Concert Report#440

バシュメット&モスクワ・ソロイスツ創立20周年記念コンサート
2012年5月28日 @東京オペラシティコンサートホール
Reported by 丘山万里子
Photos by 林 喜代種

演奏:
ユーリ・バシュメット(指揮、ヴィオラ)
森麻季(ソプラノ)
モスクワ・ソロイスツ
曲目:
G.Ph.テレマン/ヴィオラ協奏曲ト長調(バシュメットvla & cond)
J.S.バッハ/カンター第51番「すべての地にて歓呼して神を迎えよ」BWV51より
<あなたがそばにいたら>「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖」より(森麻季 sop, バシュメットcond.モスクワ・ソロイスツ)
N・パガニーニ/ヴィオラ協奏曲イ短調(バシュメットvla & cond)
P.I ・チャイコフスキー/「アンダンテ・カンタービレ」「弦楽セレナードハ長調」 
Op.48(バシュメットcond)
アンコール:
「Happy birthday to you」変奏曲/シュトラウス、ピアソラ、モンティ

 楽しいコンサートだった。というのは、アンコールで一気にはじけたその印象が強烈だったからである。まずシュニトケのポルカ。一筋縄ではゆかないシュニトケの、酔っぱらったコザックダンスのようなポルカを、思い切り弾んでみせ、掛け声までかけてノリノリの演奏。客席は大いに湧いた。続けて茶目っ気たっぷりに「みなさんのほとんど知らない曲を演奏します」と言って弾きだしたのはなんと「Happy birthday to you」そして、「実はこの楽団は今年で創立20年を迎えます。そこで各地からお祝いの曲が届いています。まずウィーンから」と言ってシュトラウス風の「Happy birthday to you」変奏曲。それからブエノスアイレスからピアソラ、ハンガリーはモンティのチャルダッシュ。どれも笑える。そのユーモア溢れるセンスに客席も大喝采。
 と、さきにアンコールの話をしてしまったが、もちろんプログラムに組まれた作品も、それぞれにバシュメットらしいヴィオラの味を醸し出す。テレマンの「ヴィオラ協奏曲」では、深く温かな彼特有の音色が響き渡る。いくつもの波を重ねるようなフレージングが、優しく押し寄せてくる。第3楽章アンダンテの静かなたたずまいにも心惹かれる。
 ついで、ソプラノの森麻季がバッハの2作品を。芸大卒後、ミラノとミュンヘンに学びオペラでも活躍するプリマドンナだが、古典から現代曲までレパートリーは幅広い。その美声は真珠色の光沢を放ち、バッハの「カンタータ」では見事なコロラトゥーラを聴かせた。トランペットやチェロのソロとの絡み合いも巧み。バッハ作と言われるが定かでない「あなたがそばにいたら」では、「あなたがそばにいらしたら、歓喜のうちに私は死を迎え、永遠の憩いへと赴きましょう」という歌詞の旋律線を一つ一つ丁寧に歌い込む。清冽さのあふれる歌唱で、バシュメットの指揮ぶりも一歩下がって、森の声を存分に際立たせた。
 彼の指揮は当然ながら弦の響きを熟知したもので、低音をしっかり鳴らし、そのうえに高音を流してゆく。とりわけコントラバスは楽曲の濃い影の部分をがっちり支え、音楽に豊かな立体感をもたらす。パガニーニの「協奏曲」は、もとはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ギターのための四重奏曲だが、それをソロイスツのメンバーが協奏曲にアレンジしたもの。ここではバシュメットのヴィルティオジテが遺憾なく発揮された。やはり彼には指揮より楽器を持って欲しいというのが正直なところ。「弦楽セレナーデ」では冒頭からたっぷりした音で、滔々と流れるヴォルガ河を思わせる。まさに、魂を揺さぶられる歌である。一方、第3楽章のラルゲット・エレジアコは波一つない湖面に浮かぶ月映をそっと掬いとるような絶妙のピアニシモで、バシュメットの指先の魔術に引き込まれた。「アンダンテ・カンタービレ」とともに、弦の一糸乱れぬアンサンブルの醍醐味を堪能する一方で、ロシア特有の哀愁を帯びた民族的香りが郷愁を誘う。
 固有の民族的情緒が普遍性を持つのは、人間の深部にそれが働きかけるからだろう。日々はそれと意識されない遠い何かの記憶。どこかで繋がっている大地のような、海のような。彼らの歌う郷愁は私たちをそういうところへといざなってくれる。  









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