#  123

Rony Afif/ロニー・アフィフ(ドラマー/コンポーザー)

1978年8月、レバノンのベイルート生まれ。9歳でアラビアの伝統打楽器ダラブッカの演奏を始め、19歳でドラムに転向。スティーヴ・ガッドのドラムスを聴いてジャズ・ドラムにのめり込む。ホーリー・スピリット大学で音楽学を修め学位修得。2006年、戦火を逃れてドバイに移住。2013年、NYでデビュー・アルバムをレコーディング、今年、CD『Zourouf』としてリリースした。パートナーは日本人女性。
http://www.ronyafif.com/

Interviewed by Kenny Inaoka via emails in March, 2014

♪ 『Zourouf』はデビュー・アルバムでNYに出掛けて録音した

Jazz Tokyo:『Zourouf』というCDを聴かせていただきましたが、これはあなたのデビュー・アルバムですか?
Rony Afif:その通り。僕の初めてのアルバムだ。

JT:“Zourouf”の意味を教えて下さい。
RA:”Zourouf” というのはアラビア語で、英語の“Circumstances”(環境、状況) にあたる(否定的な意味でも肯定的な意味でもなく、厳正に中立的な意味で使っているのだが)。

JT:録音はいつでしたか?
RA:2013年の7月末だった。

JT:楽曲はこの録音のために書かれたのですか?
RA:5年前に作曲したものだが、今回の録音用にアレンジをしなおした。

JT:収録された演奏について説明してもらえますか?
RA:
1. Dichotmoy of One: われわれが毎日生きていく上での双対性、二重性について語っている。学び、怠ける習慣、感情のもつれ、見通しの相反性など。具体的には、楽曲の中、とくにリズム面で相対性を持たせている。ピアノのイントロとアウトロは4/5だが、なかは6/4で書いた。
2. Time Drifting:字義通りで、時間はわれわれのコントロールを超越して流れている。瞬間瞬間を誠実に生きることを心掛けている。必然的に音楽は瞑想的になっているが、内容は濃く、豊穣である。最後のドラム・ソロは僕の時間に対する欲求不満を表している。12/8と4/4が交互している。
3. Wa Ennama: これもアラビア語で、“of course but…” (その通りだが...)の意味。われわれが日頃の生活で直面する不確実性を表しており、ちょっとした欲求不満も含まれている。メロディと7/4という変拍子が居所の悪さと不確実性を表していると思う。
4. Rony’s Lament: 国家と夢、逸失した機会に対するレクイエム。音楽にそういうムードが漂っていると思う。
5. Sakura: 僕の日本人の妻への捧げもの。われわれの素晴らしい生を生きるエネルギーを賛美して!4/4だが、そのエネルギーを伝えるためにジャジーなヴァイブななかでもロックっぽく演奏した。
6. Zourouf: 少々の悔悟を含みながらも過去の負の体験は忘れ、現在の状況を祝いたい。メロディには達成感と悔恨の感情がないまぜになって反映されている。
7. Afternoon: 1日に限らず、ひとつの人生の盛りを過ぎた頃合い。ワルツでほのかな感じを出してみた。
8. Along Came Betty: 偉大なベニー・ゴルソンへの捧げもの。7/4でシンプルに演奏した。



JT:録音はワーキング・バンドで? あるいは録音用のセッション・メンバーですか?
RA:ピアノのタレク・ヤマニはレバノン時代から10年付き合っている。他のメンバーはNYで録音の前日に会ったばかりだ。サックスはトロイ・ロバーツ、ベースはアレクサンダー・クラッフィー。

JT:アレンジはすべてタレクの手で?
RA:録音中にタレクと話し合いながら少々の手直しはしたが、基本的には全編タレクのアレンジに任せた。

JT:タレクとの付き合いは10年と長いのですね。
RA:レバノン以降相当長いブランクがあったけど、お互い音楽的な情報は交換し合ってた。ブランクは長かったけどジャズはスポンテイニアスな音楽だし、結果はタイトな上がりになっていると思う。

JT:録音でもっとも難しかった点は?
RA:いかにエネルギーをキープし、最良の形で放出させるか、という点。一つの部屋でライヴ感覚で演奏し、良くも悪くもその場で演奏した音楽をそのまま収録した。結果は聴いて判断してもらうしかない。僕らは最善を尽くし、やるべきことはやった。

JT:結果に満足していますか?
RA:これは始まりであって、さらに良い音楽を創造するように努力することは当然のことだ。現時点では努力に相応した内容で満足している。



タレク


トロイ・ロバーツ


アレクサンダー・クラッフィ

♪ ベイルートの戦火を逃れてドバイに移住したがジャズの場がない

JT:現在はどこに住んでいるのですか。
RA:ドバイだ。(註:ドバイ:アラブ首長国連邦を構成する首長国のひとつ。中東屈指の世界都市で金融センターでもある、人口210万人強)NYにはレコーディングに出掛けた。

