#  397

ヒグチケイコ+神田晋一郎〜night music 夜の音楽
2012年1月18日(水) @東京四谷・喫茶茶会記
Reported by 伏谷佳代(Kayo Fushiya)
Photo of Keiko Higuchi by 間仲 宇(Hiroshi Manaka)

出演:
ヒグチケイコ(vocal)
神田晋一郎(piano)

とりわけ女性シンガーのライヴではいつも、意識的に眼を閉じて聴く瞬間をつくるようにしている。美貌に酔う、という男性リスナーの嗜好に乗ることがないように。ただ雰囲気にだけ酔われたのでは、実力のあるミュージシャンの場合には失礼だし、それをうまい具合に逃げ場としている方々もいるのだろうが、あいにく同性同士の鑑賞眼は辛辣なのが常である。

ヒグチケイコはピアノも弾けば、舞踏もするし、すぐれたフォトグラファーでもあるから、「女性シンガー」とよぶには語弊があるが、この日はマイクも全く使うことなく、完全アコースティックの状態でうたい、語り、場を埋めた(パフォーマンス、という単語も安易なので使わない)。ジャズからポップス、ボサノヴァ、オリジナル、武満までをつなぐ。デュオの相方は神田晋一郎。アップライトとトイ・ピアノをひく。

視覚上の格好の良さもその人のオーラや雰囲気を出す要素には違いないが、ヒグチケイコの「雰囲気」はこちらが目を閉じようが見開こうが全く不変である。皮膚を通過して霧のように穿たれ、立ちこめる低気圧。空気は歪む。空想も経験もふくめたあらゆる次元が混濁する、人間感情というリアル。それが「ヒグチケイコというダークな一個体」として差し出されるのだ。この人はどこから来たのか?-----不穏さは、目を閉じても拭えるどころか増すばかり。黒づくめの衣装も、ひとつの象徴にすぎない。

音質上の印象を述べておけば、その張力漲(みなぎ)るヴォイスは、オーボエのなどのダブルリードの音に近い。どんなにかすれても微音でも、中心にマグマのようなコアがある。それがいかなる時もブレなく腰を据えているので、「奥底からの音」としての信憑性がある。メタリックなサウンドは強靭かつ粘着力があり、個人的にはもっとも女を感じるところだ。ときに身体がテルミン的な働きをしているようにも見え、複数の回路による振動が出会うところ-----そこにハイパーかつアナログな実感がある。冷たくも熱く、すがりつきながらも突き放す。生き物も含めた様態の不確かな実状そのままに。

ヒグチケイコと対照的に、神田晋一郎のピアノは冷静な律動を刻む。この人のピアノからは、指先の細かな覚醒が伝わってくる。その硬質で肌理の細かい粒子が、ヴォイスにぐさぐさと突き刺さるとき、音像のきらめきは痛くも眩しい。恐らくどんなシーンでもソツなくこなしてしまうピアニストは、 捉えどころがないゆえに狡猾にすら映る。それがまた移ろう歌の妙薬ともなっている(*文中敬称略。1月19日記)。

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