#  361

カート・ローゼンウィンケル・トリオ
2011年9月28日 @コットン・クラブ
Reported by 高谷秀司(Hideshi Takatani)
Photo by 米田泰久(Yasuhisa Yoneda)/提供:Cotton Club

カートは音楽界の中秋の名月

人は、さまざまな景色に自らの思い出を託けながら成長し年をとる。だから、追憶のよすがとなる
情景は、そのままであってほしいと願う。

私は、同業の人を素直にほめることができなかった。
...私は、ギタリストのなのでギタリストをほめられなかった。
大概すごい人を見ると、年甲斐もなく嫉妬する。
あるいは、その嫉妬を隠して闘争心をむき出しにしてきた。
なんと大人気ない話ではある。

まっ、そういう嫉妬心に裏打ちされたファイティング・ポーズを自らのプライドだと錯覚させてきたと言ってもいい。
だからこそ、ギタリストを生業として生きてこられたのかもしれない。

しかし、カート・ローゼンウィンケルというギタリストはそんな私を、見事に素直にさせた。
澱みのない流れるようなフレーズ。葛篭折(つづらおり)のように、綴られることで次の美しさを見事に積み重ねていく。
ひとつの積み重ねが次への予兆になり、その積み重ねの結果が、余韻にもなる。
同じものには二度と会えない。

『行く川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず』

カートは生まれながらにしてフレーズを生み出す才に恵まれている。
手癖だと思えるフレーズがほとんどない。
卓越したコード感覚から生み出されるアドリブ。これはアドリブではなく曲そのもの。アドリブよりも主旋律のほうがアドリブに聞こえてしまう。
コード展開イコールアドリブということを見事に体現している。

決してパッションをあからさまに表に出す人ではない。
だが、紡ぎだされるフレーズは火を噴いている。
まるで月見をしているときの恍惚感にも似ている。

セロニアス・モンクの曲で幕開けしたステージはまるでお月見だ。
『名月を取ってくれろと泣く子かな』
天地爽涼、昼を欺く月光だ。
秋草が咲き乱れ、露の玉が光り、虫のこえがしきりで秋の風物の舞台装置がそろっている。
夏や冬や春の月より、中秋の名月が最高だ。
カートは音楽界の中秋の名月。

2曲目の<セレニティ>。これは知る人ぞ知る、ジョー・ヘンダーソンの作った名曲。
『名月や池をめぐりて夜もすがら』
池に映ったカート(池)の美しさに心を奪われた
私(芭蕉)が、一晩中でもカート(池)の周囲を歩いていたい心情。

3曲目、チャーリー・ミンガス『グッバイ・ポークバイ・ハット』。
......。
この先は次号に譲る。

ちなみに、彼の普段使っているギターは、
ES-335

Mottos
sadousky セミアコ
D‘Anngelico NYSS-3B

次号では彼の使っているエフェクターについても語りたい。(続く)

* 関連リンク:
http://www.jazztokyo.com/live_report/report314.html
http://www.jazztokyo.com/newdisc/642/rosenwinkel.html
http://www.jazztokyo.com/five/five724.html







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追悼特集
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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