも、私の個人的な作業に深い思いやりと寛大さをもって協力してくれます。私は高く舞い上がるのが大好きで、このグループと演奏していると、いつも親友である名手ヒギンズの存在を感じることができます。


Q:若い世代のミュージシャンとの共演はどうですか?

CL:グループは最終的に、有機的かつ神秘的な過程を経て結成されたもので、より若い世代のミュージシャンを探すことに基準を置いていたわけではありませんでした。

  しかしながら、蓋を開けてみればジェイソンもルーベンもエリックもみんな、30代の半ばということになりました。私は彼らの倍ほどの年齢ですが、そのような実感はありません。彼らは実年齢以上に成熟していますし、私は精神的な若さを保っています。肝腎なのは創造力の高さと、毎晩私と旅を続けたいと思ってくれる彼らの熱意で、私はそこからエネルギーとインスピレーションを得ています。



♪ モランとのデュオ新作は奥深い作品


Q:来春リリース予定の新作『ヘイガーズ・ソング』について教えて下さい

CL:これはジェイソン・モランと一緒にレコーディングした、奥深いデュオ作品です。(ビリー・) ストレイホーンや (デューク・) エリントン、アール・ハインズ、(ジョージ・) ガーシュウィン、ボブ・ディラン、それにブライアン・ウィルソンという、私の大好きな素晴らしい作曲家たちの作品を集めました。


Q:オリジナルはどうですか?

CL:私のオリジナル曲では、ヘイガーという人物がテーマの中心になっています。ヘイガーは私の曾々祖母にあたる人ですが、私は彼女の人生を知って深い感銘を受けました。「ヘイガー組曲」は、10歳の時にミシシッピ州南部に住む両親から引き離されて、テネシー州の別な主のもとに奴隷として売られ、14歳でその人に妊娠させられるという、彼女の人生を反映した作品です。彼女はその後、主の娘の夫に売られて、その人の専属の奴隷になりました。この作品は、奴隷として売買された多くの人たちの物語がひとつになった、複合的で入り組んだ物語なのです。


Q:「ヘイガー組曲」で描きたかったことは?

CL:「ヘイガー組曲」には、家族の喪失や孤独、将来への不安、夢、悲しみ、新たに生を受けた彼女の子供たちのための歌というように、彼女の人生の様々な局面が反映されています。音楽はいつも私を刺激し、慰めてくれましたが、私は他の人に対しても同じことができればと思っています。人生のこの時期に音楽の作り手でいられることは、私にとって光栄かつ名誉なことです。



≪来日情報≫

「チャールス・ロイド・ニュー・カツテット」
 チャールス・ロイド(sax) ジェイソン・モラン(p) リューベン・ロジャース(b) エリック・ハーランド(ds)
2013年1月4〜7日@ブルーノート東京


≪新作情報≫

『チャールス・ロイド&ジェイソン・モラン/ヘイガーズ・ソング』
ECM/ユニバーサル・ミュージック UCCE-1136 \2,600(税込)
2013/2/13発売








JAZZ TOKYO
WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.