ジョシュ・エヴァンス Josh Evansは、ニューヨークを拠点として活動するトランぺッターであり、知的で熱いサウンドを作り続けている。最近では、CD『Hope and Despair』を発表し、また、ビリー・ハーパー Billy Harperを迎えたビッグバンドを組成するなど、非常に活動的な存在である。
ジョシュ・エヴァンス インタビュー
Smallsにおけるあなたのパフォーマンスや、新しいCD『Hope and Despair』に接すると、演奏の間ずっと、情熱的なエネルギーを感じます。
ああ、大変ありがとうございます。私は音楽を単なる音符だとは思っていません。私にとって、音楽はリズムであり、流れであり、ミュージシャン同士のつながりなのです。情熱的に聴こえたとしたら、それはおそらく、私が音楽に対して情熱的だからでしょうね。私は13歳のときに最初のギグを行い、それ以来ずっと演奏し続けています。私の情熱は、いつも、年上の名人たちや、われわれの音楽の伝承者たちに囲まれていたことから来ています。彼らは私を触発し、偉大になりたいと思わせ、学びたいと思わせてくれる教師なのです。
あなたの音楽は紛うことなく現代のものですが、一方、ジャッキー・マクリーン Jackie McLeanのようなハード・バップに根差した先進的な音楽も思い出します。ジャズの伝統に対してどのようにお考えでしょうか。
音楽の歴史がすべてです。もし過去の音楽を聴くことも学ぶこともなかったとしたら、その人の知識の範囲は著しく狭いものになるでしょう。私は、自分より若いミュージシャンがこなす中身のない演奏も、たくさん聴いています。彼らは名人の近くにいたことがなく、自宅で聴くこともなかったのでしょうね。誰の音楽を聴くことも重要なことです。技術が許すところまで戻ってみること、そしてそこから脱却することです。私にとっては、ジャボ・スミス Jabbo Smith、ウェブスター・ヤング Webster Young、ロニー・ヒリヤー Lonnie Hillyer、アイドリース・シュリーマン Idrees Sulieman、アラン・ショーター Alan Shorter、アール・クロスEarl Crossが、マイルス・デイヴィス Miles Davisやディジー・ガレスピー Dizzy Gillespieと同様に重要でした。
また、個々のミュージシャンが時とともに進化していき、A地点からB地点に至る過程を見ることにも注目します。たとえば、1951年のジョン・コルトレーン John Coltraneとディジーとの共演、1941年のMintonsにおけるセロニアス・モンク Thelonious Monkの演奏、1957年のインディアナポリスにおけるフレディ・ハバード Freddie Hubbardの演奏、1941年のバド・パウエル Bud Powellによるゴスペルの演奏、カンザスシティにおけるチャーリー・パーカー Charlie Parkerの演奏、マイルスとチャーリー・パーカーの共演。彼らは皆、同時代とそれ以前のミュージシャンたちや時代そのものから影響され、「現代」の音楽の真のイノヴェーターになったのですよ。
あなたのトランペットは「金属的」に響きます。他の人との技術の違いは何でしょうか。
楽器については、トランペットもマウスピースも、他の人のものとまったく違いがありません。吹く者にとって快適なものがベストです。吹いてみてください。トランペットは大変チャレンジングな楽器です。
あなたは多くのサックス奏者と共演していますね。エイブラハム・バートン Abraham Burton、マイク・ディルーボ Mike Dirubbo、ルーミー・スパン Lummie Spannを含め、彼らについてのコメントをいただけますか。
その3人は、ジャッキー・マクリーンに直接教わった生徒ですね。マクリーンは素晴らしい教師で、決して偉そうに人に接することがありませんでした。現状がどのようであり、向上するにはどうすればよいのかをいつも教えてくれたので、もっと練習しようという気持ちになったものです。彼は「ジョシュ、こうするんだよ」と言いながら、実際にサックスで吹いてみせてくれました。また、ジャズの歴史だけでなく、アメリカ史、アフリカ史、世界史も勉強するようにと教えてくれました。そして、ブルースやコード進行の大事さと、それを使ってさらに前に進むことの大事さも、強調していました。
だからこそ、エイブラハム、マイク、ルーミーだけでなく、ジミー・グリーン Jimmy Greene、ビル・サクストン Bill Saxton、ルネ・マクリーン Rene Mclean、レイモンド・マクモーリン Raymond McMorrin(日本に住んでいます)、ウェイン・エスコフェリー Wayne Escoffery、クリス・アレン Kris Allen、ロン・サットン Ron Sutton、アントワーヌ・ルーニー Antoine Roneyといった面々が、確固たる個性的なスタイルを持ちつつ、ブラック・ミュージックの伝統を引き継いでいるのですよ。
私が16歳のとき、デューク・ピアソン Duke Pearsonの「New Girl」を演奏する際にジャッキーの有名なフレーズを吹いたところ、彼は、満面の笑みをうかべながら飛び出しナイフ(本当に刃が入っている)を取り出して、「君は私のネタを演奏しているね、私のものだね」と言ったのです。それまで私が受けた最大の賛辞のひとつでした。私は正しい軌道にいるように感じました。
