#  268

フランス音楽の饗宴
マチュー・デュフォー&パスカル・ロジェ デュオ・リサイタル
2010年6月30日
@浜離宮朝日ホール
reported by 佐伯ふみ Fumi SAEKI

主催:パシフィック・コンサート・マネジメント
フルート:マチュー・デュフォー
ピアノ:パスカル・ロジェ
曲目:フォーレ「幻想曲」op.79
   デュティユー「ソナチネ」
   ドビュッシー「シランクス」(フルート・ソロ)
   ドビュッシー「沈める寺」(前奏曲集第1集よりピアノ・ソロ)
   プーランク:フルート・ソナタ
   プロコフィエフ:フルート・ソナタ ニ長調 op.94

 フルートといえば、フランス音楽の長い歴史のなかで洗練され磨きあげられてきた楽器である。ルネサンスから近代まで、楽器のかたちも奏法も、歴史とともに大きく変わってきたが、それぞれの時代を代表する名曲の数々がフランスの作曲家たちによって生みだされてきた。浜離宮でのこの一夜は、19〜20世紀のモダン・フルートの精華を極上の演奏で堪能させてくれる、忘れがたいコンサートとなった。
 幕開け、フォーレの幻想曲。フルートとピアノ、たった二つの楽器からあふれる豊穣な音楽に一気に引き込まれた。強靱かつ濁りのない、実に美しい音色のフルート。そして、もしかしたらそれを上回る魅力で聴衆を惹きつけたピアノのパスカル・ロジェ。実に柔らかく控えめでありながら、変幻自在、絶妙の間合いをもってフルートとの対話を繰り広げるピアニストの姿に、アンサンブルの醍醐味とはこのことかと驚嘆しつつ聴いた。
 前半にはそれぞれのソロ演奏が挿入されたが、デュフォー演奏の「シランクス」の美しさが鮮烈な印象。デュティユー作曲「ソナチネ」も興趣に富んだ、忘れがたい佳品だった。プーランクは言わずとしれた名曲。第1、そして第3楽章の独特のあの終わりを巧くまとめていた。 曲想からプーランクのこの作品はシリアスかつ重々しく、一本調子に演奏されかねない曲なのだが、さすがフランスの演奏家と言うべきか、一つ一つの曲想をていねいに、まるで時間とともに移ろう風景のように描きだして、ドイツ的な直線的なものとはひと味違った、音楽の流れを呈示してみせた。

 後半はプロコフィエフの4楽章におよぶ大作。前半のフランスものとは一転して、細部の微細なニュアンスというよりも、構成変化の妙を聞かせる骨格の大きな音楽。これもまた聴き応えがあった。
 一つ残念だったのが、これほどの名曲ぞろい、名演であったのに、客席には空席が目立ったことだ。二人の名手の力をもってしても、「フランス音楽は客が入らない」というジンクスは破れなかったのだろうか? それが演奏者の士気に影響したのか否か、客席からは熱い拍手が送られているのに、デュフォーは客席への挨拶はそこそこに、後ろのロジェを振り向き話しながら袖に引っ込むという光景が繰り返された。曲間の間合いが長すぎ、聴衆の集中力が一度ならず切れたと感じることも。単なるステージマナーの問題とも言えない気がした。演奏そのものはもちろん真摯なものだとしても、聴衆との交流に重きがおかれていなかったとするなら問題だろう。音楽の豊かさとは裏腹に、少々の淋しさも残ったコンサートであった。

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