#  134

『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』の監修&ポーランドを訪ねて
オラシオ(音楽ライター、DJ・選曲家)

オラシオ
本名:白尾嘉規(しらお・よしのり)。1974年神戸生まれ大阪育ち。現在青森市在住。
おもにポーランドをメインフィールドとする音楽ライター。DJ・選曲家。disk union発の現代ポーランド・ジャズ専門レーベルCześć ! Records チェシチ!レコーズ監修。ライナー執筆のほか、ジャズ批評、CDジャーナル、intoxicate、会員制季刊俳誌『白茅』、ポーランド映画祭パンフレットなどさまざまな媒体に記事を寄稿。
http://ameblo.jp/joszynoriszyrao/

Interviewed by Kazue Yokoi on January 11, 2015
Photos by オラシオ

♪ ポーランド・ジャズとの出会い

KY:オラシオさんは確かポーランド専門ジャズライターと名乗っていましたよね。ジャズに限らず音楽について書いている人で、例えばフランスに詳しい、ロシアの専門家などはいるのですが、ポーランドというのはオラシオさんだけ。これってすごく珍しい存在なのですよ。そもそもポーランドの音楽にのめり込むようになったきっかけは何だったのですか。たぶんもう既に何十人もの人に聞かれているとは思いますが、教えて下さい。
O:話が少し回りくどくなるのですけれども…。10年ぐらい前まで東京に住んでいました。東京って、沢山CDが売られていますよね。アメリカだけではなく、横井さんが書いているドイツやフランスやヨーロッパ、いろいろな地域のジャズをいっぱい聴いていました。でも、情報というものは沢山入れてしまうとキャパシティがオーバーしてしまうというか、飽きてしまうのですよ。一時期ジャズに飽きて、他のジャンルを聴こうと思い立ち、ブルーグラスにハマっていたのです。それはそれでCDを色々買いに行かないといけない。CDを買いに行くと、やっぱりついでにジャズのコーナーに寄ったりしていました。確か、吉祥寺のディスクユニオンの中古CDコーナーでしたが、ズビグニェフ・ナミスウォフスキのCDがたまたま目についたのです。3枚組のCD『3 Nights』でした。僕はX枚組というCDが好きで、おまけにライヴ盤だった。ライヴ盤も好きなのです。あと、裏側にmade in Polandと書かれてあって、ポーランド語でいろいろ書かれている。なんだこりゃ、ポーランド語だから読めないし、綴りはヘンだし…。でも、僕は語学が好きで、知らない言語が書かれていること自体が面白そう、って。ポーランドだからではなく、X枚組、ライヴ盤で、知らない言葉が書かれていたということだけで手に取ったCDだったのです。
 ナミスウォフスキとはポーランドに行った時に会えました。僕はナミさんって言っているのですけど、彼はポーランドの民族音楽を取り入れて変わったジャズをやっています。すごくアレンジがしっかりしていて、当時の旬の若手、一線級のミュージシャンがメンバーのバンドで演奏しているので、フレッシュで、音がとてもきれいだった。

KY:彼はすごくキャリアが長いけれども、それはいつの録音ですか?
O:1998年ぐらい。

KY:ナミさんって、もうおじいちゃんですよね。第1回のベルリンジャズ祭に出ていたくらいだから…。日本でいえば渡辺貞夫さんのような存在かな。
O:そうですね。

KY:ナミさんのそのCDとの出会いがポーランド・ジャズに入り込むきっかけだったのですね。
O:それまで聞いてきたジャズとは、個人的な感想なのですけど、違う感じがして、こういう面白い世界があるのだなと。メンバーそれぞれの演奏もよかったので、他のミュージシャンのCDも探す日々が続いたのです。探せばあるもので、手に入れることが出来ました。演奏も僕的にしっくりきたのです。なぜしっくりきたのかというと、アレンジがものすごくしっかりしている。作り込んだのが好きなので。あと、ポーランドのミュージシャンの出す音がものすごくキレイに聞こえたのです。アヴァンギャルドなことをやっていても、出している音がきれいで。独特の美意識を勝手に感じたのです。

