#  275

「東京JAZZ 2010」特集
<GROOVE>マーカス・ミラー with NHK交響楽団
2010年9月4日 昼公演 @国際フォーラム Hall D5 reported by高谷秀司 Hideshi TAKATANI

NHK交響楽団
デイモン・ガプトン 指揮
+
マーカス・ミラー(el-b)
アレックス・アンソニー・ハン(sax)
ルイス・アルヴィン・ケイトー(ds)
フェデリコ・ペナ(key)
クリスチャン・スコット(tp)
ロバータ・フラック(vo) 

photo by (c)中嶌英雄/(c)Hideo Nakajima
提供:東京JAZZ事務局

進化の存在証明「東京JAZZ」
第二楽章 「マーカス・ミラー with NHK交響楽団」

美しい街への招待状

すぐには、その街へは入らない。

たおやかな道を通って、門をくぐり、弦の響き合いの後で、マーカスの入り口にたどり着く。

Eの低いベース音。たった一音なのに、まるで雅なEのメジャー7のコードが鳴り響いたような錯覚に陥り、美しい街への扉が開く。

マーカスの音が、響いただけで、東京フォーラムの街が、新しい彩りに変化した。見事だ。

世に交響楽団とのコラボレーションと言われるものは、掃いて捨てるほどある。そして違和感のあるものも一杯ある。

そのどれもが、クラッシク側(交響楽団側)がイニシアチブをとっている。

世人は言う。クラシック側のレギュレーション(規制)とJAZZのFreedom(自由)がなかなか合わせづらいんだと・・・・・

今回の「マーカス・ミラー with NHK交響楽団」は、そういう今までの音楽界の常識、既成概念を剥ぎ取ってしまった。

逆説的な言い方だが、既成のJAZZは、むしろ自由であるより、不自由である場合が多い。なぜか、テーマがあって、ソロ32小節を何回やるか。次に誰がやるか。そして4バースは、どんな風にどんな順番で、展開するのか。テーマへの戻りの仕掛けはどうする、等など・・・。飽きあきするくらい不自由。

むしろクラッシクのほうが、再現するときに同じものであるというパラダイムはあるが、楽曲を創り込んでいくというプロセスの中で、クリエイティビティを発揮するという自由闊達さがある。

この本来あるクラッシクの自由闊達さを見事に機能させたコラボレーションであった。そのことによって、JAZZが原初的に持っている本来の自由さがもう一度目覚めた。

圧巻だったのは、サックスのアレックス・アンソニィー・ハンとトランペットのクリスチャン・スコットの4バース。息もつかせないぐらいアグレッシブでエキセントリックなときもある・・・・そう、二人のフレーズが九十九折りのように重なり合って私の脳髄に迫ってくる。・・・・・・・アンソニィーもクリスチャンに負けてはいない・・・・・・・・・N響はこの二人をひたすら支え続ける。
かと思えば、クリスチャンのアイスキューブのクリアなガラスに閉じ込められたローズ色のグラデーションのようにメロディックなフレーズ。そして、それを受けたアレックスの時折り、息をつく姿がいかにも、いかにも艶っぽい。

二人の管楽器プレイヤーの原始的なJAZZ魂を支えるマーカス・ミラーの音楽性は深く、広く、そして爽やか。マーカスの音楽性を具体的に実現したのは、やはり指揮をしたデイモン・カプトン。彼が真摯で屈強なNHK交響楽団と伸びやかなマーカスを見事に融合させた。

そして忘れてはいけないのがどの楽曲においても、タイトに支え続けたドラムのルイス・アルヴィン・ケイトー。

クラッシク川とJAZZ川を繋ぐ「運河」の役割を果たしたのは、キーボードのフェデリコ・ペナ。

さて、いよいよ、ロバータ・フラックの登場。あれっ、こんなに背が低かったっけ・・・でも圧倒的な存在感。
彼女は、差し詰めこの「運河」を渡る船の船頭かなーーー
まるで、NHK交響楽団やマーカスとは関係なく、舟歌を歌っている感じ・・・・・だけど合っている。
ロバータの唄声は、彼女の人間味で聴衆を包み込んでいく。

「そうだよ、JAZZってもともと肩に力の入らない唄なんだ」って。

ロバータのにこやかな笑顔とすべてを見透かされるような眼差しに気付かされた。

ロバータをそんな風にしてあげられるマーカス・ミラーは、ひょっとすると21世紀のバッハになるかもしれない。


Photo:(c)岡 利恵子 (c)Rieko Oka/東京ジャズ事務局

高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。 http://www.takatani.com

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