Concert Report#416

プラハ・フィルハーモニア管弦楽団東京公演
2012年3月11日 @サントリーホール
Reported by 丘山万里子
Photos by 林喜代種

指揮:
 ヤクブ・フルシャ 
演奏:
 プラハ・フィルハーモニア管弦楽団
ヴァイオリン独奏:
 三浦文彰
曲目:
 ドヴォルザーク/「新世界」より第2楽章ラルゴ、セレナードホ長調Op.22
 チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35
 (三浦アンコール/バッハ無伴奏パルティータ第2番よりサラバンド)
 ドヴォルザーク/交響曲第8番ト長調Op.88

 冒頭、指揮者J.フルシャより、1年前のこの日、3/11の東日本大震災に思いを馳せ、ドヴォルザーク『新世界』の第2楽章ラルゴ(家路)を演奏することが告げられた。この曲には、プラハ・フィルの他に、フルシャがプリンシパル・ゲスト・コンダクターを務める東京都交響楽団から4人のメンバーが参加した。演奏の後、ホールの照明を落とし1分間の黙祷を行う。静謐な時空間のなかで、それぞれがそれぞれの胸のなか、今なお無惨な爪痕の残る被災地、放射能の不安のただ中にいる方々への祈りを捧げた。被災地の方々が家路を辿れる日はまだ遠いけれども。

 当日の白眉は何と言っても、チャイコフスキー『ヴァイオリン協奏曲』であった。ソリスト三浦は3歳でヴァイオリンを始め、6歳で徳永二男に師事。その後米国でドロシー・デュレイや川崎雅夫に学び、ヴァイオリンで多くのコンクール優勝者を輩出するザハール・ブロン門下に入り、数々の賞を受賞している。現在、ウィーン市立音楽大学で研鑽を積む新鋭。使用楽器はストラディヴァリウス「ロード・ニューランズ」(1702年製)。
 この楽器特有のつややかで輝かしい音を存分に鳴らす。とくに低音の深みと重音でのバランスが素晴らしい。高音の絹糸のような伸びやかさも特筆もの。どこをとっても響きが濁らず、痩せることがない。第1楽章でのカデンツァの超絶技巧も何なくこなし、しかも馥郁たる音楽性にあふれ、寸部の隙もない。この楽章が終わり、大きく弓を空中に振り上げたとき、自然に拍手が湧いたのも無理ないこと。それくらい圧倒的な演奏だったのである。一方、第2楽章のカンツォネッタ、アンダンテはリリックに歌い上げる。ピアニシモでもオーケストラに埋没することもない。これは指揮の統率が行き届いていることもあろうが、やはり響きに芯があるからだろう。どこまでもくっきりした音楽の稜線に沿いつつ、情感ゆたかに弾き進んだ。フルートとの会話も親密に聴かせる。フィナーレでの鋭い切れと俊足は若々しい覇気に富み、一気に駆け抜けた。聴衆の盛んな拍手に応えてのアンコールはバッバの『無伴奏パルティータ第2番』より「サラバンド」。腕を見せびらかすことなく、濃やかに、繊細に弾き込み、その力量の幅広さ、奥行きの深さを示して見せた。将来が楽しみなヴァイオリニストである。
 ドヴォルザークの『セレナーデ』は弦のチェコと言われるだけあって、さすがにその柔らかな音の輪郭が明瞭に一体感をもって届いてくる。とりわけ低弦セクションの充実が音楽をぐっと支える。メヌエットの優美さにも、軽やかなステップにも、貴婦人を思わせる洗練がある。フレーズの膨張と絞り込みとを、アクセントとともに交互に積み上げてゆくダイナミックなフィナーレではフルシャの手技が生きる。彼の指揮ぶりは、指先で音符が踊るようなヴィヴィッドなもので、棒はよけいなことをせず、肝心なところでのみ全身を使っての指示を出すメリハリの効いたもの。『交響曲第8番』にはボヘミアン的な哀感がしっとりとにじむ。一方、トランペットのファンファーレから始まる終楽章の最後は指揮台から飛び上がらんばかり。滾り立つ壮大な音の伽藍を築き上げた。弦ばかりでなく、管楽器の力量をも見せつけた快演であった。  









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