ズビグニェフ・ナミスウォフスキ

KY:ポーランドにハマったオラシオさんが主に聴いてきたのはジャズですか?それともポーランドの音楽全般?
O:最初はジャズだけで手一杯。当たるところ当たるところ面白くて。この数年はポップ・ミュージックとか他の音楽も聴いています。内橋和久さんがおっしゃっていたけれども、ポーランドのミュージシャンは皆ジャンルを超えて仲がよいですね。一緒にアルバムを出していなくても交流がありますね。

KY:内橋さんは大阪的だと言っていましたよ。東京は同じようなことをやっている人が集まるのだけど、他の人と交じろうとしない。向こうはかけ離れたことをやっていても仲がいいと。
O:この間、ポーランドに初めて行きました。どこでも世間的にはジャンル分けされていますよね。ところが、終演後ミュージシャンと飲む機会とかあったのですが、ジャンルに関係なくいろいろなことをやっている人がわいわい楽しくしゃべっているのです。そのひとりをつかまえて、日本ではジャンルで区分けされているから、違うジャンルのミュージシャンが一緒にいるのは珍しいと言ったら、音楽をやっている人間だから関係ないと。ヒップホップをやっている誰それと音大で一緒だったとか。大きな繋がりがあるのです。究極的にはどこの国も一緒かもしれないけれども、それを実感できたのがよかった。

♪ 『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』

KY:昨年11月下旬に監修本『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』を出しましたよね。本題に入る前にひと言、この本の装丁や造りがよかった。私はいかにもディスクガイドでございますというのがキライで…。
O:ありがとうございます。装丁は皆さんに褒められているのですよ。

KY:オラシオさんはポーランド専門ジャズライターですよね。しかし、『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』で取り上げているのは、ヴィシェグラード4カ国(V4)と呼ばれるポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーのディスク。なぜV4だったのですか?
O:それには3つ理由がありました。
 まず、2014年はV4と日本の交流年。この本を企画した時点では2014年に具体的にどのようなことが行われるか掴んでいなかったのですが、V4がらみの文化イベントが行われるだろうから、そういうところに絡んでいけるだろうと思いました。ポーランドなどの文化企画がある中でこういう本を出すことで、音楽ファン以外の層に触れられると考えたのです。
 あと、Bar Bossaというお店が渋谷にあって、そこのマスター林伸次さんは出版業界に顔が広いので、自分は右も左もわからないのでDU BOOKSを紹介してもらったのですけれども、その林さんが人のこころをキャッチすることに敏感な人だったのです。それ以前に彼にポーランドの本を書きたいと話をしたところ、ポーランドだけ、しかもジャズだけなら僕は買わないとあっさり言われたのです。僕の中ではポーランドのジャズだけで勝負できるという気持ちがあったのですが、それだとポーランドのジャズの好きな人に届いてオシマイかもしれないと思ったのです。もう少し広く知ってもらいたい、ってね。
 3つめは、ポーランド映画祭の広報をやっている小倉聖子さんが、映画祭やアニメの展覧会が点々と散らばっているだけで、繋がりがない。そういうのが繋がれば大きな波が作れる。バラバラにやっているだけでは、それぞれの固定ファンにだけ届いておしまいということを繰り返しているだけ、でっかいイベントをやらないといけない、といった話をしていたのです。これは、僕も漠然と感じていたことで、だいいちポーランドのジャズだけについて一定のファン向けに書いても先が続かない。たまたまポーランドのアーティストが国内盤を出すので、レビュー書いて下さいというのが数ヶ月に1本あるかどうかですから。そこで、小倉さんの言っているところの本バージョンを作れるなら作ってみたいと。僕はポーランドが専門だけれども、他の人の力を借りて、丁度V4との交流年だし、ということだったのです。

