#  373

ウィーン・フィルハーモニ・ウィーク・イン・ジャパン 2011
2011年10月17日 @サントリーホール
reported by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 林 喜代種(Kiyotane Hayashi)

指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

【曲目】
モーツァルト:交響曲第34番 ハ長調 K338

ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」WAB104

今年25周年を迎えたサントリーホールで、ウィーン・フィルの演奏を聴くことができた。この数年は毎年、定期的に開催されている来日公演である。だが、東日本大震災と原発事故、それに伴う海外アーティストの来日キャンセルが相次いだ今年、悲しみや怒りや惨めさに打ちのめされて、誰もが音楽を聴くことの意味を問い直さずにはいられなかったこの年に、変わらぬ笑顔で日本の舞台に立ってくれたウィーン・フィル。それ自体が奇跡の出来事のように思われ、舞台に勢揃いしたメンバーの姿を目にしただけで、何かほっとして、胸に込み上げてくるものがあった。独特の、あの柔らかで温かな音色とともに、あの姿そのものがきっと長く記憶に残るであろう、特別な一夜となった。

10月12日から19日にかけての8日間に、横浜・広島・名古屋・東京で計6公演。主催はサントリーホールその他、特別協賛が第一生命保険。公演のあいまをぬって「レクチャー&室内楽」、「首席奏者によるマスタークラス」がおこなわれ、最終日の19日には、ウィーン・フィルとサントリーホールの共催による「東日本大震災復興支援チャリティコンサート」もおこなわれた。
プログラムは、ラン・ランをソリストに迎えたリストの第1ピアノ協奏曲や、シューマンの第2交響曲、シューベルトの《未完成》、マティアス・ゲルネの歌うマーラー《子供の魔法の角笛》など。筆者が聴いた17日の公演は、モーツァルトとブルックナーという最もシンプルな、しかし大変興味深い、聴き応え十分のプログラムであった。

オケがいっせいに鳴り響いたとたんに、ああ、この音! このフレージング!
と嘆息させるのは、やはりウィーン・フィルならではの体験だろう。華やかでありながら、どんなに激した強奏になってもまろやかさと上品さを決して失わない、あの響き。しなやかなフレージング。ふわりと力の抜けた、あの呼吸、あの得も言われぬ間合い。ソリストの演奏ならともかく、オーケストラという集団の演奏でこれが実現するとは、やはり信じがたいものがある。

モーツァルトで特に印象に残ったのは、第2楽章での弦楽器群。実に繊細で美しい響きと、フレージングの妙。なかなかこういうモーツァルトは聴けそうで聴けない。この弦には、後半のブルックナーでも随所ではっとさせられた。美しく響かせる、というだけではなく、奏者たちが聴衆ひとりひとりに向かってダイレクトに語りかける力をもっている。実に雄弁な弦なのである。
ブルックナーは、もちろん、ウィーン・フィルの管楽器群の魅力も堪能できる選曲。決してとがらない、柔らかく温かく、明るい響きと、アンサンブルの精妙さ。特に第3楽章の入りの美しさには、ほれぼれした。

エッシェンバッハの指揮はきびきとして明快。特にブルックナーでは「自分たちと同じ言葉で音楽ができる」と楽団長のヘルスベルクが述べるくらい、相性がよいらしい。筆者にはただ、ちょっとスマートすぎるブルックナーのようにも聞こえ、意外の観があった。ある種の泥臭さ、抑制をはずれた陶酔、人間を超えたもの(神なるもの)への尋常ならざる畏敬の念……そういったものを聴きたい、とつい思ってしまうのだが。洗練の極みとも言えるウィーン・フィルは、それとは志向性の違う音楽づくりをするということか。
ともかく、申し分のない演奏、ほかでは聴けない演奏であったことは確か。感謝とともに記憶に留めておきたい、記念碑的なコンサートであった。









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