#  319

ホーヴァール・ステューベ・カルテット
2011年2月5日@東京TUC
Reported by 高谷秀司 Hideshi Takatani Photos by 前沢春美 Harumi Maezawa, Courtesy of Office Ohsawa

ホーヴァール・ステューベ(g)
クヌート・リースネス(sax) 
トルビョルン・ゼッターハーグ(b)
ホーコン・ミョーセット・ヨハンセン(d)

ホーヴァール・ステューベというギタリストは、我々を確実にJAZZの原点に引き戻してくれるギタリストである。
ここまで素朴なギタリストに出会ったことがない。
北欧のおおらかさを見事に聴かせてくれた。
かといって私はそんなに、北欧のことを知っているわけではない。
しかし、あれだけ寒いところでは、おおらかでもないと生きられないと勝手に思っている・・・。
そのおおらかさが、ホーヴァール・ステューベを、JAZZの原点たらしめている理由である。

概して、現代のギタリストは、オールラウンダーであろうとする人が多い。
サンバ、ボサノバ、ラテンの濃いやつ、それからバップ。
曲調やフレーズに、それから作曲、編曲・・・。

特に、コードワークのオールラウンダーは実に多い。いかにUーXが見えないようにアドリブを演奏するかとか・・・。
それが結果として、演奏や理論そのものが見栄になって、そしてそのことで見栄の上塗りをしていく。このことがJAZZを変な方向に変容させた理由でもある。

彼には、見栄のかけらもない。すべて、直球勝負。清々しい。
堂々とEの開放コードを弾ききる。JAZZのカルテットのギタリストでEの開放を弾いているのは久しぶりに見た。
定型のループを堂々とやりきる。文句があるなら言って来い!
ギター・ソロの全くない曲をやりきる。勿論、それは、クヌート・リースネス という卓越した天才奏者がいるからではある。しかし普通は、そうではないだろう・・・。

バッキングは、大きなウェーヴで開放弦を唸りあげている。何というおおらかで、たおやかかな精神。だが、ホーヴァールが、一旦ソロを始めると途方もない。
楽器は違うが、ウィントン・マルサリスが出てきた時の衝撃にも似ている。

しかしこのおおらかさは、奇妙な「危うさ」をはらんでいる。
このカルテットのおおらかさを真に際立たせるためには、オーディエンスという触媒が必要だ。つまり、H(水素)と0(酸素)があっても触媒がないとH20(水)にはならない。
オーディエンスが、触媒として機能しないと魅力が半減する。つまり、観客のノリが大事なのだ。観客のノリが悪いとこのカルテットのノリも悪くなる。
カルテットと観客の相互作用がどうしても必要という点でも,JAZZの自然児、JAZZ本来の姿である。そのときのオーディエンスがどんな観客かによって大きく演奏が変化する。
一旦観客の機能化が成立すると、このカルテットは途轍もない重戦車となって観客に襲い掛かる・・・。

カルテットの中で触媒の役割を果たしているのは、ベースのトルビョルン・ゼッターハーグ。彼は、スウェーデン人だが、ノルウェー人のホーヴァールと実に相性がいい。
まるで、ギターとウッドベース二つで、一つの楽器のように思える。
そして、ベースのトルビョルンがいないと、時折り,狂気染みたドラミングを見せるホーコン・ミョーセットをあしらうことはできない。 
ホーコン・ミョーセットのドラム・ソロは、個性派が多いJAZZドラムの中でも特に異彩を放っている。2ビートを基盤にした撥ねるようなソロは、目の前にいる人とつながる横軸であると同時に、歴史とつながる縦軸でもある。

この4人は、次の時代の本当のJAZZを予見させるカルテットである。

もう一度見てみたい。









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