KY:つまり、国や地域という括りの中でも、他の文化ジャンル、例えば映画ファンなどに繋げたい。映画は音楽との結びつきもあるし、そういうファン層にも知ってもらいたい。そしてまた、ポーランドだけでは弱い、周辺の国々の音楽も含めて幅広くアピールしたい、ということだったのですね。
O:それともうひとつ。ポーランドだけでも奥が深くて、追いかけるだけで手一杯。周辺の国々も興味はあるけれど手が出せない。こういう本を作ると自分も勉強出来るかな、ということがありました。他のライターさんでも、ハンガリーは知っているけれども他は知らない、これを機会に勉強できるな、とか。筆者同士が楽しめるとも思ったのです。

KY:冒頭にV4それぞれの国の女性アーティストを取り上げていますが。
O:これは実は偶然で…。本当はそれぞれの国に詳しい方に一人づつキーパーソンを挙げてもらって、おまかせするプランだったんです。でも、そんなことの出来る人はチェコの吉本秀純さんしかいなくて。自分で調べないといけなかったのです。チェコのイヴァ・ビトヴァは決まっていて、吉本さんよろしく、だったのですが、他の3カ国がなかなか決まらなくて。ポーランドは、日本で結構人気のあるレシェク・モジュジェル、あまり知られていませんが向こうで色々なジャンルで活躍しているクシシュトフ・ヘルヂンあたりにしようかなと考えていましたが、ハンガリーとスロヴァキアがなかなか決まらない。
 打ち合わせで東京に出てきた時、ワールドディスクという目白のプログレ専門ショップでたまたま手に入れたのがサローギ・アーギのアルバムで、聴いてみたらよかった。前の日に打ち合わせした映画評論家の遠山純生さんにハンガリーはこの人がいいよと言われていたのです。名前はうろ覚えだったのですけれども、買った時にたぶん彼女のことを言っていたのかなと。サローギの共演者はハンガリーの有名なミュージシャンだったので、ハンガリーは彼女でいこうと。スロヴァキアはいろいろ調べて、ヤナ・キルシェネルに。4カ国のうち3カ国が女性だったので、全部女性にしようと。ポーランドもアンナ・マリア・ヨペクにしました。彼女はV4の親善大使だったのですよ。

KY:アンナ・マリアは昨年来日していて、一般の人にも少しは知られているので、切り口としていいなと思いました。イヴァ・ビトヴァは90年代初めに盛んに紹介されていましたが、今の動向はあまり知られていないので、これもよかったなと。サローキ・アーギは個人的に気に入った歌手だったので、単純に少し嬉しかったですね。
O:最初は、日本での知名度はどうでもよくて、ある程度現地で評価されて、いろんな人とやっていて人脈的にも繋がりのある人と考えていたのです。それで、本気でやったら女性が並んでしまったのですよ。

KY:本のページをめくるとジャズ、ロック、プログレ、エレクトニカ、ヒップホップ、クラシック、現代音楽といった色々なジャンのディスクがごちゃまぜになって紹介されています。これはもちろん確信犯ですよね。
O:こういうコンセプトの本が出た時に、国で分かれていて、ジャンルで分かれていたとします。そうすると、自分に興味あるところしか読みません。結局、横に繋がらないのです。面白い切り口は必要ですが、その切り口があまりに分かりやす過ぎると、そこを読んで終わり。こういう本を出した目的にはいろんな人に読んでもらいたいということがあります。ひとりの人間っていろんな興味の集合体じゃないですか。ちょっと関心がある部分と他を繋げられたらと思います。でも、あまりにもわかりやすい区分けなら、例えば、ここにはハンガリーのヘビメタについて書いてありますとか、そういうのなら監修する必要がないじゃないですか。それでは繋がっていかない。意外な出会いとか、この人はこういうこともやっていたんだとか、読んだ人が知らなかった部分に連れて行きたい。だから簡単に目的地には行けないようになっています。

