# 133
鈴木良雄
Yoshio Suzuki (bass, piano, composer)
♪ サポーターを得てデビュー・アルバム制作が実現した
JT:「ジェネレーション・ギャップ」は4番目のレギュラー・グループになりますが、結成の意図はどこにありますか。
Chin:60歳を超えてから自然と若いミュージシャンとの交流を深めたくなった。
JT:ハクエイと大村亘はオーストラリアつながりですが(共にシドニー大学音楽院でマイク・ノックに師事)、アルトの山田とトランペットの中村との出会い、彼らの持ち味について。
Chin:中村恵介(tp)はライブハウスに遊びに来て吹かしたら、すごく良かったので一緒に演ろうと誘った。山田拓児(sax)は恵介の推薦。二人ともテクニック、タイム感、歌心とどれをとっても申し分ない。
JT:鈴木さんを始め、海外での経験が長いメンバーが多いようですが、何か意図するものがありましたか?
Chin:いえ、たまたま偶然です。
JT:グループ結成(2008年)からかなり時間を経過してのデビュー・アルバムですが。
Chin:このグループはメンバーが5人の上、ONEレーベルはミックスをN.Y.でやる建て前上それなりの資金が必要で、今回、援助してくれる方が見つかったのでCD制作にこぎつけた。
JT:タモリ(註:早大モダンジャズ研究会の一年後輩)がエグゼクティヴ・プロデューサーに名を連ねていますが、彼の意見もなんらかの形で反映されていますか?
Chin:いえ、音楽的には一切口を出しません。ジャズを愛する者の一人として大きく見守ってくれています。
JT:日本で録音し、ニューヨークでミキシングとマスタリングが行われていますがこの意図は?
Chin:Jay Messinaはいつも一緒に仕事をしているチームの一人。アメリカでトップクラスのエンジニアでグラミー賞も取っている。どの楽器も完全にミックスされているだけでなく音の奥行きと空間の広がりが素晴らしい。
JT:このアルバムの最大のポイントは?
Chin:僕のもう一つのレギュラー・グループ「BASS TALK」はどちらかというと甘口のジャズ。一方、対照的に「GENERATION GAP」の若者たちとの演奏はエネルギッシュな辛口のジャズを表現したかった。和太鼓との共演は、スポンサーになってくれた僕と同郷、木曽福島出身の東さんという方が太鼓センターを経営なさっている関係で実現した。郷里の山「御嶽」(ONTAKE)という曲を和太鼓のグルーブに乗せて作曲した。
JT:全曲鈴木さんのオリジナルですが、作曲家と演奏家の関係について。
Chin:ジャズ・ミュージシャンの特徴はほとんどの人が作曲と演奏と両方やるということ。僕はベーシストでメロディー奏者としては役割上弱いので作曲によって自分を表現している。
JT:この録音でいちばん難しかったことは?
Chin:和太鼓とのレコーディングでしたが、スムーズにいきました。
JT:意図通りのアルバムが完成しましたか? 上がりに満足していますか?
Chin:大満足しています。
♪ 日米通して個性的なミュージシャンが少なくなった
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Matsuri | East Bounce | Bass Talk |
JT:先行する3つのバンド、MATSURI、EAST BOUNCE、BASS TALKについて、それぞれの結成意図を教えてください。
Chin:基本的に3バンドとも、自分のオリジナル曲を演奏するバンドに変わりはありません。メンバーが変わりバンドが新しくなる度に名前も変えたということです。MATSURIはニューヨークから帰って来て初めて作ったどちらかというとジャズ寄りのバンドで、後の二つは野力奏一(p)をアレンジャーに迎えたフュージョン寄りのバンドです。
JT:「ジェネレーション・ギャップ」も含めて今後も並行して維持していきますか?
Chin:現在でも活動を続けているのは「BASS TALK」と「GENERATION GAP」だけです。これらを並行して維持していくと共に、山本剛(p)、村上寛(ds)との「スペシャル・トリオ」も維持していきます。
JT:2011年の増尾好秋(g)とのデュオのようなサプライズもありました。今後も何か期待できますか?
Chin:もちろん次のCDのアイディア、企画もありますが、今のところまだ秘密にしておきます。
JT:デビューして45年以上が経過していますが、その間、日本のミュージシャンやライヴ・シーンにどのような変化があってと見ていますか。
Chin:基本的にはいつもアメリカのジャズ・シーンに影響を受けているという事に変わりがないけど、ミュージシャンの数が爆発的に増えた。なかでも、音楽学校でジャズを学んでプロになるミュージシャンが増え、個性的なミュージシャンが日米通して少なくなった。学校で教えてくれるのは過去のジャズ。一番大事な事はクリエイティビティだと思う。
JT:ジャズ・ファンの気質の変化について?
Chin:本当のjazz loversは非常に少ない。でも根強い。
JT:CDマーケットの変化と配信については? CDにはこだわりますか?
Chin:配信は音楽の切り売りで作品とは感じない。曲目、曲順、曲間、演奏、ジャケット、すべてを含めて LP、CDは一つの作品として存在するものでなくてはならない。
♪ 渡辺貞夫の勧めでピアノからベースに転向した
JT:音楽環境に恵まれた家庭でしたか?
Chin:恵まれていたと思います。父はヴァイオリニストでヴァイオリン製作者でもありました。母はピアニストでピアノ教師、姉はバイオリストで物心ついた時から年中バッハ、モーツアルト、ベートーヴェンなどの曲が僕の周りで聞こえていた。
JT:楽器は何をいつ頃から始めましたか?
