#  286

武満徹 80歳バースデー・コンサート
2010年10月8日 @東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアル
reported by 佐伯ふみ photo by 林喜代種

オリヴァー・ナッセン(指揮)
ピーター・ゼルキン(ピアノ)
東京フィルハーモニー交響楽団

ウェーベルン:管弦楽のための6つの小品op.6(1928年版)
ナッセン:ヤンダー城への道op.21a〜ファンタジーオペラ『ヒグレッティ・ピグレッティ・ポップ!』によるオーケストラのためのポプリ
武満徹:リヴァラン
武満徹:アステリズム
ドビュッシー:聖セバスティアンの殉教――交響的断章

武満徹(1930〜96)のメモリアルコンサートを聴いた。存命であれば80歳。生前に十数年にわたって交流のあった、現代イギリスを代表する作曲家オリヴァー・ナッセン(1952〜 )がプログラムを組み、みずから指揮をして、亡き友の思い出に美しい音楽の花束を捧げた。

当日配られたプログラムは簡素でありながら読み応えがあり(作品解説は岡部真一郎氏)、ゆかりの人々(大江健三郎、ナッセン、ゼルキンの各氏)によるメッセージは故人への哀悼の気持ちのこもった心温まるものだった。細部まで行き届いた編集である。

当夜の最大の立役者は、やはりナッセンであろう。ウェーベルンから始まって、ナッセン自身の作品、武満の2作品、最後にドビュッシーと、「死」あるいは「亡き人」に思いを馳せる作品を選び、それぞれに持ち味の違う音楽を、聴衆の興味を最後までそらさないよう、緩急をつけて並べた曲目構成。岡部氏の解説にあるとおり、「極めてナッセンらしい選曲のセンスが光ったプログラム」であった。巨漢ナッセンの風貌からはちょっと想像もつかないような(失礼!)繊細で心優しい気遣いと、故人への深い思いをひしひしと感じさせて、素晴らしかった。

ナッセンの指揮で最も印象に残ったのは、最弱音の扱い。ピアニッシモの最弱音は、音量やパワーの点で「弱い」「小さい」部分ではなく、フォルテッシモ(最強音)に比肩しうるテンションの高さを要求する、とはよく言われることだが、ナッセンのピアニッシモは、テンションというだけではとても説明できないような、実に多彩で雄弁な響きをもっていた。

特に、冒頭のウェーベルンで聞かせた地鳴りのようなピアニッシモは忘れがたい。「予感」というようなものが音として表現されるとしたらこのようなものか、と思わされた。自作の『ヤンダー城への道』では、お伽噺の非現実的な明るさをピアニッシモで聞かせた(ただし単なる明るさではなくて、複雑な陰翳も含んだ明るさなのだ)。そして最後のドビュッシーでは一転して、耐えがたいような重苦しさをピアニッシモが伝えていた。

武満の2曲『リヴァラン』と『アステリズム』は、あいだに休憩をはさむ形で演奏され、ともにピアノ・ソロはピーター・ゼルキン(『リヴァラン』の初演者)。力強く、高い集中を保って弾ききったゼルキンに、惜しみない拍手喝采が送られていた。

すべてにおいて質の高い公演であり、今もなお武満を惜しむ人々の思いの深さを思わせられた一夜であった。






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