JT:NYのジャズ・シーンの印象は?
RA:活気があって、生き生きしており、創造的。厳しそうだが刺激的でもあった。ジャンルを超えた音楽の大きな学校のようだった。

JT:生まれはレバノンですね。ドバイへ移住したのは?
RA:ドバイへ移住したのは2006年7月。その夏、戦火を逃れてね。生きていけるアテはなかったんだけど。

JT:ドバイのジャズ状況は?
RA:まだ成長段階で、かつてよりは良くなっている。

JT:クラブやフェスティバルは? ジャズ番組を放送するラジオやTVはありますか?
RA:1、2軒のジャズ・クラブはあるが、客の好みに流れているね。最終的には、ポップやロックを演奏してね。本来のジャズは特定のクラブで特定の夜にしか演奏されない、と言った方がいいだろう。僕らは毎週金曜日の夜にJazz@PizzaExpressで演奏している。(註:ピッツァ・エクスプレスはヨーロッパのピザ・レストランのチェーン店。ロンドンなどのピッツァ・エクスプレスでも夜間ジャズを演奏している)ラジオは、アブダビのクラシック・チャンネルでひとつだけ番組があり、毎日1時間だけジャズを放送している。TVのジャズ番組はない。

JT:ジャズや即興音楽専門の学校はあるのだろうか?
RA:専門学校はなく、プライベート・レッスンに頼るのみ。需要もほとんどない、と言って良いだろう。

JT:ドバイに住んでいる日本人やアジア系のジャズ・ミュージシャンはいませんね。
RA:ジャズ・ミュージシャンはいない。日本人のクラシックの演奏家は見たことがあるけど。

JT:欧米はどうですか? RA:アメリカのジャズ・ミュージシャンは居住していて、一緒に演奏している。

JT:欧米のミュージシャンが公演に立ち寄ることはありますか?
RA:大規模なフェスティバルはいわゆるビッグネームの招聘に熱心で、プリンス、スティング、ハービー・ハンコック、サンタナ、スティービー・ワンダーなど。僕らはNYからクラブにジャズ・ミュージシャンを呼び寄せて一緒に演奏し、クラブを活性化する流れを作ろうと努力している。

JT:クラシック音楽の状況はどうですか?
RA:ジャズに対する需要の低さに共通している。知名度の高いクラシックの演奏家のコンサートには富裕層の聴衆が集まる。先週の金曜日にハービー.ハンコックのコンサートがアブダビで開催されたがソールド・アウトになった。でも95%の聴衆はハービーの楽曲の名前を3曲は挙げられないに違いない。本来の意味でハービー・ハンコックの音楽に耳を傾け、楽しめる聴衆が増えれば、僕らがジャズを演奏する場がないという問題は解決するはずなんだが。

♪ スティーヴ・ガッドのドラムスからジャズにのめり込んだ

JT:生まれは、レバノンですね。
RA:1978年8月、レバノンのベイルート生まれ。レバノンは小さな国でね、 (註:人口:442万強)

JT:音楽の家系の生まれでしたか?
RA:両親は音楽家ではない。叔父が仕事の最中や結婚式で余興で歌っていたのは覚えているけど。皆、生きるのに精一杯で。僕のレバノン時代は幼いときから決して平和ではなかったんだ。

JT:音楽に興味を持ったのは何歳の頃ですか?どんな音楽に?
RA:9歳の時にダラブッカというアラビアの打楽器に興味を持って、19歳の時にドラムスを叩き出した。僕の興味の中心はアラビアの伝統音楽で、今でも伝統音楽は好きで聴き続けている。ジャズへ移行する前にロックがあって、大学で音楽学を勉強するようになってクラシックを聴くようになった。

JT:音楽の専門学校でしたか?
RA:今までドラムスの専門教育を受けたことはない。レバノンのホーリー・スピリット大学では音楽学を専攻して学位を取った。ドラムスでプロのレッスンを受けたのは2年前に初めてNYで。

JT:アラビアの伝統音楽の体験がCDに収録されたジャズ演奏に影響していると思いますか?
RA:そうは思わない。

JT:でも変拍子の多用やリズムに影響がみられると思いますが。
RA:クオータートーンを使ったアラビアのスケールやアラビア音楽の形式は使っていない、という意味では影響を受けていないが、たしかに変拍子の多用などはアラビア音楽の影響といえるだろう。何れにしても出自が中東なので、何らかの意味で影響を受けていることは間違いがない、といえる。

JT:ジャズに初めて興味を持ったのは?
RA:ロックを聴いていた頃、突然、アル・ディ・ミオラに出会ったんだ。 アルの<Race with the devil on a Spanish Highway>という曲があるんだけど、その曲でドラムを叩いていたのがスティーヴ・ガッド。そこからスティーヴにはまって、行き着いたのがチック・コリアの『マッド・ハッター』というわけさ。さらに、新しいジャズの旅が続いていった。

JT:ジャズ・ミュージシャンのアイドルは?
RA:ジョン・コルトレーンだ。

JT:ベイルートでのジャズ状況は?
RA:ベイルートのシーンは活発だったけど、不安定な環境ではどんな音楽であれ、発展することは不可能だ。2、3のクラブもフェスティバルもあった。60年代にはマイルスやディジー(ガレスピー)もレバノンで演奏したことがあるんだ。今や伝説と化しているけどね。当時はもっと文化もあった。

JT:夢を語って下さい。
RA:僕の音楽とドラミングを進化させ続けてリスナーを増やしていくことだね。


*試聴は;
https://soundcloud.com/ronyafif/zourouf-1
タレク・ヤマニ
http://www.tarekyamani.com/
トロイ・ロバーツ
http://troyroberts.com/
アレクサンダー・クラッフィ
https://www.facebook.com/alexander.claffy








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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
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・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
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