ざっくり言えば、ジャッキーに師事したサックス奏者たちが世界で一番好きです。
あなたはビッグバンドの活動も始めましたね。今後の計画と、ビリー・ハーパーを迎えた理由をお教えいただけますか。
現在最良のいくつかのビッグバンドで演奏したことから生まれました。2009年より前には、ビッグバンドの演奏や作曲に興味がありませんでした。それどころか、自分の小さいグループでも、さほどハーモニーを書いていませんでした。しかし、2010-11年に、チャールズ・トリヴァー Charles Tolliver、ジミー・ヒース Jimmy Heath、オリヴァー・レイク Oliver Lake、ジョー・チェンバース Joe Chambers、ロイ・ハーグローヴ Roy Hargrove、フランク・レイシー Frank Lacy、その他たくさんのビッグバンドで演奏しました。なぜだか皆が私を誘うようになったのです。濃密なハーモニーのもと演奏し、聴いたことが、きっかけになりました。特に、チャールズ・トリヴァーのバンド(※1)が私に影響を与えています。
試行錯誤しながらビッグバンド向けの作曲を学び、友人にそれぞれの楽器のことやその活かし方を訊いたりしました。最初のアレンジは基本的な曲で、あまり良いものではありませんでした。しかし、アレンジを3-4年も続けた結果、今では多くのモノをつかんだと感じています。頭の中で鳴ったサウンドを紙に落とす術は知っていますが、それと同じように重要なことは、私が書いた音楽をリハーサルし演奏するのが、皆、偉大なミュージシャンたちだということです。彼らの作曲のほとんどは、私のものより優れていますから。そしてもっと重要なことは、スパイク・ウィルナー Spike WilnerとジャズクラブのSmallsが、演奏する機会を毎月提供してくれたことでした。
あなたがブルックリン・ドジャース(※2)の帽子(私はポール・オースター Paul Austerの小説でその名前を知っただけです!)をかぶり、アミリ・バラカ Amiri Baraka(※3)の『ブルース・ピープル Blues People』を読んでいる面白い写真を見つけましたよ。
子どものころ、ジャッキー・ロビンソン Jackie Robinson(※4)を真似していました。彼に関するおそらくすべての本を読み、彼がプレイする多くの映像を観たものです。小学生のときには、彼についての読書感想文を少なくとも2回は出したりもしたのですよ。野球のプレイ以上に好きなジャッキーは、あんなに憎しみや偏見に直面しても、(少なくとも公の場では)冷静さを保ち、決して手を上げようとしなかったことです。私なら正義のために闘いますが、ジャッキーは闘わずして闘ったのです。そのことがアフリカン・アメリカンのスポーツや人生を、本当に進歩させました。
そして、アミリ・バラカは偉大な人物、作家、詩人、学者、活動家、その他それにとどまらない存在でした。何度か、ルネ・マクリーンと一緒に、彼と仕事をしたことがあります。とても印象的なギグでした。それは、実践(演奏、リーディング)のあと、心を刺激し続けるタイプのギグだったのです。
※1 チャールズ・トリヴァー・ビッグ・バンド ・・・ ビリー・ハーパーを擁し、2009年に来日公演も行っている。その際にはジョシュ・エヴァンスは参加していない。
※2 ブルックリン・ドジャース ・・・ メジャーリーグの野球チーム。1958年にロサンゼルスに移転するまで、ニューヨーク・ブルックリン地区に本拠地を構えていた。
※3 アミリ・バラカ ・・・ アメリカの詩人・作家・音楽評論家・思想家・活動家。本名に加え、リロイ・ジョーンズの名前でも著作を発表している。多くのジャズのギグにもリーディングで参加。2014年1月9日没。
※4 ジャッキー・ロビンソン ・・・ アフリカン・アメリカンの黒人野球選手。1947年にブルックリン・ドジャースの一員としてメジャーデビューを果たし、その後の有色人種のメジャーリーグ参加に道を開いた。
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Josh Evans, photo by Akira Saito | Josh Evans’ profile photo on his Facebook account |
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Amiri Baraka (LeRoi Jones) “Blues People”, photo by Josh Evans | 『Hope and Despair』![]() |
Josh Evans Official Website
http://joshevansmusic.com/home
関連リンク
http://www.jazztokyo.com/newdisc/560/harper.html
http://www.jazztokyo.com/five/five1073.html
http://www.jazztokyo.com/column/reflection/v32_index.html
http://www.jazztokyo.com/rip/amiri/amiri.html
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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