# 288 |
小曽根真 Road to Chopin〜featuring YAMAHA CFX |
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小曽根真(piano*ヤマハCFX使用)
Anna Maria Jopek(アンナ・マリア・ヨペック;vocal)
曲目:*(小曽根真)を除いてすべてショパン作曲
プレリュード第15番「雨だれ」op.28
ワルツ第6番「小犬」op.64-1
マズルカ第13番op.17-4
マズルカ第24番op.33-3
パンドラ*
エチュード第4番op.10
《休憩》
ドゥムカ(「あるべきもなく」)
マズルカ第48番op.68-3
プレリュード第4番op.28
ツラネチュカ(*ポーランド民謡)
ノクターン弟2番op.9
《アンコール》
Times like These*
マズルカ第2番(「クヤヴィヤック」) op.6-2
音楽とフォームの関係、記譜されたものと即興との間に横たわる組み換えと創造のダイナミズム、楽器の進化とホールの音響が出会うところで生まれる偶発の美、「メロディの美しさ」という無上のシンプルさを前にすべてが瓦解するジャンル分けの不毛...、などについて雄弁に語るステージだった。 |
小曽根本人がMCで述べていたように、この「すべてを直観的にリズムとコードに分解してしまうというジャズ・ミュージシャンの癖(へき)」へ真っ向から斬り込んだのが、『マズルカ』という形式である。『マズルカ』は1930年から晩年まで通してショパンが作曲し続けたという、まさに大作曲家のライフ・ワーク。祖国と母語への思慕の情が、マズルカほど色濃く反映されている形式はほかにない。ポーランド各地の伝統に基づく庶民の民族舞踊、との認識が強く、その複合的な変拍子にばかり関心が行きがちだが、小曽根が着目したのは舞曲としてよりも人々が口ずさむもっとシンプルな「うた」としての、いわば「民謡」としての『マズルカ』ではないか。リズムよりもメロディ、そこには何よりもまずポーランド語の語感による生活感情が渦巻く。アファナシェフばりに「『マズルカ』は過ぎ去りし日々を追憶するための儀式であり、死へすら導かない永遠の旋回」とまで断言はしないが、確かに時空を跨ぐ第四次元に属する、大地が匂いたつかのような「気」に満ちている。呪詛にも似た、目に見えない民族のDNAに受け継がれるマズルカを現代の文脈で音化するにあたり、ワルシャワ出身で自らもピアノに通暁し、ショパンの音楽を空気のように吸収しながら育ったというアンナ・マリア・ヨペックを歌姫に迎えることはまったく自然な成り行き。前半で弾いたマズルカ第24番が、絶妙にコード分解されてディキシーランド風の仕上がりになったのとは対照的に(「ルーツ」としてのマズルカ、を炙りだしたという点で、これはショパンをフィルターとした小曽根からジャズへのオマージュか?)、後半ヨペックとのデュオで奏された第48番は、ごく自然にヴォイスと歩調を合わせてのハミング。ヨペックはよほど聴覚バランスに秀でているのか、ピアノの音の伸びとのディスタンスのとり方が巧い。ピアノへ接近したり離れたりしながら、ヨーヨーのように響きを伸縮させる。ピアノの後方からにじみ出してくるかのような発声をしている箇所もあり(ステージ後方の席からはどう響いたのかに興味ひかれる)。咽を管楽器風に鳴らしたり、ほとんどブレスが占めるかすれ発声、足踏みによるリズミックなノイズなど、手法としては新しくはないが、時折すっとぼけた感じもするイノセントでクリアな声質は、寂寥かつ清涼。シンプルなメロディにそれだけで存在意義を与える。メジャーでやっていくうえでの「歌姫」にとっての基礎要件、ステージ映えと存在感、可憐さ。MCは英語だが、いかにもポーランド語訛りが尾を曳いていて可愛らしい。終盤に至って小曽根のピアノも、内部奏法を多用したりのインプロっぽさを露出。その弦によるアグレッシヴさが儚げ(はかなげ)なブレス=ヴォイスと持ちつ持たれつ侵食しあう様も聴きどころ。 |
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
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#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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