#  395

第726回定期演奏会Aシリーズ/都響スペシャル
2011年12月14日 @東京オペラシティ コンサートホール
Reported by 丘山万里子
写真提供:東京都交響楽団
撮影:堀田力丸

指揮:エリアフ・インバル
チェロ独奏:ガブリエル・リプキン
演奏:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉

曲目:ショスタコーヴィチ/チェロ協奏曲第2番作品126、交響曲第5番ニ短調作品47

 エリアフ・インバル率いる都響を聴く。ショスタコーヴィチのプログラム。前半はリプキンとの「チェロ協奏曲第2番」、後半は「交響曲第5番」。  「交響曲第5番」は、当時、ソ連共産党中央委員会からの批判を受け、尖鋭なモダニズムを持った「第4番」を自ら封印して書いた作品で、当局の眼鏡にかなう社会主義リアリズムの作風により初演も成功、批判からようやく免れ、名誉を回復することとなった。その判りやすさから、今日もポピュラーに演奏される。
 一方、「チェロ協奏曲第2番」は、スターリンの死によって当局からの弾圧が和らいだ晩年、病に倒れ、療養中に書かれた作品。音楽の底には死への予感のようなものが漂い、そこに流れるある種の晦渋さは「交響曲第5番」と並ぶといっそう対照的である。
 リプキンはイスラエル生まれで、その身体の中に楽器がすっぽり溶け入ったような演奏をする独特のチェリスト。どこか不安をたたえたチェロのソロから忍び入り、オーケストラの低弦がこれに絡まってゆく。第1楽章のカデンツァ部分は大太鼓との対話が印象的だ。第2楽章は諧謔味を伴った短いアレグレットでマーラーを思わせる。そのままアタッカで続く第3楽章は、小太鼓とホルンで始まり、チェロのソロの抒情的な波から、種々の打楽器との親密なやりとりが展開する。全3楽章を通し、常に先導するチェロは、底光りする低音から繊細な高音まで全域にわたり、よく響く。オーケストラにゆだねる部分では大きく身体を揺らして曲への没入を示すリプキン。インバルとのコンタクトは良好だが、アレグレット部分でテンポが切迫してくる部分など、気持ちのはやるチェロにオーケストラがついてゆけず、後追いになるのがやや気になった。
 アンコールで、リプキンが披露したのは、バッハの「無伴奏組曲第3番」よりブーレ。力演の協奏曲とは異なり、羽毛のように軽やかに、掌(たなごころ)で慈しむようなほんのりした甘さのある演奏。ディナミークはほとんどピアノ(p)で弾き上げ、うっとりさせた。ショスタコの間にはさまれるアンコールはバッハ、と期待していた通りになり、一つ儲かった気持ちになったのは、筆者だけではなかろう。
 後半の「第5番」は、さあ、自分たちの出番だ、とばかりにオーケストラが思うさま鳴らす。第1楽章、弦セクションがジグザグと鋭い表情で進む冒頭のフレーズから、すでに熱気を孕む。中間部、ハープに先導され、低音の補続音に支えられて歌うヴァイオリンの旋律の美しさは抜群で、胸に染みる。ピアノの一打から開始される管楽器の咆哮も含め、小太鼓がとりわけ印象的なアッチェルランドではインバルもグングン手綱をたぐる。弦のトゥッティに楔(くさび)のようにうちこまれる大太鼓とシンバル。ワクワク感が一段落した後、再び現れるフルートでの旋律は夢見るよう。リズミックでレントラー風の第2楽章は、やはりマーラー的。第3楽章ラルゴは打って変わって静寂の中に切々とした表情を見せ、高揚から再びピアニシモへと響きを絞る。ハープ、フルート、シロフォンなどの効果的な打楽器の配分に、奏者がよく応えている。弦のトレモロに載った木管の滑らかな動き。このあたりも含め、オーケストラはダイナミズムの振れ幅が大きく、それぞれのセクションを両手で抱(いだ)き上げるようなインバルの腕が底力を発揮し、オーケストラもうねりにうねった。
 終楽章はのっけからティンパニの連打で音が炸裂するアレグロ・ノントロッポ。疾走するオケを従えてのインバルの颯爽たる指揮ぶりは一段とスケールが大きく、さらにエネルギーを沸騰させ、最後はまさに炎上で締めくくった。
 ショスタコーヴィチの明快かつ自在な音の構築とリズム感、種々に配された管、打楽器を際立たせるインバルの棒さばきにノリまくっての熱演に、多くの拍手が送られた。  









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