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東京フィルハーモニー交響楽団第66回東京オペラシティ定期演奏会/外山雄三/松山冴花
2012年1月12日(木) @東京オペラシティ・コンサートホール
Reported by 伏谷佳代(Kayo Fushiya)
Photos by 林 喜代種(Kiyotane Hayashi)

出演:
外山雄三(指揮)
松山冴花*(ヴァイオリン)
東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽/コンサート・マスター:三浦章宏)

プログラム:
外山雄三;ヴァイオリン協奏曲第2番op.60*(東京フィル初演)
マーラー:交響曲第5番

傘寿を迎えた外山雄三の円熟が、あたたかにホールを包む一夜であった。筆者が初めて外山雄三の姿にふれたのは25年ほど前なのであるが、その時と驚くほど印象が変わっていない。矍鑠(かくしゃく)とし、贅肉を削ぎ落した、無駄のない身体の動き。例えばそれは、マーラーの長大な曲を振るときでも、冗長さを感じさせる瞬間はみじんもない。曲の細部が生き生きと呼吸し、弾みを得ていくところに、外山雄三がすぐれた作曲家でもある事実がヴィヴィッドに実感される。音楽生成の原点に身を置くという内側からの経験、その豊かな積み重ねは熟成しつつも進化を続けている-----実況の一端に触れた思いだ。


広域なる日本情緒のユニヴァース〜「作曲家・外山雄三」

プログラム前半は、自作のヴァイオリン協奏曲第2番(初演は1966年12月10日、ソリストは海野義雄が務めた)。今回、ソリストには俊英・松山冴花を迎えた。松山は幼少時に渡米し、ニューヨークでドロシィ・ディレイらに師事。2005年のエリザベト王妃国際コンクール第4位、2004年の仙台国際音楽コンクール・ヴァイオリン部門で優勝、及び聴衆賞を得て一躍注目を浴びた。大方の早熟の才にありがちなエッジの効いた鋭いアプローチは鳴りを潜め、じっくりとした構えになかなかの大器を感じさせる。音楽運びもおおらかで、野太い音色をもつ。とりわけ高音部の音の伸びと照りがすばらしい。音楽構造の内部がくるりと翻るような外山のコンチェルトは、ヴァイオリン・ソロとオーケストラのパートとが歩調を合わせる場面が多いだけに、各パートの奏者の「個」としての実力も浮き彫りとなる。それらがバラけた印象を生まずに、一本の太い音の海として実現されるには、オケの底力ともいえる中・低音域のサポート力がモノをいう。この日の東フィルは、クリアながら多層的な重みのある音質で、若きソリストをよく支えていた。「作曲家・外山雄三」が織りなす音世界は、紛れもなくアジアの韻律を踏んでいるように思われるが、それが必ずしも日本的でないところに魅力を感じた。いや、それは彼のなかの「日本」の立ち位置が非常に広範であることの証明かもしれないのだが。折り重なるようにロマンティシズムが立ち現れ、リズムで整合性を得るのが困難なこうした曲では、常にひとつのアクションの裏を取るセンスが要求されるだろう。弦楽パートのつま弾きの揺らぎに乗り、そのわずかな隙間を利用して音楽を浮き沈みさせる終楽章など、終始ゆったりとしたテンポのなかでの濃厚な展開に魅了される。演奏時間は短いながら、充実感がある。


オーケストラの基礎体力に委ね、寡黙ながら包容力が滲む〜「指揮者・外山雄三」

後半のマーラーでまずおもったのは、この編成でこの会場であることの醍醐味、である。音が十全に横溢する環境で聴いてこそ、楽曲の迫力も指揮者の人間的魅力もとくと味わえるというものだ(もっと広いホールで聴いたなら、また違った感想をもっただろう)。外山雄三の指揮は、各パーツを骨太な響きで積み上げて重厚な安定へと導くが、音の弾力性と勢いは保持しつづける。すなわち急激な強弱の振幅にも耐えうるよう、高い緊迫感をもった基礎体力をオケ全体に課しているかのようだ。それは例えば、第1楽章の充実した弱音の連続(パーカッションですら粘着質をもつ)や、第2楽章のクレッシェンドの追い上げの見事さとなって本領を発揮する。高密度から閑散まで、サウンドの濃度の推移もスムースである。長大な曲につきものである怒涛のごとき複合感情-----それらを個別に解きほぐしてあたかも個々の楽器へ担わせるかのように的確にキャラクターづけする。しかし押しつけがましさはない。これぞキャリアのみが為せる業である。個人的にもっとも印象にのこったのが第3楽章のスケルツォで、極度の集中力を伴う没入感、ハープをベースにしつつも弦が表層に踊るかのような遊戯性で癒着しては剥離するサウンドは、安定と旋回を同時に抱き込みつつ幻想的に進んでゆく。「指揮者・外山雄三」は自らの個性や解釈を声高に語ることなく、オーケストラ自身の磁力、楽曲そのものがもつ蘇生力に委ねているように見える。身体の動きもポイントだけを突いた、潔いものだ。寡黙だが包容力に満ちる-----これは客席からもじわじわと感知されたことであった(*文中敬称略。1月15日記)。  









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