#  249

竹澤恭子ヴァイオリン・リサイタル
2009年12月5日 @ サントリーホール
reported by 丘山万里子

<演奏>
竹澤恭子(Vl)イタマール・ゴラン(Pf)
<曲目>
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調、第2番イ長調、第3番ニ短調
<アンコール>
シューマン:ロマンス、ブラームス:ハンガリー舞曲第1番
フォーレ:夢のあとに

photo by 林 喜代種

長年の拠点だったNYからパリに居を移した竹澤のデビュー20周年シリーズ・は「敬愛するブラームス」。全3曲のソナタを並べた。
86年にインディアナポリス国際コンクール優勝で世界へ羽ばたいた彼女も、今やすっかり落ち着いた大人の女性。確かな技巧とパワー、鋭い切れが身上だったが、そこに柔らかさ、しなやかさが加わり、ブラームスのソナタに似合った風景が広がる。
『第1番 雨の歌』の歌いだしには、そくそくとした詩情が立ちのぼり、中低音が深く響く。吸い付くようなボウイングが、ブラームスの陰影に富んだ響きの世界をしっとりと描き上げる。
ふと、アンネ=ゾフィー・ムターを思う。カラヤンの死ののち、ヴァイオリニストとしてしっかり自分の足で立つまでの歳月は、そう短くはなかったろうが、彼女は鮮やかに大人になった。そのような逞しさ、美しさを、竹澤も手に入れている、と改めて感じたのだ。
その種の成熟を女性奏者(諏訪内晶子もそうだ)にとりわけ感じるのは、女の道には恋や愛だのの先に、母になる、という大創造もあるからだ。むろん、そればかりが成熟へつながるものではないが、大きいことは確か。つまりは人生への度量とでもいったものが格段に大きくなり、それが音に現れてくる。
後半の『第3番』には、そうした表現の充実が見事に結晶した。冒頭アレグロの情熱の波、アダージョ楽章の深々とした歌、変化に富んだ文節をていねいに描き分けた第3楽章、そして終章ではぐんぐんヒートアップ、全身めらめらと火がつくような勢いであった。
今こそ聴いて、私のブラームス! そんな竹澤の声が聞こえるような一夜。
ちなみにムターは19歳でソナタをワイセンベルクと録音したが、今春の来日リサイタルで竹澤同様、ソナタ全曲演奏を予定している。
ブラームスを弾くには、それなりの人生の季節がそれぞれに必要なのである。
アンコールの『ハンガリー舞曲』では持ち前のヴィルティジテと切れ味を堪能させ、最後をしっとりとフォーレの『夢のあとに』でまとめたのも、大人のセンスを感じさせた。
パリがどんな変化を彼女にもたらすか。今後が楽しみな女流である。

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