#  406

こんにゃく座(40周年記念公演第4弾) オペラ「金色夜叉」
2012年2月10日 @世田谷パブリックシアター
Reported by 佐伯ふみ
Photos by 林喜代種

キャスト
間貫一:大石哲史
宮:梅村博美
赤樫満枝:山本伸子
ほか

スタッフ
原作:尾崎紅葉
台本・演出:山元清多
作曲:萩京子
演出:伊藤明子
美術:島次郎
衣裳:宮本宣子
照明:齋藤茂男
舞台監督:大谷地力
ピアノ:服部真理子

 尾崎紅葉の著名な小説から、演出の山元清多(やまもと・きよかず)が初めてのオペラ台本として書き下ろした作品。2010年秋に亡くなった山元の追悼として、今回の再演が実現した。1995年の初演当時、演出助手を務めた伊藤明子が改めて演出を担当。まるで能舞台のような禁欲的な(しかし美しい)舞台(美術:島次郎)で、「イロとカネ」に翻弄される人間の哀歓が容赦なく描かれる。感傷を排した音楽が(作曲も、そして演奏も)さらにその苦さと、醒めた目線の印象を深め、忘れがたい公演となった。

 プログラムに掲載された山元の制作ノートより、少し長くなるが印象的なフレーズを抜き書きしておきたい。「私たちの習慣的な価値観は『イロとカネ』を卑しいものと見なすところがあって、人間はそれだけに生きるにあらずと言ったりもする。そう言ってる人が、意外にイロに溺れカネに弱かったりするから面白い。それを笑っている自分だって例外ではありえない。……『イロとカネ』には疚しさや、いつ自分の足許をさらうかわからない両刃の際どさや、人が隠しておきたいものを見たがる覗き趣味などがつきまとっていたほうがいい。『イロとカネ』がますます無味無臭になっている当節だからこそ……」(1995年)

 登場人物たちはいずれも、イロとカネに足許をさらわれつつ生きる人間の業を見せつける。宮(梅村博美)も貫一(大石哲史)も、宮の父母(川鍋節雄・岡原真弓)と結婚相手の富山(高野うるお)も、高利貸しの鰐淵(武田茂)とその妻(相原智枝)、順風満帆なエリートのはずがいつの間にか借金ですべてを失っている荒尾(井村タカオ)、貫一に惚れこみしつこく追い回す満枝(山本伸子)……。それぞれが苦しみつつ生きているが、しかしそれは特別な悲劇ではなく、やがて解決してカタルシスが訪れることもないのは明らかだ。まさに「自業自得」の人生を生きている。そして彼らを取りまく街の人々もまたそうなのだ。遊佐夫婦の家に借金の取り立てにいった貫一が、さんざんに罵倒され侮辱されて家を叩きだされ、夜の道を荒れた心を抱えて歩く。そこになんの絡みもなく、ただただ大勢の人々が行き交う。彼らもまたそれぞれの業を抱え、しかしたくましく生きる「大衆」であることがすんなりと腑に落ちる、秀逸なシーンである。

 音楽もまた印象深いものだった。この「オペラ」の屋台骨となっているのは、たった1台のピアノなのである。2時間半を弾きっぱなし、一度として流れを淀ませることなく、よけいな感傷はいっさい排し、しかしドラマの起伏を十二分に描きだすピアノ(服部真理子)の至芸には感嘆した。舞台からピアノへと、思わず目を奪われ見とれることもしばしば(しかもカーテンコールで改めて知って驚いたのは、ピアニストもまた役者と同じく着物で参加していたこと。ということは草履と足袋であの長時間、ペダルを操作していたわけだ)。もちろん、役者たちの台詞まわしの確かさ、そして、台詞がふわりと音楽になり、また地の台詞に戻っていく、その自在な往還の技術には、いつもながら唸らされた。

 今回の公演で、こんにゃく座代表の萩京子氏から改めてアナウンスがあったことを書き留めておきたい。40周年記念事業が進むなか、こんにゃく座の芸術監督であった林光氏が、不慮の事故により、2012年1月5日に亡くなられた。座員の驚きと無念はいかばかりかと思う。公演後の舞台挨拶、そしてプログラムに記載された「音楽を通して、林光さんの思想を未来に繋げていきたい」というメッセージには、感無量の思いがあった。ここに謹んで弔意を表したい。  











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