#  412

スタンリー・カウエル・ソロ
2012年3月17日 @ビルボード・ライヴ東京
Reported by 稲岡邦弥
Photo by 相本 出

スタンリー・カウエル(p)

「ビルボード・ライヴでスタンリー・カウエルのソロ?」というのが、本人から一報を受けた時の偽らざる印象。しかも一夜限りのトンボ帰りという。
何度かのチャンスを逃した挙げ句の初めてのビルボード・ライヴは、予想に反した落ち着きのある、洒落て快適な音楽空間だった。カジュアルなミラノのブルーノートを体験したばかりの身にはしかしとても手の込んだ造りではあった。
何といっても街のイルミネーションを透かすステージ背後の一面のガラス・ウォール、ステージを囲んで4階席まで設けられた高い天井に圧倒される。ミュージシャン招待の僕は、カジュアル・エリアと呼ばれる3階席でスタンリーの背後から彼の音楽を聴くことになった。彼の指使いに興味のあるファンには格好のポジションではあるのだが。
スタンリーの生は3年前の東京TUCでのチャールズ・トリヴァー・オーケストラ以来だが、ソロということもあり彼の音楽性とピアニズムを心ゆくまで堪能することができた。もともと作曲も良くする彼のピアノは感情の赴くまま、というタイプではなく、非常に構成のしっかりしたむしろ思索的なタイプといえる。
プログラムもよく練られたもので、組曲風に語り継がれた奥さんと娘さんに捧げられたパートではクラシックのイディオムも交えながら、続くデビュー時代のマックス・ローチに絡むパートではよりジャジーでありながらどこまでも作曲家の目が行き届いたような完璧にバランスのとれた演奏が続く。大震災の被災者に捧げた<仙台センド・オフ>では和風のスケールが顔を見せ初めてほっと一息つかせる場面があった。圧巻はモンクの<ラウンド・ミッドナイト>であったか。恵まれた長い指と身体でモンクのユニークなコードをパーカッシヴに叩き、その合間をモンクの逆を行く早いパッセージでしかもきらびやかに繋ぐという、コンテンポラリーなアレンジ。フィンガリングを目の当たりにできる3階席ならではの楽しみであった。
ストラタ・イースト時代のピアノ・ソロ集『ムサ』やECM盤『幻想組曲』の中から耳慣れた曲も数曲演奏され、しばし往時に想いを馳せる場面もあった。
アンコールでは、アップルのiTouchを持ち出し、仕込んだアプリでデジタル・カリンバを弾いてみせるというお茶目な一面を見せた。
いわゆる目の覚めるようなテクニックで惹き付けるピアニストではないが、ジャズに作曲家という側面からアプローチし目配りの利いたアレンジを施した演奏を聴かせるピアニストとして年齢を重ねた今(1941~)、類例のないレヴェルに達したといえるのではないだろうか。
教師生活も30年を超え、現在はケニー・バロンの後を次いでラトガース大学で週2回教壇に立っているという。ここにもひとり、確実に人生行路の歩を一歩一歩進めてきた達人がいた。(稲岡邦弥)  







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