#  267

Stan Tracey Trio with Ron Holloway
@ Mt. Vernon Place Methodist Church - Baltimore, MD  June 13, 2010
Text and Photos: Nobu Stowe (須藤伸義) Special Thanks to Mr. Bernard Lyons

Stan Tracey - piano
Andrew Cleyndert - double bass
Clark Tracey - drums
Ron Holloway - tenor saxophone

北アイルランド出身のプロモーター=バーナード・リオンズ氏の尽力で、英国ジャズ界の“ゴッド・ファーザー”スタン・トレイシー(1926年生まれ)のコンサートが、バルチモアで開催された。

今年84歳になるトレイシーは、バルチモア来演の2日前(11日) “ローチェスター=ジャズ・フェスティバル”(NY州)に自身のトリオを率い2公演に出演。1日後(14日)は、NYのリンカーン・センター内にあるジャズ・クラブ“ディジーズ”で演奏。短いながらも、精力的なツアー日程をこなした。最近レポートした、チコ・ハミルトンと同じく、80歳過ぎての旺盛な創造/活動力には、恐れ入る。

トレイシーといえば、ウェールス出身の作家/詩人のディラン・トーマスのラジオ劇にインスパイアーされた『Under Milk Wood』(Columbia:1965年)、意欲的なアレンジが聞きモノの『Alice in Jazzland』(Columbia:1966年)やソニー・ロリンズが音楽を担当した映画『アルフィー』(1966年:ルイス・ギルバート監督、マイケル・ケイン出演)のサウンドトラック他の60年代の作品が有名だが、現在でもコンスタントにアルバムを、自身のRESTEAMED レコード他のレーベルから発表してきている。因みに、ロリンズがオリバー・ネルソン指揮のビッグバンドをバックに録音した『アルフィー』(Impulse!:1966年)は、サウンドトラックとは別の録音で、ロジャー・ケラウェイがピアノを担当している。

筆者が、最初に聴いたトレイシーは、南アフリカ出身のルイス・モホロと組んだデュオ作品『Khumbula』(Ogun:2004年)で、エリントン/モンク等の影を感じさせながらも、確かなオリジナリティーに彩られたピアノ・プレイが、印象に残った。この作品でも顕著な様に、トレイシーは“ハード・バップ世代”に属しながらも、常に革新的な探求を続けていて、(個性的ではあるが)“オーソドックス”なピアノ・トリオ他等の作品に混じり、エヴァン・パーカーや、キース・ティペット他の“前衛派”との共演暦も豊富である。是非、聴いてみて欲しい音楽家の一人だ。

今回のバルチモア公演は、長年活動を共にしている、アンドリュー・クレインダートとクラーク・トレイシー(息子)からなるトリオに、Milestoneレコード他からリーダ作を発表している、ワシントンDCのテナー・サックス奏者=ロン・ホロウェイがゲストで参加。場所は、ジョージ・ワシントンの銅像がある、バルチモア名所の一つ=マウント・バーノン(ヴァージニア州にある、ワシントン邸とは別)にある140年近い歴史を誇る教会で午後4時より行われた。生憎、当日は、湿度の高い真夏日で、午後の日差しを受けた室内は、35度以上の高温。高齢の体調が心配されたが、ステイシーは、休みなしで90分もの長いステージを演奏してくれた。

最初の5曲は、トリオでステイシーのオリジナル曲を演奏。プレイも個性的だが、ステイシーの作る曲もかなり個性的。ピアノ・プレイと同じように、彼の作曲をエリントン/モンクと比較した批評を良く目にするが、個人的にハービー・ニコルスの作曲により近いように感じている。しかし、あくまで表面的な類似で、ステイシー独自の色が、プレイ/作曲を通して感じられる。

太い音色で良く歌う、クレインダートのベース、繊細なプレイから、エネルギーを押し出したシャープなプレイで鼓舞するクラーク・トレイシーのドラムス。バランスの良さを保持しつつ、フレッシュな意外性を失わないトリオのプレイには、大いに納得させられた。

途中から、ホロウェイのテナーが加わったクァルテット演奏になった。12年前にワシントンのイギリス大使館で公演した折りに共演した関係で、再会となったらしい。しかし、残念ながら、トレイシー・トリオとホンカー系(テキサス・テナー系?)のホロウェイとの相性は、余り良いとは言えなかった。「リハーサル時間無し」を考慮してか、トレイシーのオリジナル曲を避け、スタンダード曲に絞った選曲も、音楽の魅力を半減させてしまったと思う。しかし、最後の2曲は、トレイシーが敬愛するセロニアス・モンクの曲を演奏。一定の満足度を得る事が出来た。

難しいかも知れないが、ぜひ次は、トレイシーのオリジナルで固めたステージを観てみたい。

最後に、クレインダートは、自身のレーベルTRIOレコード(稲岡編集長がプロデュースを務めた、ケンウッド設立の同名レーベルとは別のレーベルです!)を主宰している。トレイシーの他、ドン・ウェラー、ボビー・ウェリンズ、クリス・ビスコー他の英ジャズ界を代表する音楽家の作品をリリースしている。興味のある方は:www.triorecords.co.uk 日本では、ディスク・ユニオン他で入手可能。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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