#  401

東京都交響楽団 定期演奏会 「日本の管弦楽とその源流13」 (一柳慧プロデュース)
2012年1月17日 @東京文化会館
Reported by 佐伯ふみ
Photos by 林 喜代種

【曲目】
北爪道夫:地の風景
北爪道夫:クラリネット協奏曲
リゲティ:ロンターノ
リゲティ:ピアノ協奏曲

指揮:高関健
クラリネット:三界秀実
ピアノ:岡田博美

 数年にわたり別宮貞雄氏がプロデュースされてきた都響定期の優れた企画、「日本の管弦楽の名曲とその源流」を、2011年度から新たに一柳慧氏が引き継いだ。その第1回である。その別宮氏は奇しくも本公演の数日前、2012年1月12日に89歳で亡くなられた。ロビーに掲げられた追悼の声明を見たとき、改めて、長年にわたって日本の現代音楽の発展に心をくだいてこられた別宮氏の遙かな足跡を思い、都響の定期の一環としてこの企画が次世代にしっかりと引き継がれたことを嬉しく思った。

 筆者が聴いたのはそのAシリーズである(Bシリーズは、野平一郎とブーレーズ作品というプログラム)。プログラムの全体のバランスがとても好もしい。前半と後半で、それぞれの作曲家の管弦楽作品とコンチェルトを1曲ずつ。オーソドックスな配置と言えばそうだが、落ち着いてそれぞれの作品に耳を傾け、味わおうという姿勢が感じられ、実際、すべてのプログラムを聴きおわったときの静かな充実感がもっとも心に残る一夜となった。

 北爪の《地の風景》はシリーズのオープニングにふさわしい。弦の圧力が、地の底から湧き上がる地鳴りのようなエネルギーを十二分に伝えてくる。しかしその地鳴りはあくまで静かで、声高に狂奔するエネルギーではないのだ。まるで音のない世界で、重量感のある気配のみが伝わってくる、といった印象。音量は弱く大きく、十分にうねっているのに、なぜそのような印象を残すのか不思議だ。パーカッションの響き、シャープで非常に良かったのだが、当夜は全般にちょっと目立ちすぎだったかもしれない。
 《クラリネット協奏曲》は都響首席の三界秀実氏がソロ。ピアノとのからみ、ホルンとのからみを特に楽しんだ。クラリネットの響きの美しさを堪能。

 

 リゲティの2つの作品、まず、プログラムの片山杜秀氏が、くすりと笑いを誘いつつ実に絶妙な解説である。そうとしか聞こえてこなくなるから困る、と言うべきか。《ロンターノ》では、「蜘蛛の巣」が張られては壊れ、また音もなくねばった糸が絡みついてきて……。そんな心象風景を想起しながら聴いた――いや、聞かされたと言うべきかも。面白い体験だった。
 曲間、舞台転換の時間を利用して(いや埋め草として、かもしれないが)、指揮の高関健氏が舞台に登場。《ピアノ協奏曲》の解説をおこなう。「非常に演奏が難しい曲で、上手くいったためしがない、今日はどのような次第となるか、どうぞご期待ください」。客席がなごみ、微笑がもれる。こういうのも悪くない、と思う。
 《ピアノ協奏曲》では、岡田博美がいつもの淡々とした佇まいで、超難曲と言われるこの曲を弾ききった。演奏する姿はさすがに「軽々と」という様子ではなかったものの、響きとして、難しそうで大変だという印象はまるで残さないのがすごい。第2楽章、ピアノと弦のユニゾン、第3楽章、速いテンポでピアノのメロディをオケがなぞる箇所、第5章冒頭のピアノの上行旋律。作曲の面白さももちろんだが、演奏者たちのかけあいのセンス、フレージングの美しさが特に印象に残った。

 2012年度、このシリーズは、いつもの1月ではなく、8月の公演となる由。今後、どのような作曲家、どのようなプログラムが登場してくるか、展開が楽しみである。



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