KY:私はこの本を手にとってページをめくった時に、雑誌的な面白さがあると感じました。どんな雑誌もそうなのですが、最初のページから隅から隅まで読むというよりは、読みたい記事があって、他になんとなく見ていて気になったところを読みます。カタログ的な本とは違って、紙媒体の雑誌が持っていた良さがあるガイドブックだなと思いました。
O:僕はジャズのディスクガイドって、『るるぶ』と一緒だと思うのですよ。定番がいつも並んでいて、微妙にマイナーチェンジしているところがね。年配の評論家と話をしていると最近の音楽も皆さんしっかり聴いている。なのに、本にすると挙げるのは昔のものばかり。編集側の意向とかあるのでしょうけれど、なんでこういうことになってしまうのかと思っていたのですよ。
 自分はそういうことをしたくなかった。この本でも取り上げているのは90年代以降。コメダとかナミさんとか評論家にもDJにも評価が高いし、ポーランドの話をすると必ず聞かれるし、皆がもっと読みたいのはわかっているけど…。僕にとってディスクガイドは新しい世界に連れていってくれるものだったのです。皆がいいと言っているものを再評価するために並べるものではないのです。

KY:だから雑誌的だと思ったのですよ。雑誌で新譜が紹介されるミュージシャンは必ずしも評価が定まっている人だけではないでしょう。評価が固まる前だけど、それを読んでレコードを買いに行っていたのですよ。例えば80年代のジョン・ゾーン、こういう人がいるんだ、聴いてみようと思って皆CDを買ったりしたわけですから。この本でいいなと思ったのは今にスポットを当てていること。スピリチュアル・ジャズという括りでもディスクガイドが出ているけれども、あれって昔の録音ではないですか。もちろん初めて聴く人にとっては新譜かもしれない。でも、今生きているのに、昔のことばかり、と思うのですよね。
O:それはまさしくそう思います。

KY:あとね、音楽と関係ないコラムがちょこちょこ入っているのがいいなと。そういうコラムがあると、どういう文化的なバックグラウンド、環境にいる人たちが作った音楽なのか、どういう生活をしている人たちの間で生まれた音楽なのか、それとなく伝わってきますから。読んでいて楽しいし。
O:行ってみてわかったのですが、ポーランドでは歴史のある建物とポストモダンが同居しています。ポーランドのジャズはアレンジがしっかりしている、どういうふうに伝統を盛り込むとか創意工夫しているところは、街並みに通じるものがあるなと思いました。そして、ポーランド人気質みたいなものがあって、こういう音楽になっているのかなということが、やはり行ってみてなんとなくわかりましたね。

♪ ジャズトパド・フェスティヴァル@ヴロツワフ

KY:11月には初めてポーランドへ行ってきたのですよね。どうでしたか。
O:全身で感じてきました。

KY:具体的にどちらへ行かれたのですか。
O:ヴロツワフ、カトヴィツェ、クラクフ、ワルシャワです。ヴロツワフにジャズトパド・フェスティヴァルというのがあって、そこと、あとポーランド広報文化センターとアダム・ミツキェヴィチ・インスティテュートの3つの機関の招待で行きました。そのフェスティヴァルは日によって会場が変わります。ジャズクラブのようなところでやる日もあれば、でっかいホールでやる日もある。町外れの文化施設でもやっていました。僕はその中のポーリッシュ・ジャズ・ショーケースというのに招かれて、2日間3会場を観てきたのです。

KY:そのフェスティヴァルでは、ポーランド以外のミュージシャンも出演したのですよね。
O:10日間のフェスティヴァルで、有名なアメリカのミュージシャンも出演していました。たまたま僕が観たのがポーリッシュ・ジャズ・ショーケースだったわけで。ファラオ・サンダースなども出演していました。ファラオとカート・ローゼンウィンケルがセッションしたという話も聞きましたよ。そういうことがジャズフェスのFacebookにも書いてありました。
編集部註:http://www.jazztopad.pl/en/

