#  270

ゲザ・ホッス=レゴツキ ヴァイオリン・リサイタル
2010年7月8日
@浜離宮朝日ホール
reported by 池田逸子 Itsuko IKEDA
photo by 林喜代種 Kiyotane HAYASHI
(撮影:2010年7月6日@武蔵野市民文化会館)

vl: ゲザ・ホッス=レゴツキ
pf: リリー・マイスキー
曲目:ドビュッシー(ハイフェッツ編)/亜麻色の髪の乙女、美しき夕暮れ、月の光、レントより遅く
ラヴェル/ヴァイオリン・ソナタト長調
フランク/ヴァイオリン・ソナタイ長調
アンコール:バルトーク/ルーマニア民俗舞曲、ブラームス/ハンガリー舞曲第1番、ラヴェル/ハバネラ形式の小品


 若い才能に光を当てる<イマジン・シャイニング・スター・シリーズ>vol.11。ゲザ・ホッス=レゴツキ(1985生まれ)はマルタ・アルゲリッチやミッシャ・マイスキーらと共演し、その傑出した才能を賞賛されている俊英。母親はアメリカ国籍、父親はウクライナ国籍でロマの血をひくヴァイオリニストだという。このような情報と、出自を想起させる風貌とに大いに好奇心をそそられ、新鮮な出会いを期待して会場に足を運んだ。
 のびのびと豊かにひびく艶やかな音が魅力的。身につけた高度なテクニックを使いこなし、作品が求める音色や緩急の絶妙な変化など細部のデリケイトな表現にも抜かりない。とにかく非凡な才能の大器であることは明らかである。
 ところで彼は、目下、自分の個性を全面的に披瀝するよりも、まず世界に通用する「正統」な奏者たらんとしているらしい。そのために「正統」の枠をできるだけ踏み外さぬよう、つまり「異端」の道に入り込まぬようバランスをとっているのではないか。「正統」なフランスもので固めた今回のプログラムにも、そんな目標、態度が見てとれる。

 だがもちろん、「正統」をめざす演奏のわずかな隙間から、この奏者の新鮮な魅力は滲み出てくる。その独特な個性が聴く者を惹きつけずにはいない。たとえば、ドビュッシー『レントより遅く』などに聴かれる、妖しく揺れる官能性、あるいはラヴェルの『ソナタ』第2楽章“ブルース”の大胆にして魅惑的なポルタメント、そしてフランクの『ソナタ』第2楽章の逆巻き、うねるエキサイティングな激情の噴出等々。
 彼は自己の内に秘めている地下水脈、かけがえのないオリジナルな魅力をもっと前面に押し出し、「異端」をおそれずに全開させたらいい。そうするのに相応しい作品もあるだろう。アンコールで即興性あふれる奔放な演奏を聴かせて魅了したバルトークの『ルーマニア民俗舞曲』はその一例だし、エネスクの作品なども(同じピアニストとのコンビが最適かどうかはこの際、不問に付しておくが)聴いてみたい。そのようなプロセスを経て、味わいと深みを増した、この奏者ならではのラヴェルやフランクをいつの日かふたたび聴けたら、と願う。
 年下の共演者、リリー・マイスキーのピアノについては別次元の問題もあるのだが、ふたりがより良いコンビを組むためには同様な指摘も有効だろう。

池田逸子(いけだ いつこ):東京生まれ。東京芸術大学音楽学部、東京大学文学部卒業。1968年頃より、批評・評論活動開始。ジャンルにはこだわらず、光の当たりにくい、優れた音楽家への注目を怠らないように努めている。1980年より独自な視点からコンサートやCDなどの企画&プロデュースも行う。「現代日本の作曲家」シリーズ(音楽の世界社)共編著、岩波講座「日本の音楽・アジアの音楽」共著、小学館「林光の音楽」編集協力など。

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