Chin:3歳〜11歳ヴァイオリンとピアノ、15歳〜17歳ギター、18歳〜21歳ピアノ、22歳〜現在までベース、ピアノ。
JT:ジャズに目覚めた時期ときっかけは?
Chin:高校3年の時<TAKE FIVE>を聞いて。
JT:ジャズを意識して演奏し始めたのは?
Chin:大学1年の時。
JT:早稲田のジャズ研に入部しましたね? 当時の仲間には誰が? ジャズ研で学んだことは?
Chin:増尾好秋、タモリ。 ジャズ演奏の楽しさと仲間の大切さ。
JT:プロとしてのスタートときっかけは?
Chin:大学4年の時、プロのミュージシャンから声がかかってピアニストとして時々演奏するようになった。
JT:渡辺貞夫さんに言われてピアノからベースに転向したというのは事実ですか?それはいつどのような状況でしたか?
Chin:貞夫さんの下でアンサンブルを学んでいるとき、ベーシストがいなくて遊びで弾いていたベースを弾いたところ、気に入られて貞夫さんのバンドにスカウトされました。
JT:ベースをマスターするのにいちばん苦労した点は?
Chin:まだマスターしていないけど、ローポジションとハイポジションの運指をいかにスムーズに移動させるかが今でも課題。
JT:渡辺貞夫グループ、菊地雅章グループでの苦労と得たものは?
Chin:貞夫さんは最初に一番大きな影響を与えてくれたミュージシャン。プーさん(菊地雅章)は貞夫さんとは違う面の音楽的なアプローチを教えてくれた。
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『渡辺貞夫/パストラル』1969 | 『菊地雅章/エンド・フォー・ザ・ビギニング」1973 |
♪ 本来ジャズはワイルドで自然発生的なもの
JT:渡米を決心した時期と理由は?
Chin:日本でも二つのバンドである程度演奏活動したし、刺激を求めて自然とNYに行きたくなった。
JT:スタン・ゲッツ、アート・ブレイキーのレギュラーになったきっかけは?
Chin:ある時セッション仲間のドラマーの仕事に行ったらスタンのところのピアニスト、アルバート・デイリーがいて、スタンが今ベーシストを探しているけどオーディション受けるかと言われ、受けてみたら採用された。アートの場合はブーマーズというジャズクラブでアル・フォスターdsのバンド(ボブ・バーグsax、シダー・ウォルトンp)で演奏しているときにたまたまアートが遊びに来ていて2曲ほど叩いた後電話番号を教えろというので教えたら次の日アートのマネージャーから電話がかかってきて、すぐにツアーに出た。二人共ちょうどベーシストを探している時期だったようで、神様が僕にチャンスを与えてくれました。
JT:彼らのバンドでの苦労と得たものは?
Chin:とにかく最初はまだ英語が良くできなかったし、文化の違いに戸惑うことが多かった。一対一の時の会話はなんとかコミュニケイト出来たけど、複数の人たちが話している中には入っていけなくて孤独感を感じていた。音楽的にはスタンとは半年くらいと短かったしまだ足が地についていなかったので、音色がきれいだという事と演奏する時に落ち着いていて冷静だなという事以外それほど影響は受けなかった。スタンはその瞬間に頭に浮かぶアイディアを次々とインプロバイズしていくというようなミュージシャンではなかったけど頭が良くスマートな人で楽器に対してのコントロールがすごくて、いつもパーフェクトな演奏だった。
それに対してアートはアフリカの匂いが色濃く残る、緻密ではあるけど野性味を感じるミュージシャンだった。毎日ほとんど同じこと、同じフレーズを叩くのだが毎日楽しめる。初めてのツアーで一緒にやった時、ドラムソロの後あまりにもすごくて楽しかったので我を忘れて僕は聴衆の一人として拍手をしてた。
アートからは男らしさ、力強さ、それでいて繊細で音がきれいという演奏家として最も大切なものをたくさん教わった。それからリーダーとしての存在がどうあるべきかを彼の天性のものを通して学んだ。アートとやったジャズメッセンジャーズの卒業生は皆めちゃくちゃ飛躍的に成長して良いミュージシャンになっている。僕に対してはああしろ、こうしろと言われたことは一度もない。ただ一つ言われたことは何も考えずにリラックスして音楽に没頭しろ、そうしたらお前の中にある音楽が自然に湧き出てくる、と。
JT:アメリカから日本のジャズ・シーンを見る余裕はありましたか?
Chin:時々は帰国していたから、だいたい起こっていることは知っていた。
JT:帰国を決心させたものは?
Chin:子供ができたことと、N.Y.ではなかなかできない自分のバンドを作って、演奏活動をしたかったこと。
JT:現在のアメリカ、とくにNYのジャズ・シーンをどのように見ていますか?
Chin:日本も含めてJAZZがアカデミックになりすぎて面白みがない。JAZZは本来もっとワイルドで自然発生的なものだと思う。
JT:現在、著作を準備中とのことですか、どのような内容になりそうですか?
Chin:今、巷ではバックグラウンド・ミュージックとしてジャズが至る所で使われている。それなのにジャズクラブへ足を運ぶ人は少ない。ジャズに興味を持った人のために「ジャズ入門書」を新しい切り口で書いています。
JT:最後に夢を語って下さい。
Chin:日本的な感性を持って、西欧(クラシック)と米国(ジャズ)を融合させた、まだ聞いたことのない新しい美しい音楽を作りたい。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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