#  282

御喜美江「アコーディオン・ワークス2010」
2010年9月18日 @浜離宮朝日ホール
reported by 佐伯ふみ 写真提供:クリスタルアーツ



御喜美江(アコーディオン)
[共演(すべてアコーディオン)]
大田智美
柴崎和圭
荒木菜穂子
松原智美
ヘイディ・ルオスイェルヴィ

御喜美江の「アコーディオン・ワークス」は、今年でなんと20回目。1989年、故・萩元晴彦プロデューサーのもと、カザルスホールで始まった画期的なコンサートが、こつこつと時を積み重ねて、いつのまにか20年。加えて、ドイツの音楽大学で教え始めて30年、初めてアコーディオンを習い始めてから50年(! 御喜は小学校入学前にアコーディオンに出会い、中学卒業と同時に、単身、ドイツに留学している)の節目の年だそうで、その遙かな道のりを見晴らすようなテーマ「アコーディオンの地平線」のもとに、多彩な曲が並んだ。共演の若手5人は彼女の教え子である(孫弟子!までいるらしい)。曲間にはさまれるミニミニ・インタビュー(高橋悠治やcoba とのトーク)が御喜の人柄を表していて楽しく、満員の客席も和気あいあい。笑いと温かな拍手に包まれた、20周年記念にふさわしいコンサートであった。

 冒頭、椅子が1つだけ置かれたシンプルな舞台に登場した御喜がまずソロで、『調子のよい鍛冶屋』『枯葉』などこれまでたびたび舞台にのせてきた愛すべき小品を聴かせ、以後は2台から6台までアコーディオンの合奏曲が並んだ。J.ティエンス『ムッタ』(3台)、高橋悠治『雪・風・ラジオ』(2台)。coba作ツァーベル編『SARA』(3台)、S.ライヒ『6台のアコーディオン』。

ティエンスの『ムッタ』はリズムとダイナミクスの実験場のような激しい常動曲。インパクトの強い作品だったが、あとに続く高橋悠治の、音数を極端に絞った、たゆたうような独特の時間感覚の作品が、存在感という点でティエンス作品に負けていなかったのが非常に面白かった。cobaの『SARA』は理屈抜きで楽しめる楽しい作品。

最後のライヒは単純音型が延々と反復されるミニマル・ミュージック。御喜の公式ブログでは、総勢6人でこうした曲を合奏する苦労がつぶさに語られている(http://mie-miki.asablo.jp/blog/)。それによると「6人が八分音符の連続のみを約18分間弾く」この作品は「少しでも粒が揃わないと全体が濁ってしまう。またちょっと遅れたりずれたりすると『ああ、疲れてきたな』と聞こえてしまう」。反復音型をいかに正確に合わせ、そこから浮かび上がる微妙な差異をいかに際立たせるか、奏者の手腕が試される作品で、聴き応えがあった。

後半の冒頭は、直前に行われたJAA国際アコーディオン・コンクール優勝者が演奏するという触れ込みで、偶然というべきか、当初からの共演者ヘイディ・ルオスイェルヴィが優勝したため、彼女がソロで吉松隆作品を演奏。さらに共演の松原智美も第3位入賞とのこと。弟子たちの水準の高さから、御喜の教育者としての力量がうかがわれる。何よりも、6人の奏者がずらりと居並んだ舞台そのものが、ドイツでの長期にわたる教授活動が豊かな実を結んでいることを証明していた(コンサートが始まったとき、舞台にはたった1つの椅子――御喜のソロ――しかなかったのだから)。アコーディオン音楽の革新と発展に、御喜美江がどれだけ大きな貢献をしてきたか。日本でももっと評価されてよいし、活躍の場が広がるべきアーティストだと思う。





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