KY:特に印象に残ったバンドを教えて下さい。
O:でっかいホールで3バンド出演したのですが、最初に出たのヴァツワフ・ジンペルとピアニストのクシシュトフ・ディス。ヴァツワフ・ジンペルは一昨年(2013年)の今ポラ(内橋和久による企画「今 ポーランドがおもしろい!#2」)でも来日したクラリネット奏者です。彼は、クシシュトフ・ディス、クリスチャン・レイモンド(b)とクラウス・クーゲル(ds)とバンドを組んでいて、この公演の前にもアメリカ・ツアーがあったのです。査証を取り忘れたとかなんとかでレイモンドとクーゲルが入国できず、アメリカ・ツアーはカルテットがデュオになったそうです。この時もデュオだったのですが、演奏がすごくて、僕的にはかなり素晴らしかった。それで、後でデュオ・アルバムを録音する予定はないか聞いたのですが、ないと。「僕の音楽はカルテットのために書いたもので、アクシデンタルな理由でデュオになっただけだから」と言っていました。世界中からオーガナイザーが招待されて、後でメール交換したりしたのですが、みんなアレがよかったねと言っていましたよ。

KY:具体的にどのような演奏内容だったのですか。
O:ヴァツワフはインドやアジアの民族音楽をすごく勉強している人で、そういうころからリフや旋律を取り入れて曲をつくっている。そうなんだけど、ジャズ・インプロヴィゼーションとしても凄くって、ある意味クラシック的な響きもあり、上手くミックスされていましたね。民族音楽的ジャズとかクラシック的なジャズというのとはちょっと違う。新しいものを見せてくれたなという感じ。激しいインプロヴィゼーションもきちんと抑制されていて、音楽がドライヴしている。リズムも複雑でした。

KY:それ聴きたいなあ。
O:クシシュトフ・ディスは、終わった後の飲み会には来なかったのですけれど、アーティストのみんなも口を揃えて「あいつは凄い」って言っていて、「彼の演奏は観た?」と話題になっていました。「オープンマインドですごい奴だよ」って。

KY:他には?
O:ピアノ・フーリガンと名乗っているミュージシャンがいるですが、彼はモントルーのピアノ・コンペティションで20歳で優勝しているんです。その彼のアヴァンギャルドなジャズグループでハイ・デフィニションが面白かった。ルトスワフスキの<ブコリキ>という曲があって、ポーランド民謡の旋律を取り入れた曲なのですが、それを元にインプロヴィゼーションをやって、それはものすごくよかったです。ピアノ・フーリガン名義で演奏する時はソロなのですが、現代音楽的でジャズではない、かと言って現代音楽とも違う。モントルーのピアノ・コンペで優勝した後、CDデビュー作はどんなジャズ作品になるのかと思っていたら、ピアノ・フーリガン名義でロンドンのDeccaからペンデレツキの曲を演ったのを出したのです。特殊奏法とかいっぱい使って、いっぱい色々な音を出している。前から注目していたこともあって、彼のグループを観れて良かったです。

KY:そのCD、本でも紹介していましたよね。付箋つけたから、覚えています。えーっと、本名は…。
O:ピョトル・オジェホフスキ。

KY:ハイ・デフィニションはどのようなグループなのですか。
O:説明しづらいのだけど…。ジャズがベースにあることはあるのですが、アルバムではショーターの曲とかやっていたけど、もっと現代音楽的というか、ビターな響きを全面に押し出している感じですね。リズムもごつごつしている。でも、ジャズのリスナーが聴いても十分スリリングです。マッシヴに盛り上がるのではなく、間を生かす感じがありますね。

KY:あとヴロツワフのフェスで印象に残ったことは。
O:かなり若い人が来ているのですよ。それはびっくりした。会場でも若い人が働いていました。

KY:それは素晴らしい!ジャズというとファン層の年齢が上がっていて…。
O:ヴロツワフ自体が大学生の街と言われているので、元々若い人が多いということもあるそうです。仕切っている人も若い。僕は今40歳なのですが、僕より少し下、30代前半の人が仕切っていて、全体的に若い。送り手側も受け手側も若かったですね。

♪ カトヴィツェ、クラクフ、ワルシャワ

KY:その次ぎに行ったのは?
O:カトヴィツェという街で、ひとことで言うと地方のベッドタウン。駅前だけに小洒落れたデパートがあって賑わっていて、電車とかバスに乗って行くと周囲に団地みたいのがある。なぜそこに行ったのかというと、ひとつは最近70年代の発掘音源をCD化するレーベルGAD Recordsがあって、そのオーナー、ミハウ・ヴィルチンスキと知り合いだったので、彼に会いに行ったのです。それとグラジナ・アウグシチクのコンサートに行くつもりだったのですが、会場に行く路面電車を間違えて…。

