#  284

Johnny La Marama
2010年9月23日 @南青山・月見ル君ヲ想フ
reported by 稲岡邦弥(photos with iPhone)

Opening act:
日比谷カタン(g, vocal)
Johnny La Marama:
カーレ・カリマ (g, voice)
クリス ・ダールグレン(b, el-b, voice)
エリック・ シェーファー (ds, voice, 水留音 雫)
VJ:岩崎裕和

休日のダイヤはアテにならない。バスなんか平気で間引きする、と噂されるくらいまともには来ない。僕の住む横浜の郊外では。そんなわけで少し早めに家を出た。そういう時に限って乗り継ぎがテンポ良くいって30分も早く着いた。
ベルコモンズの向いのスターバックスに入ってコーヒーを頼んだ。「アニバーサリー・ブレンドになっています」という。そうか今日は祭日だったんだ。「秋分の日」ね。アニバーサリーか。とくに変わった味はしなかったけど。青山通りに面したカウンターに座って道行く人を眺める。祭日の12時。いろんな人が通り過ぎる。いろんな人生を背負って。隣の白髪まじりのシニアに若い女性が遅れて着いた。「いいかい、この世の中には男と女しかいないんだ」。なんだか嫌な雰囲気になってきた。「最初から寝ようとは言わないよ。1、2回食事をしてみて気に入ったらベッドに行けばいいんだ」。なんだいこのオヤジ、ヘンリー・ミラーでも気取ってるのか。祭日の真っ昼間にスタバで女をくどこうってのかい。なんだかジェット・ラグを負ったまま旅先の街のカフェに座ってる気分だ。
外苑前の交差点を青山墓地方面へ下る。モロッコ料理店を過ぎると「医食同源」の看板。中国料理だ。「SKI SHOP JIRO」。何かで一時期話題になったな。筋向かいは「馬肉専門店」。小道を挟んで「トルコ料理店」。地下が「月見ル君想フ」だ。信号を待っていたら女優の冨士真奈美似の美人に向かいから微笑みかけられたような気がしたが、用心。昔、友人が思わずつられて飛び出しクルマに跳ねられた。
ステージに大きな満月を背負った日比谷カタンがいた。椅子に腰掛けて。名前の由来は知らないが、レコード会社に勤務していた頃、アーチストに贈る花束はきまって日比谷花壇から出していた。日比谷花壇の御曹司なのだろうか。遠目には姿形がDAIGOにそっくりだ。DAIGOって竹下元首相を「ウチのじいちゃん」呼ばわりしてデビューしたタレント。一応ロック・ミュージシャンでもあるらしい。日比谷カタンの声は素晴らしい。ギターも素晴らしい。歌詞はよく聞き取れないが形而下と形而上を往来しているような感じ。夢想と現実と言った方が適切か。歌詞とメロディの関係は途方もない。譜割り?関係ない。字余りどころの騒ぎではない。「寄せて上げて」それでもまだはみ出した歌詞を無理矢理メロディに乗せている感じ。間奏のギター・ソロが凄い。コードとラインをあっというようなスピードで駆け巡る。しかもすべてダウン・ピッキングで(のように見えた、遠目には)。「彼岸の中日」ということで「満月」にちなんで、さだまさしの<まほろば>を歌ったが、これは文句無しにさだを超えていた。歌唱力では。トークで笑いを取りにいく必要はないと思うのだが、カタンの本来のファンがどう思っているのかは分からない。
「ジョニー・ラ・マラマ」。彼らのライヴを聴くまで「ジョニー・ラ・ママ」と思い込んでいた。その昔、ロフト・ジャズ華やかなりし頃、NYに「ラ・ママ」という小屋があって(今もあるのかな)時々足を運んでいた。その名残りである。この「ジョニー・ラ・マラマ」についてもネーミングの由来は分からない。
ギターのカーレはフィンランド、ベースのクリスはアメリカ、ドラムのエリックがドイツ。そして活動拠点がベルリンだ。ベルリンには世界各国からさまざまなジャンルのミュージシャンが出入りしている。だから多国籍のバンドも珍しいことではない。音楽だってジャンルを横断するのはたやすいこと。ロックからジャズに入って、オルタナティヴに戻るなんて珍しいことではない。そういう意味では「ジョニー・ラ・マラマ」(JLM)は極めて「ベルリン的」なバンドといえるだろう。たまたまスイスINTAKTレーベルの「デア・ローテ・ベライヒ」(The Red Zone)というバンドのCDを聴いていたのだが、これもベルリンを拠点とする3ピースのバンド(ギター、バスクラ、ドラムス)で、ベルリンのアヴァンガルドを象徴するような演奏をする。JLMはDRBのよりポップなヴァージョンといえばよいだろうか。DRBはシリアスでシニカル。ときに諧謔味を見せることもあるが。演奏技術と音楽性が秀でているところは共通している。ヴォーカル抜きの「ポリス」を思わせる<アンディーズ・サマー>で始まったショーは、ロック的であったり、ジャジーであったり、ノイジーであったり、刻々と変化していく。シリアスなアヴァンガルドに思わず身を乗り出すと、1コーラスくらいでさっと身をかわされる。オープンなリズムに脳味噌を拡散させていると、急に収縮して定則ビートに乗って身体を揺すられているという具合。VJの岩崎裕和がホリゾントに投影するヴィジュアルのスイッチング・テンポが音楽とぴったりシンクロしたり、あるいは交錯したり、双方で奇妙なリズムを生み出し一瞬たりとも脳の弛緩を許さない。そんな心地よいテンションの連続の中で出現したオアシスが「水留音 雫」だった。「すいるおん・しずく」。
以前どこかの寺の境内で「水琴窟」(すいきんくつ)に耳を澄ませたことがあったがそれを連想させるような「太古の響き」を蘇らせる打楽器。陶芸家 篠崎孝司氏の手になる陶器の楽器で、初めて耳にする。ベルリンに取り寄せてリハを繰り返したというエリックが妙なる調べを紡ぎ出す。ドラマーはシロフォン系も担当する本来優れたメロディー・メイカーでもある。カーレとクリスが背後から繊細でSE的なサウンドで忍び込んでくる。宇宙の果てで予期せぬことが秘かに進行しているのか。場内は一音も聞き漏らすまいと水を打ったように静まり返っている。
アンコールのタイトルは<Your Jazz is Dead>。早世したジャズ評論家中野宏昭の遺稿集の表題「ジャズはかつてジャズであった」を思い出しながら「彼らの」デフォルメされたジャズを聴いていた。
クラブを出ると雨が上がり、祭日の街がやっと始動し出していた。





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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
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