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オペラ「パン屋大襲撃」ドイツ語上演 〜 サントリー音楽財団創設40周年記念公演
2010年 3月7日 @サントリー小ホール・ブルーローズ
reported by Mariko OKAYAMA/photo by 林 喜代種


原作:村上春樹「パン屋襲撃」「パン屋再襲撃」
作曲:望月京 
監修:三宅幸夫 
台本:ヨハナン・カルディ 
指揮:ヨハネス・カリツケ
演出:粟國 淳 
演奏:東京シンフォニエッタ 
音響:有馬純寿
出演:飯田みち代、高橋 淳、大久保光哉、畠山 茂ほか




海外で人気の村上春樹作品を原作としたオペラ『パン屋大襲撃』が日本初演された。ルツェルン(昨年1月世界初演)とウィーンで、すでに上演13回の作品である。作曲/望月京、台本/ヨハナン・カルディ、新演出/粟國淳。
全2幕休憩なしの60分、快適なテンポと多様な音技法で展開するコメディ・タッチで、種々の引用、暗喩がそこここに効き、受け手(観客)の意識次第でどのようにも深化、膨張するキャパシティの大きなオペラである。それはこの作品の成り立ちによる、と言って差し支えなかろう。国際舞台での成功(おそらく)も、ここにある。

まず本題材が村上作品短編集(独・英訳)から選出された時点で、すでに勝負はあった。今日の日本の国際的作家といえば、村上がトップだろう。海外でも広く読まれるその魅力も含め、このポピュラリティは、何より大事だ。日本の創作オペラにありがちなエキゾティシズムも、ここでは不要。

次いでウィーン、ルツェルン、ロンドンの各音楽団体・劇場の共同委嘱となり、台本の国際コンペ127作からカルディの英語台本が選ばれた。オペラ創作はたいてい台本に苦労するが、国際コンペを勝ち抜いたのであれば、審査におけるコンセンサスとともに、レヴェルも保証されよう。
次いで、各委嘱先から派遣された精鋭メンバーが参集、望月を囲むオペラ制作プロジェクトが立ち上がる。そうして、ロンドンとウィーンで3回のワークショップのもとに仕上げられたのが本作だ。制作段階で、解釈、演出、作曲のための様々なアイデアがメンバーから出され、その全てを聞き入れ作曲した、と望月は言う。ただ、台本の魅力をテンポとリズムにある、と感じた彼女は、ドイツ語での翻訳上演とした。
と、こうながめてくると、プロジェクト・メンバーを含め、制作に関わった人々の多様性が、そのまま、さまざまな解釈、理解を可能とする重層、複眼的なオペラを生み出したことが了解できよう。

暗がり、しじまに忍び入る不安気な音響から、ベッドの男女の寝姿が浮かび上がる。
筋は、暮らし向きの良い新婚夫婦が夜中突然、なぜか耐えられない飢餓感に襲われ、パン屋を襲撃する、という話。夫がかつて友人と遂行したパン屋襲撃のいきさつと、パン屋の親父によるワーグナー音楽の呪いが回顧されるのを契機に、深夜の東京でパン屋を探し回る夫婦。ついに見つけた深夜営業マクドナルド! 略奪した山積みマックを手に、「こんなことする必要、あったんだろうか。」と呟きつつ、ベッドでマックにかぶりつこうとする夫、で幕。
前半やや緩慢なものの、小編成のアンサンブル、コーラス、エレクトロニクスの混淆は、むろん、ワーグナーの引用も含め手際良い。とりわけマクドナルドでのやり取りは、スローとファスト(パン屋とマック)の対比を様々な角度から風刺してみせ、音楽もここで最もヴィヴィッドに跳ねる。

全編、因襲的オペラ語法をバサバサ切断するキッチュなポップ・テイストだが、と言って、尖鋭でも前衛でもヒップでもなく、一線をキープ。
望月の最大の功績は、彼女の感性や理知をフル稼働させた上で、制作メンバーの種々の要望をとりまとめ、バランスよく配置、構築した手腕にあろう。
オペラがコンポジションでなく、プロダクションとなっている今日、勝利の旗を振るのは今やアジアのヴィーナスなのだ。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
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#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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