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コンポージアム2011「サルヴァトーレ・シャリーノの音楽」
2012年1月17日 @東京オペラシティ・コンサートホール
Reported by 悠 雅彦
Photos by 林 喜代種

東京フィルハーモニー交響楽団&マルコ・アンジュス(指揮)

*(4)「海の音調への練習曲」の演奏者:彌勒忠史(カウンターテナー)、安江佐和子(パーカッション)、斎藤和志、大久保彩子、多久潤一郎、木之脇道元(フルート)、平野公崇、大石将紀、西本淳、田中拓也(サクソフォン)、洗足学園音楽大学フルート・オーケストラ&サクソフォン・オーケストラ、田中雄樹(副指揮)、マルコ・アンジュス(指揮)

1)オーケストラのための《子守歌》
2)フルートとオーケストラのための《声による夜の書》
3)電話の考古学ー13楽器のためのコンチェルタンテ
4)海の音調への練習曲ーカウンターテナー、フルート四重奏、サクソフォン四重奏、パーカッション、100本のフルート、100本のサクソフォンによる

 コンポージアム(コンポジション+シンポジウム)とは、将来を担う若い作曲家の新しい管弦楽曲を広く公募する作曲企画として、故・武満徹の名を冠した作曲賞を柱にスタートしたユニークな試み。最もユニークな点は、その<武満徹作曲賞>の審査委員が主催団体(東京オペラシティ文化財団)の指名したたった1人の作曲家であることだ。今年は現代イタリアを代表する作曲家サルヴァトーレ・シャリーノが迎えられた。今回の催しは東日本大震災のため延期されていたもの。コンポージアムを構成するコンサートは、審査委員として招かれた作曲家の音楽を取りあげる夕べと、作曲賞本選演奏会の夕べの2つがある。幸いにも聴く機会を得た前者、<サルヴァトーレ・シャリーノの音楽>には感性を甚く刺激されるとともに、スリリングな音響に圧倒された。
 シャリーノは7年前の2005年、サントリーホールが主宰する国際作曲委嘱シリーズに<テーマ作曲家>として初来日し、委嘱作「シャドウ・オヴ・サウンド」や、壮年期に作曲した「さかさまの空間」、「旅のノート」などの日本初演に携わった(ティート・チェッケリーニ指揮の東京フィルハーモニー交響楽団)。当夜もオーケストラは東京フィルで、2007年に「サルヴァトーレ・シャリーノの音楽」と題した論文を発表したシャリーノ理解の第一人者、マルコ・アンジュスがタクトを振った。なお、全4曲が日本初演である。
 シャリーノという作曲家はさまざまな伝統的手法を乗り越えたその果てに、私たちが体験したことのない斬新な音響をつくりだす。そこには現代のテクノロジーや文明史観を皮肉ったり、音楽表現者としては避けて通れない<個と集団>の問題に独自の視点を与えたりするなどの、この作曲家ならではの世界認識が形としてあり、それが作品に独特の響きや劇性を生んでいる。
 この夜の演目は上記クレジット通り。東京フィルによる「オーケストラのための《子守歌》」、「フルートとオーケストラのための《声による夜の書》、「電話の考古学ー13楽器のためのコンチェルタンテ」では、あたかも広大な牧場のなだらかなアップダウンが果てしなく続く感じの微細な音響変化とか、妙味と退屈とが同居した不思議なまどろみが感性のひだに入り込んでくる。現代をまったく違った視点で捉えなおすシャリーノ独特の思考が反映された音構造とソノリティーが静かに聴こえる。ここでは当夜の最大の聴きものであり、私個人にとっても音響についてのとらえ方の変更を迫られる思いを強くした「海の音調への練習曲ーカウンターテナー、フルート四重奏、サクソフォン四重奏、パーカッション、100本のフルート、100本のサクソフォンによる」に触れることにしたい。
 曲名の副題を見ただけでも驚かざるを得ない。本当にフルートとサクソフォンがつごう200人も集まるのか。フルートとサックス四重奏団のスペースなどを含めて,全員がステージに乗るのか。少なくともステージからはみだしそうになるほどの黒づくめのフルートとサックスの大集団が、ソロイストや2つの四重奏団を取り囲むようにステージを埋めた全体図を一望しただけでも、やにわに圧倒されそうなくらいの迫力だった。「子守歌」にしても「声による夜の書」にしても例外ではないが、「海の音調〜」でも夜の闇から這うように忍び寄る微小な音があたかも瞬きを繰り返しながらニュアンスを変えていく出だしの音響に耳を澄ませていると、なにやら源氏物語に描かれた平安朝的官能性を思わずにはいられない。
 それにしても,なぜか分からないが、舞台をはみだしそうなフルートとサックスの大集団の音響は時に驚くほどサトル(微細)で、ピッコロ・タイプからアルトやテナー、あるいはベース・タイプにいたるフルートとサックスの大合奏が一瞬にして大宇宙の瞬きのようなサウンドと化すさまには目をみはらされた。旋律線が起点になって,次に和音が重なって,というような音楽に慣らされた耳には不思議としか言いようのない音響美が、身を浸していると逆に心地よい。普通とは真逆な,あるいは相反するシャリーノの作曲法がここにあると確信せざるをえない。そこにどれほどさまざまなアイディアや革新的な楽器奏法が凝らされているかは、こうした微細かつ巨大な音響から海のさまざまな表情や動きが浮かび上がってくる姿に象徴されているようだ。たとえば,打ち寄せる波の音だったり、風の唸りだったり、あるいは太陽の光にきらめく水の輝きだったり。このサウンドに慣れ親しんでいくにつれ、彼の音楽や作曲の背景にフラクタル思想があるという従来からの指摘が思い出された。つまり、よく引き合いに出されるゴツゴツした岩に縁取られながらうねうねと続く、どこも同じように見える海岸線を。  









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