KY:辿り着けなかった。
O:途中で気がついたのですが、終点まで行ったら、暗めの団地で降ろされたのです。バス停があるところに、行こうとしていたライヴのポスターが貼ってあったので、指さしてここに行きたいけどどうしたらいいと聞いたのですが、よくわからなくって。違う路線に乗ったら、また違うところに行ってしまって。それはそれで面白かったのですが…。

KY:あらら…、見知らぬ街では気をつけましょう。
O:いい人ばかりでよかったです。

KY:その後がクラクフでしたっけ。
O:クラクフの秋ジャズ・フェスティヴァルのトリに八木美知依さん、本田珠也さんがヴァツワフ・ジンペルと出ていました。道場プラス・ワンみたいな感じで、演奏も凄かったです。

KY:最後がワルシャワですね。
O:ワルシャワではライヴではなく、SZAZA(パトリク・ザクロツキ(vln, electrinics), パヴェウ・シャンブルスキ(cl))という二人組が、シェークスピアの演劇に音楽をつけるからというのでそれを観にいきました。彼らは内橋さんの第一回の今ポラ(「今 ポーランドがおもしろい」)で日本にも来ていて、最初のポーランド映画祭でも古いポランスキーの映画に即興演奏をつけるということもやっている人達です。演劇はポーランド語だけれども面白そうなので行きました。普通の劇場なのですが、上のほうにブースがあって、そこに二人が狭そうに座っているのですよ。普通に演劇をやるのですが、ところどころエフェクト的な音楽を彼らが加えていました。学校の授業の一環だったらしく、客席は少年少女ばかり。一流のミュージシャンが効果音をつける為にそこにいるなんて、贅沢だなあと思いましたね。

KY:そういうのはポーランドではよく行われているのですか。
O:ポーランドでは映像を流して、演奏するというのが結構行われていて、それだけのフェスティヴァルもあります。クラクフでは映画音楽祭みたいなのがあって、世界的に有名な映画をでっかいスクリーンに映して、その映画の音楽をオーケストラが生演奏するのです。例えば、『ロッキー』だったら、<ロッキーのテーマ>をオーケストラが生演奏するみたいな。そういうのばかりやるフェスティヴァルがあるのですよ。映画と音楽の関係で、ちょっと違った感覚を持っているのではないかなと思います。新しい映画と音楽との形を呈示しようとしているというのか。

♪ チェシチ!レコーズ

KY:話が変りますが、オラシオさんの一押しのポーランドのミュージシャンを教えていただけますか。
O:特殊な立ち位置の人なのですが、ピアニストとしても活躍する一方、録音エンジニアでも活躍しているヤン・スモチンスキ。ここ数年の面白いアルバムの仕事、いったいどれだけの名盤に関わっているのだろうという人です。プレイヤーが表の顔なら、録音は裏の顔です。演奏家としてどんな作品をつくるかというシンプルな話でだけではなく、裏の顔でこれからこの国の音楽をどれだけ支えていくのだろうという未来を感じる人ですね。最初にポーランドの音色に美意識を感じるということを言いましたよね。そこにも彼の仕事が大きく関わっていますね。アルバムを聴いていて、これは多分彼の録音かなと思ってクレジットを見ると必ずそうなのですよ。彼の録音はアルバムの良さを引き出しているし、音楽シーンに力を与えていますね。

