#  259

アンネ=ゾフィー・ムター Japan Tour 2010
2010年4月24日 @サントリーホール
reported by Mariko OKAYAMA

Vl: アンネ=ゾフィー・ムター 
Pf: ランバート・オルキス

曲目:ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調Op.100、第1番ト長調Op.78「雨の歌」、第3番ニ短調Op.108
アンコール:ブラームス/ハンガリー舞曲第2番、第1番、子守歌、ハンガリー舞曲第7番、マスネ/「タイースの瞑想曲」



サントリーホール提供

オール・ブラームスのプログラム。
昨年末、竹澤恭子が「敬愛するブラームス」として、ソナタ全3曲のリサイタルを開いたが、そこには音楽の成熟への確実な歩調とともに、燃え立つようなパッションが渦巻いた。とりわけ『ソナタ第3番』の最終楽章プレスト・アジタートでの追い込み。
一方、同世代ながらムターは、すでに一つの成熟段階を終え、新たなステージに昇りつつあることを示して見せた。 ソナタ全曲を支配していたのは、内なる声、とでも言うべきもので、最初に置かれた『ソナタ第2番』の冒頭旋律から、それははっきり聴き取れる。淡雪が溶けるようなピアニシモの美しさは、アレグロ・アマビーレそのもので、作品の背後にあるブラームスの恋心(30歳以上年下の女性歌手)と諦念とを、そっと香らせる。
第2楽章の結尾、優しい歌のあと、「ね、そうでしょ。」と静かに微笑んでみせ、と、くるり反転、力強く身を翻らせる締めくくりの鮮やかさ。 『第2番/雨の歌』の冒頭もまた、かそけきピアニシモの世界だ。どんなにヴォルテージが高まっても、決して荒れた音、腕力の音は出さない。みっしり目の詰んだ音が、内圧だけをともなって響きあがってくる。ブラームス特有の中音域の美しさに、とりわけその響きが生きる。

『第3番』の第2楽章アダージョは、おそらく今の彼女が最も歌いたい歌ではなかったか。
人生には、どんなに焦がれ求めても手に入らぬものがあると知った時、人は最も美しくなる。それがブラームスの歌だ。切々と、深く、心に染みてくる。
一転、軽やかなダンスをピアノと組んで踊ってみせた第3楽章。そして最終楽章は、大きなうねりと静寂の谷間を自在に行き来し、メリハリのある流れを構築した。
カラヤンの寵児としてもてはやされた時期、その帝王の死後、決然と独り世界に打って出た時期、かたわらに、やはり父のような指揮者アンドレ・プレヴィンが居た時期・・・そうして今、彼女は豊かな実りを誇示することなく、むしろ静寂の海を漂い、ときおり波頭を立てる、そんな音楽へと向かっているようだ。その波間にほどこされた表現の濃やかな彫琢こそが、今回の彼女のブラームス世界を象徴する。
アンコールのハンガリー舞曲3曲で発揮されたパワフル・ムターは、聴衆への彼女なりのサーヴィスだろうが、間に挟まれた『子守歌』と、最後のマスネ『タイースの瞑想曲』に、彼女の今の真情が宿っているようだった。
サポートのピアノ、心底、彼女の音楽を愛し、支え、実に素晴らしかった。

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追悼特集
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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COLUMN
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