#  291

NISSAY OPERA 2010《オルフェオとエウリディーチェ》
2010年11月14日@日生劇場
reported by 佐伯ふみ photo by 林 喜代種

作曲:クリストフ・ヴィリバルト・グルック
台本:ラニエリ・デ・カルツァビージ
指揮:広上淳一
管弦楽:読売日本交響br.楽団
合唱:C.ヴィレッジシンガーズ
合唱指揮:田中信昭
演出:高島勲
美術:ヘニング・フォン・ギールケ
振付:広崎うらん
キャスト:宮本益光(オルフェオ)/津山恵(エウリディーチェ)/西山友里恵(アモーレ)

ドイツ生まれで、ヨーロッパ各地で活躍した18世紀の作曲家グルックが、1762年、48歳という円熟期に作曲・初演した《オルフェオとエウリディーチェ》。それまでのオペラのありかたに飽きたらず、作劇・作曲の面でさまざまな革新的な新機軸を打ち出し、後世に「グルックのオペラ改革」として称えられる嚆矢となった作品である。初演時から大きな反響を呼び、イタリア、フランス、イギリス各地で再演されたのだが、そのつどその地の上演事情に合わせて改変されたため(必ずしも作曲者自身の改訂ではない)、多くの「異稿」が存在する作品でもある。今回の日生劇場での上演は、ウィーン初演の本来の形(ウィーン版)で行われた。

主役オルフェオは、バロック時代に異形の芸人として絶大な人気を誇ったカストラート(去勢により高い声域を保持したまま成人した男性歌手)が歌うよう指定されている。それを今回は、メゾ・ソプラノ歌手(手嶋眞佐子)とバリトン歌手(宮本益光)のダブルキャストで上演するという新しい試み。2つを聴き比べてみたかったが、残念ながら1回のみ、2日目の宮本オルフェオの回を聴いた。

主要登場人物はオルフェオとその亡き妻(冥界にいる)エウリディーチェ(ソプラノ)、オルフェオの深い嘆きに応えて、2人を再会させるべく動く愛の天使アモーレ(ソプラノ)の3人のみ。作曲者グルックの工夫の1つは、ギリシャ劇で重要な役割を果たしていたコロスを復活・登場させたことだ。コロスとはつまり合唱団なのだが、舞台(演技者)と客席(観客)の間に立って(実際のポジションと心理的な役割との両面で)、舞台で展開されている劇を説明したり、悲しみや驚き、喜びといった感情を強調して表現するといった役割をもっていた。今回の上演ではこのコロス(C.ヴィレッジシンガーズ)が非常に美しく練られた歌唱で、このドラマの牽引役を立派に果たしていた。宮本益光の艶のある安定した美声、エウリディーチェを演じた津山恵の、強さと美しさを兼ね備えた声と凛とした立ち姿、アモーレ役西山友里恵の軽く転がるようなソプラノはいかにも愛らしく、3者ともはまり役であったし、水準の高い上演だったと思う。広上淳一指揮の読売日本交響楽団も、艶やかによく歌う管弦楽で、舞台上のドラマにぴたりと寄り添った流麗な美しさは見事だった。

ただ率直に言って、もっと面白い舞台にできたのではと、もどかしい思いをさせられる公演でもあった。1つは、音楽づくりそのもの。グルックの音楽は、舞台上で進行するドラマを、出来事や登場人物の感情に至るまで逐一(あざといほどに)描写している音楽なので、もっと劇的に、もっとケレン味たっぷりに、オーケストラが主導権を握る形でメリハリのきいた音楽づくりもできたのでは、と思われたこと。そして演出・美術・振付それぞれが、1つ1つを取り出してみれば面白い試みはいろいろあったものの、全体として、このドラマの上演で何を観客に伝えたかったのか、今ひとつ明確なコンセプトが見えない舞台だったように思う。このオペラのストーリー、言わんとするメッセージはこれ以上ないほどシンプルだ(「愛の力の偉大さ」)。だからこそ、逆に「いじりよう」はいくらでもあると言えようか、作り手の側のクリエイティヴィティが鋭く試されるオペラなのかもしれない。






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