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東京文化会館50周年記念フェスティバル記念オペラ/古事記
2011年11月23日 @東京文化会館大ホール
Reported by 多田雅範
Photos by 林 喜代種

指揮:大友直人
演奏:東京都交響楽団
歌手:甲斐栄次郎(イザナギ)福原寿美枝(イザナミ)高橋淳(スサノオ)浜田理恵(アマテラス)妻屋秀和(オモカイネ)久保田真澄(アシナヅチ)天羽明恵(クシナダ)観世銕之丞(語り部)その他
合唱:新国立劇場合唱団 日本オペラ協会合唱団
演出:岩田達宗

・・・1万6千円もするチケットなんぞ。3月5日ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団2万6千円の世界水準の柔らかく輝く響きに圧倒されてきた以来なのだけれど直後の震災と放射能情報でわたしの耳からは音楽は精彩を失っていたこともあるが、衝動買いで駆け付けてきてしまった黛作品を!という藁をつかむようであったのはExileじゃない日本を聴きたいなんて気になっていたわけだし・・・。

オープニングのオケの響き、十数秒で、わたしは音楽を取り戻した気持ちになった。

明らかに、電子音響を手がけた、戦後日本に最初に持ち込んだ黛が、それを手法とするのではなく西洋のオケの響きの中にアウフヘーベンした、揺るぎなきざわめき。これは洋の東西も、現代と神話の時代も、聴く者の意識を拡張させる、いや大いにデカすぎる話なのである、だいたい語り部に風格のある観世銕之亟(かんぜてつのじょう)が出てきているし、おれはガキの頃にテレビで観ていたエラそうな天然パーマのエロそうなおやじ黛に「涅槃交響曲」以来の凄みを感じたのだな。

照明も良かったし、シンプルな舞台セット、二重丸をプレートにしただけの究極のミニマリズムとでもいうのか?、も、良い。おれは9列目に座っていたのだが、オペラが始まって舞台奥の黒いカーテンが開いたような気がしていた。開いた切れ目が細いVの字になって光がすっと降りてくる。舞台中央に細長いタテの光の剣が降りてきたように見えていたのだが、それは舞台後方の幕が裂けたことによって生じたものだとしか思えなかったわけなのに、その光の剣は舞台の中央に降りてきたものらしく民衆の演者が剣のまわりを動いているのだ。この光の剣はどのように現れたのだ?目を凝らして見ても、この光の演出のしくみがよくわからない。不可思議体験、ふつー、できない。

・・・子どもの頃、祖父の寝室にラジオからイヤホンを伸ばして昼過ぎまで寝ているじいちゃんにこずかいをねだりに行くのだった。鴨居のうえには天皇陛下と皇后の写真と頭に金色の鳥がついた杖を持ったヤマトタケルか何かの肖像画、この肖像画の背景が深緑色の薄明もしくは闇、これに魅入っていた。・・・それを、一昨年にいわきで観た山海塾の「卵をたてることから−卵熟」の舞台の世界と同じ色彩だと感じた。・・・この『古事記』のステージも同じものだった。

エンディングにも語り部とオケの響きが置かれた。

出雲の国、島根県に住みたいものだ。6年前の正月に次男が美術の甲子園みたいのに入賞して会場の島根県浜田市に家族旅行ドライブした楽しい記憶、バイト先のほっぺたと白目と胸のふくらみと声がたまらんかった島根出身の女子大生の記憶、

とろとろに溶け出して、ジミヘンやマイルスやピンクフロイドみたい、ではない、日本の藁の腐ったような匂いがする、うようよとする幻想のようなものに引き込まれていた。実際のステージは節度のあるオペラであった、に過ぎなかった、多分、そして歌われる音声はドイツ語ではあったにせよ字幕の日本語がハウリングを起こすように意味を重層的にわたしの脳から紡いでゆく・・・。

作家島田雅彦が言ったように、オペラは無意識状態で眠ったように観るのがいいとか、高橋秀実が小林秀雄賞をとった『おすもうさん』で書いた大相撲をテレビ観戦していると眠たくなる謎といい、まあ、今わたしはばっちり目が冴えて書いてますけれども、

そうそう、23日に観た友人が松岡正剛の『連塾・方法日本1・神仏たちの秘密〜日本の面影の源流を解く』の第二講とつながってこのオペラを楽しんだ、と、それはぜひ読んでみたいものだと夜勤明けで横になると目の前の枕の横に積まれた本の背表紙がそれでした、読み終わったはずなのに。

帰ってきて、昨年購入した『黛敏郎の世界』(京都仏教音楽2010実行委員会編集)を読む。オペラ『古事記』(1993)は、89年にオーストリアのリンツ州立劇場から委嘱されている。古語で書かれた『古事記』を、擬古ドイツ語で表現した、なるほど。オペラ『金閣寺』(1976)は吉田秀和がきっかけを作っていたとか台本を三島由紀夫に相談したのが会った最後だったとか、それにしても、日本では誰も黛にオペラを委嘱しなかったのだね。

オープニングとエンディングに黛らしい牙を聴いたわたしですが、オペラ本編のほうは現代音楽していなくてエキゾチックな伊福部調も含みつつも歌い、流れるようであったのはそれはそれで一流のバランス感覚だったかと思う。











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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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