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新国立劇場オペラ公演 團伊玖磨『夕鶴』
2011年2月4日 @新国立劇場
Reported by 佐伯ふみ 写真:新国立劇場「夕鶴」/撮影:三枝近志

指揮:高関 健
管弦楽:東京交響楽団

演出:栗山民也
美術:堀尾幸男
衣裳:植田いつ子
照明:勝柴次朗

【キャスト(4日公演)】
つう:釜洞祐子
与ひょう:経種廉彦
運ず:工藤 博
惣ど:峰 茂樹

これまでに700回以上上演されているという、日本オペラの名作(初演1952年/改訂56年)を、新国立劇場のプロダクション(2000年、栗山民也演出の再演)でじっくりと観る機会を得た。全1幕2場、登場人物はわずか4人(それに子供たち)のシンプルなオペラなのに、観るたびに、何か非常に深く豊かなものが胸に残る。戦後間もなく生まれた作品にもかかわらず、古さをまったく感じさせず、時を超えて多くの人々に愛される作品であることを改めて納得した。

舞台の上手手前に、与ひょうとつうの住む小さな家。そしてその背後に限りなく大きく広がる空。この空はつうの「本当の住処」を示していて、幕切れ、この空に帰っていく一羽の鶴を与ひょうが茫然と見送ることとなるのだが、この空の色が素晴らしい(照明:勝柴次朗)。いかにも雪国の空を思わせる、はかなげな、ごく薄い青。からんとしたこの空は、雪原の冷気を伝えてくると同時に、(人間の心の深淵をまざまざと見せつけられた時の)寒々しいような心持ち、虚しさ、孤独といった心象風景の表現でもあるようだ。雪原にぽつんとたたずむ小さな家は、物語の終盤、与ひょうがつうの機屋を覗いてしまったあと、いつの間にやら屋根も壁も失って、廃屋となっている。無邪気な欲にかられて最も大切なものを失ってしまった、与ひょうの心の荒廃を表すかのようだ。

全編を通じて最も印象的だったのは、前半、子どもたちが「かごめかごめ」を歌う円の中央で、つうが不安に押しつぶされるように顔をおおって立ちすくむシーン。やがて「あんたはだんだん変わっていく。あたしとは別の世界の人になっていく……」の独白につながっていく場面である。異変を感じた子どもたちが一人また一人と去ってゆき、つうがたったひとり雪原に取り残される。沈黙のうちに展開される子どもたちの動き、そしてオーケストラの間合いが素晴らしく、つうの悲しみと孤独がひしひしと伝わってきて胸が痛くなった。ここに限らず、幕切れの鶴を見送るシーンなども、子どもの動かし方にセンスの良さを感じた(もちろん子どもたちの歌唱もきびきびした動きも素晴らしかった)。

作曲にあたって團伊玖磨は、原作者の木下順二から、戯曲の一言一句変更してはならないと条件を付けられたそうだ。作曲はしにくかっただろうが、やはりその意味はある。見終わって、日本語はなんと美しいのだろうと改めて思い、ていねいに登場人物の心の動きを追う作劇も、いっそ新鮮で好もしい。

つう役の釜洞祐子は、その声の質や舞台の立ち姿からしてはまり役。美しかった。日本語の聴きとりやすい発音という点では、惣どの峰茂樹が目立って巧みだった。与ひょうの経種廉彦も、役によくはまって、その立ち居振る舞いで与ひょうの(愚かなまでの)無邪気な単純さをよく伝えていた。運ず(工藤博)はわかりやすい悪人ぶりで存在感を発揮。

新国立劇場のオペラには初登場の高関健の指揮は、非常にていねいな音楽づくりで、描写的な部分では細かな音の動きも見逃さずにきっちりと場面の意味を伝え、抒情的に歌う部分では、節度を保ちつつ流麗にオーケストラ(東京交響楽団)を歌わせていた。全体を通じて、よく練れた質の高い公演であった。



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