#  314

カート・ローゼンウィンケル・トリオ
2011年2月5日 @モーション・ブルー・ヨコハマ
reported by 高谷秀司 photo by 宮野川 真/Song X Jazz @モーション・ブルー・ヨコハマ 2010

カート・ローゼンウィンケル (g)
エリック・レヴィス (b)
コリン・ストラナハン (ds)

実に、凄かった。
カート・ローゼンウィンケル。
私は、まだこれほどの人に、出会ってはいなかった。

表現者の自己主張という概念を根本から考えさせられるギタリスト。
たとえて言うと、
「傘かしげ」
・・・江戸しぐさ、という日本人の端正なエチケットやマナーを総称する言い方がある。

傘かしげ・・・雨や雪の日、傘をさした人同士が、互に濡れないように、傘を人がいない外側にすっと傾げてすれ違うしぐさ・・・。

JAZZというカテゴリーを外側にすっと傾げてすれ違う・・・
実に奥ゆかしい。

通常、演奏家は、今日はノリがいいとか、GROOVEが出たとか、言いつつ、少々荒くってもノリさえ出れば、と考える・・・

つまり、表現者の表現したい欲求のほうが先走って、ギターを弾く指先まで伝わらない。あるいはギャップがある。

顔で弾くギタリストなんて言い方まである。情念が先走ってしまって、顔の表情は凄いのだけれども、音がそれほどでもない・・なんてっ・・タイプ。

カート・ローゼンウィンケルは、それらとは全く対極にある。
実に、理性的な表情なのに、出ている音は情念に満ち溢れている。
そしてその演奏スタイルは、いわゆる JAZZの系統図のどこにも当てはまらない。
とくにJAZZギターの場合、確立した系統図がある・・・・。
つまり、
だれだれ風という言い方ができない、まさしく、THIS IS KURT ROSENWINKEL。
勿論、今までも、系統カら外れた人はいる。ジョン・マクラフリン、ラリィー・コリエル、アラン・ホールズワース・・・。
外れ方もそれらのギタリストと趣を異にしている。

質素な正統派。ギターという楽器を知り尽くした正統派。
ここで言う正統派とはどういう意味か・・・。
例えば、私が、あるスタンダードをソロギターで演奏するとき、編曲を編曲者に頼むというアプローチがある。それも、ギターという楽器の特性を知らない人に頼む・・意図的にそうする・・・
とどうなるか。
どうやっても、ギターでは演奏できないアレンジになっている場合がある。指が届かない。隣接した音が同時に出せない・・・。

アレンジャーと喧々諤々(けんけんがくがく)遣り合って、ぎりぎりのところで合意する。そして必死で練習する。そして、完成する。このプロセスがギタリストにとってギターの可能性を広げる試練である。

コードやコードフォーム、指癖に頼らないで、ギターがオーケストラになる瞬間、といってもいいかも知れない。
カートは、このプロセスそのものをライブのインプロヴィゼイションの中で、瞬時に、やり遂げている感がある。
パターン化したフレーズが見当たらない。どの曲も違うアプローチと音遣いがある。どのパッセージも、何か降臨している感がある
私は、プロのギタリストとして、嫉妬すら感じる。

ベースのエリック・レヴィスとドラムのコリン・ストラナハンの二人は、この本質をよく理解したうえで、極上の音を紡ぎだしている。
音楽以上の信頼関係で結びついた3人のメンタリティーは、いつしかヒューマンな語り部になっている。
コリンのドラムは確かなテクニックに裏打ちされている。スネアを中心としたロールのテクニックは、正確無比。そして、彼のルックスとかけ離れた艶ぽっさがある。

ライブの終焉を迎えたとき、ほのかな余韻とローズヒップの香りがした。

私はしばらくKURTの追っかけをやろう・・・・。

* 関連リンク
『カート・ローゼンウィンケル/リフレクションズ』
http://www.jazztokyo.com/newdisc/642/rosenwinkel.html
『カート・ローゼンウィンケル/アワー・シークレット・ワールド』
http://www.jazztokyo.com/five/five724.html



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