Concert Report#417

東京フィルハーモニー交響楽団第813回オーチャード定期演奏会/山田和樹/小山実稚恵
2012年3月18日(日) @東急文化村オーチャードホール
Reported by 伏谷佳代(Kayo Fushiya)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

《出演》
指揮:山田和樹(Kazuki Yamada)
ピアノ:小山実稚恵(Michie Koyama)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(コンサート・マスター:三浦章宏)

《プログラム》
伊福部昭:交響潭詩
ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
ベルリオーズ:幻想交響曲

指揮者の大命題をごく自然に消化する山田和樹

2009年ブサンソン指揮者コンクールで優勝し、今もっとも注目を浴びている俊英・山田和樹が挑む血気盛んなプログラムである。しかし、ヤマッ気たっぷりの若さに任せた勢い---を期待している向きには少々意外な振りであったといえるだろう。山田和樹の指揮は、何よりとても丁寧である。隅から隅まで、まるで生身の肉声に対するがごとく、楽器の声に耳を傾け、すくい上げる。女性的であり、繊細、しかし落ち着き払った音の制御には、竹で割ったような決断力が同居する。

伊福部作品では、邦人の現代作曲家にありがちな東洋性やエキゾチズムが影を潜めるほどに、すっきりと軽やかにシェイプされ、リズミックな面が強調される。この山田の解釈には、東フィルの持ち味ともいえる音質の透明感が大きく寄与していたようにおもう。とりわけ、弦の水平な音のたわみと、管の直線的な音流の責めを小きざみに交錯させる振りに山田の音楽性が滲み出る。管楽器の持ち替えによる連結が哀切な和の世界を醸し出す第2楽章では、各パートの音の融和がいちだんと推し進められ、単なるパーツごとの丁寧な棲み分けから進んで、波動のみが増殖してゆく。最大限に流しつつ、どう抑えるか---という基本でありつつ究極的な大命題を、この指揮者はじつに自然に体得しているようだ。聴いたあとに清涼感が残る。


オーケストラと一体化した夢幻的な音のタペストリー-----小山のラヴェル

フレッシュな指揮者の感性と対になるかのように、場数が生むヴェテランの構築力を見せたのが、小山実稚恵によるラヴェルである。ピアノソロが殊更目立つことがない、あくまで「オケ埋没型」コンチェルトに相応しいコントロールされた柔らかな音質を、小山は一貫して敷衍する。それは、弱音になればなるほど、より輝きを増す。パーカッシヴなメロディラインの浮き出しでも、その振動はピアノの奥底からコントロールされた、深みのある轟(とどろき)である。また、この曲ではオーボエを中心とした管楽パートが果たした役割が大きい。息のながいフレージングはもちろんだが、互いの楽器の無音部分をよく聴き合っており、それらが巧妙なアンサンブルの陰影となって「ラヴェルの世界」を強力に放出する。こうした背景があって初めて、例えば緩徐楽章冒頭でのピアノソロが、珠玉のような静寂でもって可能となる。小山の存在は、徹底してオーケストラの一部として呼吸を合わせよう、というその頑なさによって強力に感知される。この時点で、祝祭的で軽やかな夢幻の世界はおおいに堪能したのだが、いまひとつ爽やかすぎる境地。さて後半のブルックナーは如何に?---という気分に意識はもっていかれる。


師匠・コバケンに似て非なる、その身体性

まず、幻想交響曲という長大な楽曲を、すべて暗譜で通したことに気概を感じる。師匠である小林研一郎ゆずりともいうべきか、メリハリのあるニュアンスづけを行なうが、コバケンのように極端な身体のうごきは少ない。もっと優雅であり、音楽の基本線ともいえる「流れること」を瞬間の極限まで許しているかのようだ。よく言えは謙虚で丁寧、少々意地悪な見方をすれば部分的にもたると感じられること、なきにしもあらず。しかし、どのような瞬間からも、山田和樹が希有なほどに豊かな歌心と音楽性を備えていることはひしひしと伝わってくる。とりわけ、楽章が進むにつれてその豊饒な音楽運びが大きなうねりとなって粘りを増してゆくあたりに、大局的視点が感じられる。合唱の指揮経験を積んだことが大きな強みとなっているのであろう。オーケストラは、迫力の付与という点で管とパーカッション部隊がよく奮闘していた。随所でのコンマスの知的な牽引も、指揮者のグルーヴとうまく寄り添い、経験に拠る余裕が光る。今後、一筋縄ではいかぬような苦渋を感じさせる楽曲で、山田の伸び伸びとした音楽性が、どのようなスケールとなって結実してゆくのか、見ものである(*文中敬称略。3月25日記)。  









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