#  383

フランツ・リスト室内管弦楽団演奏会
2011年11月16日 @東京オペラシティ・コンサートホール
Reported by 丘山万里子
Photos by Gilles-Marie Zimmermann(佐藤俊介)

フランツ・リスト室内管弦楽団
共演:幸田浩子(sop) 佐藤俊介(vl)

<曲目>
リスト:「ハンガリー狂詩曲第6番変ニ長調」(p.ヴォルフ編)歌曲「おお、夢に来ませ」
    「平和は見出せず(ペトラルカのソネット第104番)」
モーツァルト:「ディヴェルティメントニ長調K.136」
ラフマニノフ:歌曲「ヴォカリーズ」
リスト:歌曲「愛の夢第3番(おお、愛よ)S.298」
パガニーニ:「ヴァイオリン協奏曲第2番ロ短調op.7(ラ・カンパネラ)」
ブラームス:ハンガリー舞曲第2番ニ短調、第4番ト短調、第6番変ニ長調
リスト:ハンガリー狂詩曲第2番嬰ハ短調(p.ヴォルフ編)

 今年はリスト生誕200年ということで、どこもかしこもリストで大にぎわいだったが、その名もフランツ・リスト室内管弦楽団が日本の晩秋を飾った。メンバーはリスト音楽院の同窓生で1963年の結成。共演はソプラノの幸田浩子とヴァイオリンの佐藤俊介である。
 昨今は、どこのオーケストラも国際化の波をかぶり、似たような音色で似たような音楽を聴かせるようになったが、さすがにこのオケ(といっても弦だけの16人編成)は、東欧の弦の持つ深い抒情性と緩急自在の呼吸とで、聴衆を魅了した。すなわち、むせぶような歌心とめまぐるしく表情を変える舞踊性である。
 プログラムも凝ったのもので、最初にリストのハンガリー狂詩曲を置き、次に幸田浩子によるリストの歌曲を2つ、それからモーツァルトのディヴェルティメント、さらにラフマニノフの歌曲まで手を延ばし、ついでリストの歌曲1つまでが前半。後半は佐藤俊介が登場し、ヴィルティオジティをふりまくパガニーニを聴かせ、あとを受けてブラームスのハンガリー舞曲を3つ、そして、再びリストのハンガリー狂詩曲でしめくくる。当時のリストの立ち位置が明瞭に示される流れである。
 冒頭の「狂詩曲第6番」から、いかにもロマの血筋の色濃い弦の持つ、芯のある深く切ない歌と、対照的な狂おしくダンサブルな運動性の変化は、あたかもカキッ、カキッとギア・チェンジをするごとく。やっぱり、東欧の弦の音色と間合いは、今もここに生きている、と思わせるに充分なラプソディである。
 幸田浩子は、ウィーンのフォルクスオパーと専属契約を結んだソプラノ。4曲中の2曲「おお、夢に来ませ」「平和は見出せず」は、いずれもしっとりとした情感で歌い上げられた。高音域も痩せず、のびのびとした歌い方である。一方、音楽の愉悦あふれたモーツァルト(ここでは打って変わって軽やかな音調を聴かせる)を挟んでの残りの歌曲2曲は、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」とリストの「愛の夢第3番」。2つとも本来、歌曲で書かれたものだが、私たちに親しいのは「ヴォカリーズ」はオーケストラ版。リストは何と言ってもピアノ版が有名だが、こちらも最初は歌曲。というわけで、「ヴォカリーズ」にしろ「愛の夢」にしろ、新鮮に聴いた。幸田はここでもむらのない響きで歌をまっとうしたが、「ヴォカリーズ」でやや音程がぶら下がり気味となったのは惜しかった。
 後半は佐藤俊介によるパガニーニのヴァイオリン・コンツェルト「ラ・カンパネラ」。佐藤は若手の実力派で、弾き始めは客席に背を向け、指揮者のようにオケ(ここではトライアングルが加わった)を統率する。もちろんソロの時は客席を見据えるが、彼のあっちを向いたりこっちを向いたりの姿勢は、終始変わらない。達者な腕をひけらかすような演奏ではなく、落ち着いた職人芸とでも言おうか。抑制のきいた音の中に、あまたの至芸が隠される。弓の飛ばし部分も荒れることなく、重音もみっしりと響かせ、雑音のない流麗なパガニーニ。もっときらびやかでアクの強い「ラ・カンパネラ」を期待した人には物足りなかったかも知れないが、私はどちらかというと端正なまでのパガニーニをそれなりに楽しんだ。
 再びオケに戻ってのブラームス3曲では、いかにもブラームスらしい肉厚なハンガリー舞曲を聴かせる。彼がハンガリーに旅したときに感銘を受けた当地の音楽をもととするが、リストとは異なり、哀愁が前面に押し出され、とりわけ低音部の充実が音楽に奥行きを与えている。
 最後を飾るリスト「狂詩曲第2番」は、まあ、だめ押しと言えようか。全員一丸となって、歌いに歌い、踊るに踊る。本場の音楽とはこういうもの、と見せつけて弦を空中に舞わせて終えた。さすが。









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