#  297

ジュリアーノ・カルミニョーラ with ヴェニス・バロック・オーケストラ
2010年11月30日 @トッパンホール
reported by 佐伯ふみ photo by 林喜代種

ジュリアーノ・カルミニョーラ(ヴァイオリン)
ヴェニス・バロック・オーケストラ

オール・ヴィヴァルディ・プロ:
弦楽と通奏低音のためのシンフォニアより3曲
(イ長調RV158/ホ短調RV133/変ロ長調RV167)
ヴァイオリンと弦楽および通奏低音のための協奏曲集《和声と創意への試み》より5曲
(第10番変ロ長調RV362/第5番変ホ長調RV253/第6番ハ長調RV180/第8番ト短調RV332/第11番ニ長調RV210)

いやはやすごいコンサートであった。
どちらかというと、ヴィヴァルディをバロック・オケでたっぷり聴けると楽しみにして出かけた演奏会だったのだが、終わってみると、このオケの音楽監督でありソロ・ヴァイオリニストであるカルミニョーラのカリスマ・パフォーマンスにノックアウトされた観あり。ヴィヴァルディを聴いたというより、カルミニョーラを聴いたというべきか。ただし、こんなに面白いヴィヴァルディは聴いたことがない、というのは確かだ。

当初のプログラムでは前半はカルミニョーラなしのオーケストラ演奏のみだったはずが、おそらくファンの期待に応えてのことだろう、急遽後半のプロからソロ・ヴァイオリンの入る《和声と創意への試み》の2曲が前倒しして演奏された。
カルミニョーラは黒のタートル、ジャケットの胸ポケットからは真紅のチーフをのぞかせ、オケの仲間よりも額ひとつ高い偉丈夫ぶりで、聴衆の期待(自分の魅力)を十分に意識しての堂々たる登場である。いざ弾きはじめるや、自由自在にテンポを揺らし、高音に一気に昇りつめたかと思うと音階(スケール)的なパッセージを超スピードで正確無比に弾きこなす。間合いをわざと外し、半呼吸速く突っ込み、隣で伴奏するチェンバリストを挑発したかと思えば、難所のパッセージを弾きながら落ち着きはらって客席を見据えてみせるカルミニョーラ。まさにイタリア男のパワー全開、ここまで徹底してやられたら降参するほかない。

否応もなくカルミニョーラの世界に引き込まれながら、19世紀のヴィルトゥオーソとは多分こんなふうだったのだろうなとしきりに思った。客席のご婦人方が興奮のあまり失神したというリスト、その演奏のあまりの吸引力に悪魔的な禍々しささえ感じさせ、死んだときに教会墓地への埋葬を拒否されたというパガニーニ。現代の、品良く折り目正しいクラシック音楽会では下手をするとキワモノ扱いになりそうなこうしたパフォーマンスも、ある意味、王道を行っているのである。

それに、カルミニョーラの音楽は決してキワモノではなく、下品に堕すものでもない。《和声と創意への試み》第8番第2楽章ラルゴのソロのなんと美しかったことか。シンプルなカンティレーネの旋律を、このうえもなく繊細な美しい音色で、つぶやくように、語りかけるように歌いきったカルミニョーラに、この人の真骨頂を見た。

最後にぜひ記しておきたい。冒頭3曲、ヴェニス・バロック・オーケストラのみで演奏された協奏曲も非常に面白かったのだ。ヴィヴァルディの作曲がさまざまな工夫をこらされたものであることがよく伝わってきたし、演奏も、古楽器そしてイタリアの音楽家ならではの人間的温かさを感じさせる音楽づくりで、好感がもてた。カルミニョーラは圧倒的な存在感がある分、少々うるさくも聞こえてくるのだ。カリスマ音楽監督抜きで(!)このオケをじっくり聴く機会がほしい、などとも思った。




WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.