1965年に「スイングジャーナル」誌の編集長を辞しフリーとなった岩浪洋三は、1969年の『モダン・ジャズの世界』に始まる編著を荒地出版から矢継ぎ早やに刊行していく。本書は『ジャズの前衛を求めて』(1971) に続く３冊目の編著で、その後、『ジャズ・ヴォーカルへの招待』(1975) へとつながる。その間、渡辺貞夫を説き伏せ、岩浪によるインタヴューをまとめるという形で『ぼく自身のためのジャズ』(1969) を上梓している。さらに杉田誠一に薦めて『ぼくのジャズ感情旅行』を書かせてもいる。残念ながら『モダン・ジャズの世界』と『ジャズ・ボーカルへの招待』は手にする機会がなかったが、今回とり上げた『ジャズの前衛を求めて』と本書『マイルス・デイビスの世界』は、「スイングジャーナル」誌の編集長として培われたであろう確かな視点を持ち、内外に執筆者を求めながら編著者として見事な腕の冴えを見せている。
「再版への編者あとがき」で岩浪は、本書が日本で初めて編集された一人のジャズマンを対象にしたエッセイ集であり、本書を編んだ理由として、“マイルスを中心とするジャズが、七十年代をリードしていくことはほぼ間違いないという確信が得られるようになってきたから”と予見している。マイルスの三度目の来日を記念して再版が刊行されたということは、初版がそれなりの成績を上げたことを意味しているのだろう。
「ナベサダが語るマイルスの魅力」や菊地雅章の「ソーサラーのライナー・ナーツ」にも惹かれるが、マイルス自身による「マイルス大いに語る！」、伊藤潔による「ジャズとマイルスのお熱い関係」に引用されたマイルスの肉声がマイルスのミュージシャンシップを浮かび上がらせて興奮させられる。（稲岡邦弥）