KY:せっかくですから、アルバムも紹介して下さい。
O:個人的にですが、最近ものすごく気に入っているアルバムがあって、タイトルは『ヴェスナ』。バブーシュキというポーランド人とウクライナ人の女性ヴォーカリスト二人が組んだバンドで、ポーランド民謡とウクライナ民謡をヴォーカル・チューンにしたもので、アレンジが洗練されていてポップ、演奏も濃い。そこでピアノを弾いているのがヤン・スモチンスキ。しかし、そのアルバムでは録音エンジニアとしては参加していないのです。なぜかと聞いたら、スタジオの録音環境が整っていたので、その時はピアノに専念したと。伝統的な部分と今の音楽の感性をものすごくしっかりとしたアレンジで、現代の音楽として呈示するのがポーランド的な音楽の創り方だと僕は思っています。それと録音と音色の良さ、それらが凝縮されたアルバムですね。時々ネットで宣伝しているのですが、YouTubeのリンクを貼ると評判がいいのですよ。実際に買ったという人も結構いるようです。これは僕のチェシチ!レコーズからも出しています。
https://www.youtube.com/watch?v=Xbvfzi5AoDk

KY:せっかくですから、チェシチ!レコーズのことを少し。
O:現代のポーランドの輸入盤にライナーノートをつけて、いわゆる国内盤仕様でリリースしています。僕は盤を選んで、ライナーノートを書き、ミュージシャンとディスクユニオンを繋ぐという役割ですね。セレクションは独自、専門家としての視点から選んでいます。全部で7枚出していて『ヴェスナ』は最新作。
 1枚目は女性ピアニスト、ミラ・オパリンスカとスコットランド人ベーシスト、ダグラス・ウェイツのデュオ。映画音楽をテーマにしたアルバムで、それが面白い選曲で、勅使河原監督の『利休』(作曲:武満徹)とかアニメの音楽をやっている菅野よう子さんが曲を書いた『tokyo.sora』、あと『ブレード・ランナー』も。映画音楽の演奏によくあるタイプの、メロディの良さに頼るやり方ではなく、シリアスないい演奏。ディスクユニオンにいいCDだから輸入したらと言ったら、レーベルをつくっちゃおうという話になったのですよ。
 2枚目はミハウ・ヴルブレフスキのトリオ。エレクトロニカのような不思議なグルーヴ感を持つピアノです。3枚目はラファル・サルネツキというギタリスト。彼は物理オリンピックにポーランド代表で出場するくらいの天才ですが、どういうわけがジャズの世界に来ちゃって。彼がニューヨークのニュースクールに留学中に創ったアルバムかな。本人曰く、ニューヨークでの生活を曲にしたのをポーランド人の仲間に演奏させるというコンセプトだったそうです。自分の青春をパッケージしたと。アメリカのジャズで言うところのコンテンポラリーな感じと、彼の美意識がブレンドされたようなカッコいいCDです。4枚目はRGGというピアノ・トリオでポーランドの作曲家シマノフスキの曲をカバーしています。
 5枚目、6枚目もピアノ・トリオで、僕はピアノ・トリオばかりやりたい訳ではないのですが…。5枚目がアルトゥル・ドゥトゥキエヴィチ。6枚目はヴウォヂミェシュ・ナホールニの十数年ぶりの新作です。彼はおじいちゃんで、ナミさん世代の人なのです。面白いアルバムを創っていて、ショパンをセクステットでやっていて、セクステットのピアノ・トリオ以外の人達は女性スキャットとヴァイオリンとサックスだったのですよ。その編成でショパンの作品をプログレっぽいアレンジやっていました。昔は昔でオーケストラとジャズによるサロンミュージックのようなのとか、面白いことをやってきているのですが、時々ピアノ・トリオも出すのですよね。今回はそのトリオでの新作が良かったので選びました。
編集部註:チェシチ!レコーズ
http://diskunion.net/jazz/ct/list/0/0/67805

KY:チェシチ!レコーズの次作も期待しています。

『MIRA OPALINSKA & DOUGLAS WHATES / Lumiere』 『MICHAL WROBLEWSKI / I Remember』 『RAFAL SARNECKI / Songs From A New Place』 『RGG / SZYMANOWSKI』
『ARTUR DUTKIEWICZ / Prana』 『NAHORNY TRIO(SEXTET/WLODZIMIERZ NAHORNY ) / Hope』 『BABOOSHKI / VESNA』

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Live Report #601 今 ポーランドがおもしろい ♯2
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Interview #120 内橋和久
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NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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