#  257

『ベルチャ弦楽四重奏団〜紀尾井の室内楽/クァルテットの饗宴2009』
2010年 3月11日 @紀尾井ホール
主催:財団法人 新日鐵文化財団
reported by 丘山 万里子/photo by 林 喜代種


演奏
1Vl/コリーナ・ベルチャ=フィッシャー
2Vl/ローラ・サミュエル
Vla/クシシュトフ・ホジェルスキー
Vc/アントワーヌ・ルデルラン

曲目
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第6番 変ロ長調
バルトーク/弦楽四重奏曲第3番
シューベルト/弦楽四重奏曲第14番 ニ短調「死と乙女」
アンコール:ブリテン/弦楽四重奏曲第3番 第3楽章



バルトークはノイズ系なのだ、特殊奏法云々とは別に。と、ベルチャ弦楽四重奏団を聴いて知る。そのノイズは、エレクトロニクスよりアコースティックの方でこそ、はるかに快感だ、とも。何によって快を感覚するかは、人それぞれであろうけれど。

圧倒的なスピード感。細かく旋回するフレーズはコーヒーカップ小回り回転状態。民謡モチーフは空をかすめる影。目眩を引き起こすグリッサンド。と思うとザクザク荒ぶる剣使いまで、冥い森を手探りで彷徨う不気味さがあるのだ、彼らのバルトークには。コーダでの驀進ときたら、まるでこちらに向かって伸びてくる小枝、頬に張り付こうとする葉たち、足下にまとわりつく下草を振り払い、蹴散らし、吼えつつ進軍する孤独な部隊といった態。バルトークにとっての自然と文明とは、こういう響きでしかあり得なかったろうし、同時に、今日の世界状況のある種の挽歌とも聴こえるあたり、彼らの感覚の切れは鋭い。

このクァルテット、ロンドン王立音楽院生によりベルチャを中心に結成され、チリンギリアン、アマデウス、アルバン・ベルクQに学ぶが、その正統継承者といった文脈で語るのはどうだろう。クァルテット好きはつい「〜の流れを汲む」といった了解で安心するきらいがあるが、ルーマニア、英国、ポーランド、フランスの多国籍編成たるベルチャの魅力は、むしろフォークロアからフリージャズまで、といったほうが判りやすいのではないか。

実際、歌はつぶやき(pp)、声は語らい、ときおり小節線が消え、と思うと、鋭角的なビートが激しく刻まれ(ff)、ダイナミック・レンジは極端でないのに明瞭な対比を創りだし、表情がおそろしく揺れ、その揺れの合間から音楽が噴きこぼれてくる、そういう変幻自在は「〜の流れ」の中には収斂できない複雑な美しさなのだ。

彼らのベートーヴェンは内密でセンシティブで大胆。当たり前だが先輩Qのどれとも遠い。
彼らのシューベルトでの酩酊(グルーヴ)は、類がない。変奏部分での各メンバーなど、凄腕のギャンブラーが卓を囲んで指を鳴らしているよう。ソリッドなファーストVlと臨機応変のチェロが際立つが、あとの二人もしたたかで、たまに全員、天使のごとき青春の芳香を漂わせ、これがシューベルトの深淵というものさ、と震撼させる。

最終章プレストでの追い込みはキリモミ竜巻状態で、一丸、天へと馳せ昇ったのであった。背後に見えたのは、エゴン・シーレの描いた「死と乙女」の世界。
アンコールのブリテンがまた、駄目押しのように素晴らしかった。
久しぶり、次も聴くぞ!と勇み立つ思いになった若き4人組。ディスクもあるが、やはりステージを聴きたい。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.