#  256

Absolute-MIX 矢沢朋子ピアノ・ソロ
2010年 2月 27日@杉並公会堂小ホール
reported by Kazue YOKOI


曲目:
Untitled for piano & electronics /ヨハン・ヨハンソン
ソッフェルト・オンデ・セレナーデ/ルイジ・ノーノ
絞首台(『夜のガスパール』より)/モーリス・ラヴェル
マンドラゴール/トリスタン・ミュライユ
無常の鐘/権代敦彦
ラヴ・ゴッド/キャロリン・ヤーネル
ウォーク・マン/平石博一
チャイナ・ゲート/ジョン・アダムス
キッドA/レディオヘッド(編曲:矢沢朋子)
Untitled for piano & electronics /ヨハン・ヨハンソン



矢沢朋子が主宰するAbsolute-MIXの3年ぶりの公演はピアノ・ソロ。現代人の感性に合ったソノリティ、音響を重視した作品を上手くピックアップしたジャンル横断型の絶妙なプログラミングで、プロジェクト名「Absolute-MIX=完全混淆」に相応しい、より幅広い音楽ファンにアピールする内容だった。

第一部冒頭のヨハン・ヨハンソンのポスト・クラシカルな委嘱新作の後にノーノのテープを用いたエレクトロ・アコースティック作品<ソッフェルト・オンデ・セレナーデ>、それに続いてラヴェルの<絞首台>を弾くという離れ業も、技術的なことだけではなく、美学的な裏付け、音楽的資質の高さがあってこそ初めて弾きこなすことができるのだろう。また、鐘の音(ラヴェル)で始まり、ミュライユを挟み、鐘の響き(権代)に繋がる3曲、<絞首台>、<マンドラゴール>、<無常の鐘>という並びは絶妙で、テーマ的にも幻想奇譚といった感があり、組曲的な趣を出していた。

現代音楽の作曲家以外の作品もまた面白かった。第二部の一曲目<ウォーク・マン>は、平石博一のミニマル調の現代音楽でありながらもポップな躍動感のある作品で、その異才ぶり、ワン・アンド・オンリーな存在であることを再認識。非常に残念だったのは、音響面でトラブルがあったために作品本来の音バランスで聴くことができなかったことだ。エレクトロ・アコースティック作品にこういうアクシデントはなぜかついて回わる。以前にもトラブルに見舞われたステージに何度か遭遇しているが、矢沢のライヴでこの作品を何度か聴き、その面白さ、楽しさを知るだけに口惜しい。<ウォーク・マン>はCD『フラッシュ・ポイント』に収録されているので、それを聞くことで溜飲を下げることにしよう。ポスト・ミニマリズム作曲家として名高いジョン・アダムスの初期のミニマル作品<チャイナ・ゲート>を挟んで演奏したのは、イギリスのロック・バンド、レディオヘッドの話題作にして代表作<キッドA>。ピアノ曲として矢沢がアレンジしたものは、作品の持つ世界観を上手く抽出しつつ、この作品が単に実験的なロックの曲ということだけではなく、現代音楽としても通用する音楽性を内在させていたことを明らかにしたといえる。

現代曲で最も印象に残ったのは、これは私個人の好みもあるかもしれないが、キャロリン・ヤーネルの<ラヴ・ゴッド>。本公演のためにミディ音源部分をヤーネルが再アレンジ、再リミックスしたという。緻密な構造をもつ作品ながらも聴き手には難解さを感じさせることはなく、カラフルで美しく、そのビート感といい現代音楽ファンだけではなくプログレ・ファンなど幅広い音楽ファン層にも大いに訴求しそうな作品だった。現代音楽版変拍子が生きるのもクラシック音楽の演奏家には類いまれなリズム感のよさとタッチの明快さゆえだろう。このような作品をハイセンスに弾きこなすことが出来るピアニストは矢沢しかいない。

今回のコンサートで最大の収穫は、ヨハン・ヨハンソンの委嘱新作である。冒頭と最後で異なるバージョンが披露されたが、私個人的には冒頭の作品が気に入った。ヨハンソンは2007年に東京の夏音楽祭に招かれ、霧の彫刻家、中谷芙二子とコラボレーションを行っている。ほのかなエレクトロニクスの使用が功を奏して、ピアノの音色を際立たせ、透明な空気感で会場が満たされた。ヨハンソンはロック、エレクトロニカからポスト・クラシカルまで幅広く作曲、演奏活動を行っている音楽家で、それゆえに現代音楽の書法にこだわらず自由な発想ができる。内在する雑多な響き、それゆえに我々の感性に訴える印象的な作品となったのだろう。この作品の世界は、コンサートのフライヤー/ポスト・カードのビジュアル・イメージと合致しており、矢沢が今回の公演で提示しようとしたひとつの音楽世界を象徴的に表していたといえる。

作品を丁寧に読むだけではなく、その本質的なところでの見事な解釈、それをサウンドとして具現化させる矢沢朋子のピアニストとしての優れた資質はいうまでもない。その分析力の鋭さは作品解釈に留まらず、時代の中で音楽をいかに聴かせる(再現させる)かというところにまで及ぶ。それは音楽家として本来あるべき姿でありながらも見失われがちなことである。100年前の作品と今出来上がったばかりの作品が隣合わせであってもなんら違和感がないのは、それゆえのこと。その異端児ぶりゆえに正統であり、正統であるがゆえに時代の鬼っ子なのだ。立ち上がる音色のよさに通じる明晰さ、フラジャイルな響きに内在する明確な意志表示に、単なる演奏家としてではなく音楽家として現在を通して未来を見据える姿勢が現れている。そのピアニズムだけではなく、音楽性を支えるプロデュース力にも大きな拍手を送りたい。

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