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東京フィルハーモニー交響楽団第809回オーチャード定期/小林研一郎/中野翔太
2012年1月22日(日) @東京・Bunkamuraオーチャードホール
Reported by 伏谷佳代(Kayo Fushiya)

出演:
小林研一郎(指揮)
中野翔太*(ピアノ)
東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽/コンサート・マスター:青木高志)

プログラム:
芥川也寸志:弦楽のための三章
モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467*
チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調「悲愴」op.74

小林研一郎のキネティックな身体の動き、それに呼応してオーケストラのサウンドの手綱がいかに絞られ、生き物のような動静を見せるかをじっくりと堪能できたプログラムであった。また、モーツァルトのコンチェルトを除いて指揮は暗譜である。さすが「コバケン」のキャリアと貫禄が滲む。


漲る低音の充実と豊富なテクスチュア

冒頭の芥川からたちどころに感知されるのは、東フィルの低音の充実であろう。捻じりが効き、対応力抜群である。また、この日のコンサート・マスター青木高志の扇動的で張力漲るソロも楽曲をよどみなく進行させる。なめらかなレガート部分はもとより、弦楽器の特長を活かしたピッツィカートやタッピングが風や空気、膨らみを付与してゆく。線状の流れが多層にわたって盛り上がり、さまざまなテクスチュアで押してくる。木材が石のような音を出したり、縒(よ)れたようなヴァイブレーションが生むサウンドの窪みが印象にのこる。


形式をぎりぎりのところで挑発する若き感性・中野翔太

中野翔太をソリストに迎えたモーツァルトは、玉(ぎょく)のようにころころと転がるピアノのタッチと巧く調和した音配分を見せる。ピアノとオーケストラはあくまでイーヴンな関係であり、とりわけピアノの単音がオーケストラに負けない存在感を放っているところが爽やか(音量のことを言っているのではない)。第1楽章後半のカデンツァでは、見事なキレ味の疾走を見せつける。優等生的な非の打ちどころのない技巧を超えた、趣味の良いリリシズムが伝わる。息が長く見通しの良いフレージング、大胆なアゴーギク、形式にのっとりながらもそのぎりぎりのラインで挑発するあたりに、若い自由な感性が息づく。緩徐楽章での音楽運びは、静謐ながらもかなりジャズ的な解釈。時おり、錨を落とすかのような唐突なニュアンスづけを行う。鍵盤の「押し」に彼ならではの独特の間合いがあり、それが紋切形のモーツァルトに陥るのをふせぐ。欲をいえば、調性の変転の際にもう少々の翳りが欲しいとも思ったが、それは時が解決してゆくだろう。終楽章ではコンマスの機転の翻りも楽しい聴きどころのひとつであった。


 

「コバケン」のたきつける身体〜緊迫とフロウは両立する

休憩を挟み、チャイコフスキーの「悲愴」。芥川の「弦楽のための三奏」も旧ソ連で出版されロシアとの関わりが深いものであることから、本日のプログラムはスラヴ的な情緒の強いものであったといえる。こうした血のたぎりを表現するのに、小林研一郎の指揮は打ってつけのダイナミズムを備えているといえるだろう。広大な楽曲を通して金管・弦の低音のうねりが効いていたが、そうした音の大海原を縦に捌きつつも絶妙な構成力で方向づけてゆく。身体の動きはシンプルで直角的な振りか、ダンスするかのように大仰か、のふたつに大別でき、それが視覚的にもオケ全体をたきつける起爆剤ともなっているかのように映る。しかしながら、各部のディテイルは丁寧に掬いあげられるため、いかに大音量となろうとも全体の音の総和は決して平面的に叩きつけられることがない。柔和さとサウンドの立体性、それはいかなる時も健在である。緊迫とフロウはコバケンの世界では共生する。第1楽章各所で要となる金管のゆたかな表情(クラリネットの情緒あるエアの含ませ方など)も秀逸であったが、終楽章での金管と弦のラインが綺麗に揃い、たがいに音質が歩みよることによって生まれる一体感が素晴らしい。思えば、ふたつのアレグロをアレグレットで挟むというこの曲の構造を、速度に依拠することなく、中間楽章のアレグロをアレグレットよりゆったりとしたものとして響かせる「構え」の大きさ-----ここに指揮者の力量が如実に浮き彫りとなる(*文中敬称略。1月23日記)。



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