#  279

「東京JAZZ」特集:<JAZZ STREAM>ジャズ・クルセイダーズ
2010年9月5日@国際フォーラム Hall A
reported by高谷秀司/Hidesi Takatani photo:(c)中嶌英雄/(c)Hideo Nakajima/東京JAZZ事務局

ジャズ・クルセイダーズ;
ジョー・サンプル(ピアノ)
ウェイン・ヘンダーソン(トロンボーン)
ジェラルド・アルブライト(サックス)
モイエス・ルーカス (ドラムス)
グラディ・レジナルド・サリヴァン(ベース)

進化の展示場「東京JAZZ」
第4楽章

私は、正直、JAZZクルセイダーズに心酔してきた。そして、何度もそのステージを見てきた。しかし、今回も、やはり、心酔してしまった。

東京JAZZ 2010
まずは、ジョー・サンプルに魅了される。あのやや前かがみにピアノに向かい、黄金の指を撥ね上げる姿態。

ここまで、いやらしいくらい艶っぽく弾ける男のピアニストが世界中のどこにいる。弾ききらないで、押したり引いたりの情感。

フィジカル・コミュニケーションにも似ている。

人間という動物の感性とペンタトニック(ブルーノート)を奏でる色っぽさの共通性を見出し、見事に表現できる唯一無二のピアニスト。

つまり、ペンタトニックを自在に操れば、人間の奥にある色気を表現できることを証明した人。

彼が、7th(セヴンス)の音ひとつぶっ叩くだけで、心が解き放たれる。

そして、Bluesの臭いを少しもかき消すことなく、見事に、Jazzyになっている。

Bluesの本来持っている野性味を残したまま、ソフィスティケイティッドされたJAZZに昇華されている。まっ、彼にとっては、BluesとJAZZの垣根なんてない・・・・。

そして圧巻だったのは、ジェラルド・アルブライドのサックス。これこそ、筆舌に尽くしがたい・・・・私が、取材に来ているライターであるということを放棄した瞬間でもあった。

とにかく、どのソロもどのソロも、凄い。彼の最大の特徴は自分に向かって吹いている。自戒、自省、あるいは、快感、これらを自分の内なる世界に投影することによって果てしなく大きな宇宙とつながっている。人間が息を吹くことによって音が鳴る楽器SAX 。人間の生きる鼓動、生命力と常に一体化している楽器・・・・それがSAXであることを体現してくれた人・・・・ミュージッシャンズ・ミュージッシャン。それどころではない。私は、ギタリストとして嫉妬さえ覚える。なぜならギターは。息を吹かなくても鳴るから・・・・。

今回、サックスのウィルトン・フェルダーが、病気のため来られなくて残念がっている人も、多い。そのために会場に足を運ばなかったファンもいるだろう。

こんな事を言うと、彼のファンには怒られるかもしれないが(勿論、かく言う 私もウィルトン・フェルダーの大ファンです)。

今回彼が来れなかったことは、JAZZクルセイダーズ全体としては、成功だったと思う。
どっちのサックスがいいとか悪いとかの問題ではなく。JAZZクルセイダーズのサウンドつくりという意味で成功だった。

1954年以来、今まで、ウィルトン・フィルダー、ジョーサ・ンプル(p)、ウェイン・ヘンダーソン(tb)、スティックス・フーパー(d)で作り上げてきた ものを、いい意味で崩壊させた。この見事な崩壊を意識しないで演出したジェラルド・アルブライドはJAZZクルセイダーズにとっては、星の王子様だ。今までの音をパラダイム・シフトさせ、ゼロ・ベースで立ち上がらせた。それによって、新しいクリエイティビティを生み出した。

いい音楽を常に生み出すには、ポリシー(サウンドの核、軸、バンド・カテゴリー、そのバンドらしい独自の音)とイノヴェイション(革新、カテゴリィーの組み換え、新しい取り組み)の両方が必要だ。

JAZZの創造力の源泉は、ポリシーとイノベイションとのバランスだと言い切っても過言ではない。

東京JAZZは、JAZZクルセイダーズにとって、まさしくイノヴェイションの場、進化の場だった。JAZZが本来持っている自由闊達さが見事に蘇った。

次にウィルトン・フェルダーが戻ってくるのが楽しみになる。クリエイティヴな変貌を遂げたと思う。

だって、トロンボーンのウェイン・ヘンダーソンは、いつもの相方じゃない。アルブライトのソロを聞いて、凄すぎて、聞きほれて、苦笑いして、なかなか自分のソロを吹かない。いや吹けない。

このソロとソロの間が空いているのがカッコいい。
アルブライトのソロが突然終わって、照れながら吹き出すウェイン。彼が妙に、少年のように可愛らしいと思うのは、私だけではないだろう・・・・。彼のむき出しになった純粋無垢な姿にJAZZ本来の息吹を感じる。
「ありがとう。」「ありがとう。」「ありがとう。」を連発する彼の日本語のMCが、演奏との区別のない自然なパフォーマンスに見える。ここに彼の人柄が見事にマッチする。

このタイトなサウンドを支えているリズム隊は、言わずと知れた二人のJr。ドラムのモイエズ・ルーカスJr、ベースのクレディー・レジノルド・サリバン Jr。バンド全体のシンコペや決めのリフは、一滴の水も漏らさない。グルーブのある正確無比なドラミングには、正統派JAZZの遺伝子のDNAを感ずる。時折、元祖スティックスフーパー・フーパー(クルセイダーズの前身 スゥイング・スターズのドラマー)を髣髴とさせるスティックさばきは、JAZZ DNAの遺伝子の連鎖だ。

今回のステージ全編を通して、一回もベースソロがないのも、形式にとらわれないJAZZクルセイダーズの真骨頂だと思う。

彼らは、帰国して、もう次の進化への準備に取り掛かっている。私も出遅れてはいけない・・・・。いざ・・・・来年はこのステージの上に私がいる・・・・。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
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