#  378

The Swallow Quintet ザ・スワロー・クインテット
2011年11月4日 @Bimhuis, Amsterdam ビムハウス、アムステルダム
Reported by Atzko Kohashi
Photo by J.K

Steve Swallow スティーブ・スワロー (electric bass)
Carla Bley カーラ・ブレイ (hammond B3 organ)
Chris Cheek クリス・チーク (tenor sax)
Steve Cardenas スティーブ・カーディナス (guitar)
Jorge Rossy ホルへ・ロッシィ (drums)

スワローは「旅の人」。ヨーロッパで特に人気の高い彼は毎年のようにヨーロッパを訪れるが、今回のツアーでもオーストリア、ウクライナ、トルコ、ドイツ、ギリシャ、オランダ、フランス、スイス、スペイン、ポルトガル、イギリスと11カ国を駆け巡る。「旅の人」は音楽でも同様、時代によって、その時々で、方向も、内容も、バンドの形態も、そして仲間も変わる。だが、どこを旅行してもその土地に馴染み、楽しさを見出すことのできる「旅の達人」は、どんなスタイルの音楽をやっても、遊び心に溢れた自分独自の空間を持つことができる。そして、その溢れる遊び心がスワローの音楽の魅力であり、どんな時も私たちリスナーの心に届いてくる。

このことは11月4日夜、オランダ、アムステルダムのビムハウスでのザ・スワロー・クインテットのコンサートからも聞こえてきた。今回の編成は長年の音楽の同志でありライフ・パートナーであるカーラ・ブレイに加え、テナーサックス、ギター、ドラムが加わった五重奏団。そして曲は全曲スワローの作品。スワローは昔インタビューの中で「ビートルズの出現にショックを受けた。彼らの曲が自分の音楽を変えた」と言っているが、彼自身が作品を創る過程、その時々のフィーリングで曲を作り新しいサウンドを試していくという音楽志向に、ロック、ポップ音楽の影響が見られるように思う。ポスト・バップミュージシャンたちの多くが、オリジナル作品の中に新たな音楽性、独自のスタイルを打ち出そうとしていたのに対し、スワローはロック/ポップ・ミュージシャンたちのように、自分のバンドのために様々なスタイルで気軽に曲を作り、バンド仲間と共に音創りを楽しんできたようだ。さらに興味深いのは、コア・プレイヤーであるカーラ・ブレイとの間では、これまでの多くのCD作品からもわかるように、カーラの曲の多くがスワローをフューチャーしたものであり、スワローの曲ではカーラがフューチャーされているということ。お互いにそれぞれの音楽性を尊重してきた証でもある。この夜のコンサートもその例にもれず、スワローの曲にバイプレイヤーとしてのカーラ・ブレイの魅力が十分に生かされていたのも面白い。

ステージ上のカーラ・ブレイはスリムなボディーに黒のスーツ、トレードマークのバッサリ切った金髪で観客の眼を惹き付ける。楽器はアコースティック・ピアノではなくハモンドB3。1stセット最初の曲の冒頭、スワローのベースがC音のルートを鳴らし続ける間、色彩が微妙に変化するようなコード・チェンジがハモンドオルガンの繊細な響きから聞こえてくる。ハモンドB3の大音量を想像していた観客があっと驚いたのも無理はない。むしろそれとは正反対の静かで厳かな音だ。カーラの音楽ルーツ(父親が教会のオルガン奏者)にも通じる静謐な調べから、教会音楽を連想する人も多かっただろう。1stセット前半の演奏は、この教会音楽風→6/8のしなやかなリズム→スローバラード→軽い4ビートへと楽章が進むように全4曲を続けて演奏する構成。複雑なリズムやテクニックの披露を避けたシンプルなコード進行、単調なリズム、歌いやすい旋律に重きを置くスワローの意図は伝わってくるが、バンドとしてのサウンドはジャズのクインテットというより「ジャズ室内楽」「管弦楽五重奏」と言ったところだろうか。が、それだけでは物足りない・・・と、セット後半では耳に馴染みのあるゴスペル風のA Dog’s Lifeをはじめ、サルサ風のイントロからアップテンポの4ビートへ続くSoftly as in a Morning Sunrise (コード進行を下敷きにして)など、クリス・チーク (tenor sax) スティーブ・カーディナス (guitar) ホルへ・ロッシィ (drums) らのソロも楽しめる選曲に。こんなところにスワローのステージ構成の巧さが窺える。

不思議なことはステージ上の誰もが演奏中、ほとんど顔を上げることもなく譜面に釘付けになっていること。クラシックやジャズのビッグバンドではよく見られる光景だが、こういった編成では珍しい。アレンジの複雑な曲が多かったことが理由だろうか。もっともスワローはこのクインテットでは特に意図的にジャズ的「即興性」よりも室内楽的「調和」を重んじていたようだ。今回のメンバー、クリス・チーク (tenor sax) スティーブ・カーディナス (guitar) はそろってポール・ブレイのエレクトリック・ビバップ・バンドのメンバーであり、ドラムのホルへ・ロッシィはブラッド・メルドートリオをはじめジョシュア・レッドマン、ジョー・ロヴァーノ、そしてカーラ・ブレイのリベレーション・オーケストラのメンバーだった人。彼らはどんなソロも巧い。だが、そこに突発的な即興性(spontaneous improvisation)が希薄だったことは残念。譜面に書かれたものを幾度となく演奏するクラシック音楽であっても、コンサートに足を運ぶ観客はそこに何らかの高揚を求め、その瞬間の「ひらめき」を期待するもの。今回、1stセットだけでコンサート会場を去った人の多くは、そんな高揚、ひらめきに対する物足りなさからだったろう。

休憩後の2nd セットからはそんな不満を解消するかのような活気あるステージに。だが聞かせどころはやはりカーラとスワロー、あるいはギターのカーディナスとスワローのデュオパート。ごく自然に相手の楽器に上手く溶け合うような音、音質を選んで調理していくのはスワローのベースならでは。多くの曲の冒頭部分がデュオから始まっていたが、ピアニッシモの音が基本となってスワロー・クインテット全体の音楽が創られていくのが窺える。ハモンドオルガンの音ひとつとってもデリケートな柔らかい響きを基調にし、(ハモンドの加わったバンドでよくあるのとは対照的に)決してバンド全体の音を支配することはない。今回のクインテットが「ジャズ室内楽」に聞こえてくる理由はそんな所にもあるのだろう。アンコールで演奏された<Kindness is Strange>では、カーラ・ブレイのオルガンのリズミカルなパターンとそれに交叉するベース・トーンがオランダ人画家モンドリアンの幾何学模様を連想させ、スワローの遊び心が十分に伝わってきた。











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