# 081
『菅野レコーディング・バイブル』
text by 稲岡邦弥
書名:『菅野レコーディング・バイブル』(SS選書) 著者:嶋護 版元:ステレオサウンド 初版:2007年 定価:4,571円+税(SACD/CD1枚付き) |
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腰巻きコピー:
日本が生んだ不世出の録音制作家、菅野沖彦氏の、LP/テープ/CD/SACDのための全仕事を完全網羅した音楽録音の歴史に燦然と輝く菅野レコーディングのすべて。ついに刊行!
特製SACD/CDハイブリッドディスク付き!
2007年に出版されたものだがユニバーサルミュージックからCDが再発される「菅野沖彦・昭和のジャズ モダン・スイングシリーズ」のデータを検証するために最近購入した。そう、この著作の半分以上のページは録音制作家菅野沖彦が生涯に手がけた録音のすべてをディスコグラフィーとして完璧にまとめたものなのだ。1968年から2000年まで32年間、メディアはLP、CDからTAPEにまで及ぶが、データと共に9、10、10+、10++の4段階で著者によるサウンド・レーティング(評価)が付されているのに驚く。<音の神様>(註:菅野氏と組んで40作以上のアルバムを制作したピアニスト宮沢明子女史の「発刊によせて」より)の仕事を水準以上とはいえ微妙なレベルで優劣を判定するのはたいへん難しくまた勇気のいることである。
編著者の嶋氏自身の序文によれば氏が菅野氏の録音『西条孝之介/ウエスト・エイス・ストリート Vol. V』(Audio Lab)を聴いて仰天、片っ端から菅野録音を集め出したのは1992年11月23日のことという。ハイエンド・オーディオで海外の優秀録音を聴いていた嶋氏が菅野録音を聴いて仰天した理由は、レコードに針を下ろし、ボリュウムを上げると「叙事詩的なサウンドステージが、ジャズの録音から、しかも日本人が録音したレコードから、いきなり出現したからだった」。そして演奏が始まると、「立体的な楽器の音像イメージ、丸みを帯びた音色、ベースの重量感、ピアノのハーモニクス、ギターとベースが空間で作り出すハーモニー、それらがすべて目の前にあった。要するに、四人がそこにいた」からであった。1992年の嶋氏の驚愕の体験を遡ること約20年、1973年に僕自身がまったく同じ体験を荻窪の菅野邸のリスニング・ルームで体験している。北村英治率いるクインテットが忽然と目の前に現れたのである。左右奥行きの距離感をしっかり保って5人のミュージシャンがそこに立っていた。しかもその音の新鮮さ、音楽的に自然なバランスは類のないものだった。正直に告白すると、僕はそれ以降、菅野邸の経験を上回る録音再生を聴いたことがない。それから3年後、ECMとトリオレコードが共同でキース・ジャレットの全国縦断ソロ・ツアーを完全収録、10枚組アルバム・セット『サンベア・コンサート』(ECM)が発表されたが、菅野氏の存在なくしては実現しえない世界が驚嘆したビッグ・プロジェクトであった。
ジャズの世界では、黒人を中心とするイースト・コースト・ジャズを得意とするルディ・ヴァン・ゲルダーと白人を中心とするウエスト・コースト・ジャズのロイ・デュナンが東西を二分する名エンジニアとしてながらく名を馳せていたが、じつは日本にはある意味では彼らを凌ぐ録音制作家菅野沖彦が存在していたのである。菅野氏の場合、その手法から対象としてジャズに限らずクラシックも等しく作品を残しているのである。菅野氏の全作品を慎重に吟味した上で、嶋氏はベスト13を選出、その理由を詳細に記しているが、1/3はジャズ以外の作品である。13のアルバムから代表的なトラックを1曲ずつ選び制作された付属のSACD/CDが菅野録音に対する嶋氏の究極の答えである。
かつて、菅野沖彦氏の自著『新レコード演奏家論』(SS選書)を本誌で紹介させていただいたことがあった(2009.6.21更新号)。併せてお読みいただくと菅野氏の録音に対する思想をよく理解できると思う。アナログ・レコードに対する需要が世界的に急速に増大しているという。そんな折り菅野氏の録音に対する評価が改めてクローズアップされている事実にも頷けるのである。(稲岡邦弥)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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