#  277

東京二期会オペラ公演「魔笛」
2010年9月9日@東京国立劇場
reported by佐伯ふみ photo:林 喜代種

 

「魔笛」
台本:エマヌエル・シカネーダー
作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
指揮:テオドール・グシュルバウアー
管弦楽:読売日本交響楽団
演出:実相寺昭雄
キャスト:小鉄和広(ザラストロ)、小貫岩夫(タミーノ)、安井陽子(夜の女王)、増田のり子(パミーナ)、友清 崇(パパゲーノ)、鈴木江美(パパゲーナ)、弁者(多田羅迪夫)
合唱:二期会合唱団

故・実相寺昭雄の演出による『魔笛』上演で、今回で4度目(初回は2000年)。ウルトラ怪獣たち(協力:円谷プロダクション)が登場し、俳優・寺田農が特別出演する(パパゲーノが首吊りをしようとする「マジック・ツリー」役)など、いかにも実相寺作品らしい仕上がりで、肩のこらない楽しい上演である。歌は原語だが、合間の芝居は日本語。わかりやすく、笑えるシーンがたくさんあった。

もともと『魔笛』というオペラ自体、時代・場所の設定がなく、ストーリーも音楽スタイルも何でもありの荒唐無稽なファンタジーなので、怪獣が出てこようが「僧侶」が「エッチ」な台詞を喋ろうが、イシスとオシリスの神殿の背景に巨大な阿弥陀如来像が映写されようが、ナンセンスな遊び心として楽しめてしまうのである。多分、台本作者兼興行主だったシカネーダーも、目の前の観客にウケるためなら流行りものは何でも取り入れたはず(彼が現代に生きていたら、もっと過激で猥雑な舞台になったかもしれない)。

モーツァルトが傾倒したフリーメイソンの思想を表現したオペラとも言われるが、「徳と愛」を求めて、嘆き悲しむ恋人を置いてきぼりに修行に励む高貴な王子なんて、オペラのストーリーとしてはちっとも面白くなく(およそモーツァルトらしくないと思うのだけど)、退屈になりそうになるとパパゲーノたち狂言まわしが笑いでひと息つかせてくれたり、「夜の女王」が意味もなく超絶技巧のアリアを披露して拍手喝采になったり、なんとか興味をつないで最後の大団円にたどりつく、そういう舞台なのである。

歌手たちは歌に芝居に大奮闘で、タミーノの小貫岩夫のなめらかな美声、ザラストロの小鉄和広の朗々たる歌唱(ただしこの人の最も得意とする声域はもう少し高めで、声質も明るさが特色のようだ)、パパゲーノの友清崇の芝居巧者ぶり、それぞれ印象的だった。3人の童子(青木雪子・金原智子・北村典子)の声質が見事に溶け合い、アンサンブルも確か。最も特筆すべきは、「夜の女王」の安井陽子の声と精確な歌唱と、パミーナ役の増田のり子だろう。

パミーナは重要な役柄だがほとんど主体性のないお姫様役で、これを優等生的にひたすら美しく可憐に演じられてしまうと、全体がなんだか抹香臭いお芝居になってしまう。けれど増田のり子の演技は、その素晴らしい声質(なめらかだがエッジがあって強靱)に、日本語芝居のセリフ回し・挙措動作があいまって(宝塚歌劇の娘役を連想した)、まるでタミーノをてきぱき引っ張っていく強気なお嬢様のような明確なキャラクターとなっていて、存在感が大きかった。この先の活躍に注目したいと思った。

舞台装置は、新国立劇場の機構を十分に活用し、場面に応じて変幻自在。「昼」と「夜」の2つの世界が交錯する物語をわかりやすく表現していた。衣装は加藤礼次朗(マンガ家)の原案。細部の意匠は大きな舞台では伝わりにくい印象も持ったが(例えば、パミーナの「青い髪」がよく見えない)、確かにその発想は、荒唐無稽なファンタジーには似つかわしいかも。



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