Concert Report#456

7.23 森の再生・自立と復興・ソーシャルビジネス〜新しい日本の創造をめざして
2012月7月23日 @昭和女子大学 人見記念講堂
Reported by 稲岡邦弥
Photos by 河田雅史

ウェルカム・ミュージック G2us(高谷秀司g+マサ大家g)
1部:
坂東真理子(昭和女子大学学長)
河原裕子(NPO法人 アース・アイデンティティ・プロジェクト会長)
モニカ・ユヌス(ソプラノ)
矢田信子(伴奏ピアノ)
野中ともよ(NPOガイア・イニシアティヴ代表)
稲吉紘実(NPO法人 アース・アイデンティティ・プロジェクト理事長)
ムハマド・ユヌス(2006年ノーベル平和賞受賞者)
CHIKA☆(朗読)
藤井郷子(即興ピアノ)
2部:
炭谷 茂(社会福祉法人恩賜財団済生会病院理事長)
桑山和子(NPO法人ぬくもり福祉会たんぽぽ会長)
佐竹右行(グラミン雪国まいたけCoCEO)
岡田昌治(九州大学知的財産本部特任教授)
C.W.ニコル(C.W.ニコル アファンの森理事長)
風見正三(宮城大学事業構想学部教授)
竹村加寿子(ソプラノ)

東日本大震災から1年を期して去る3月9日に日比谷公会堂で行われたイベントに予定されたムハマド・ユヌス博士のスケジュールが合わず、急遽、企画が「世界一大きな絵2012展とチャリティ・コンサート」に変更された。今回は「ソーシャルビジネス・アジア・フォーラム」の一環として博士のスケジュールが確保され、東京では主催のNPO法人の理事長を務める稲吉紘実が著した『絵のない絵本 この星が絵でうめつくされたら』の刊行記念が合わされ盛り沢山の内容となった。

ホールではミラノのジャズ・エイドJapzItalyで気を吐いたギター・デュオG2us(高谷秀司+マサ大家)が来場者を歓迎するウェルカム・ミュージックを演奏するなか、大学のキャンパスではユヌス博士を迎え「世界一大きな絵」のロンドンへの壮行セレモニーが行われた。「世界一大きな絵」はNPO法人 アース・アイデンティティ・プロジェクトのメイン・プロジェクトで、世界中の子供たちに芭蕉布に絵を描いてもらい母親たちがその絵を縫い合わせ大きな絵に仕立てていくという10年掛かりの壮大なイベントである。この日キャンパスに展覧された絵は一辺40mの巨大なもの。ユヌス博士や各国大使、C.W.ニコル氏などを前にソプラノ歌手の竹村加寿子さんが<乾杯の歌>を高らかに歌い上げ、この「世界一大きな絵」をオリンピックたけなわのロンドンに送り出した。

イベントの共催者、昭和女子大学の坂東真理子学長のウェルカム・スピーチで一部が始まった。坂東学長は著書『女性の品格』(PHP新書)が圧倒的な支持を受けたが、来年新設されるグローバル・ビジネス科でも経済的な成功だけでなく、精神面での錬磨にも重きを置く教育を施すと力説。
ユヌス博士の愛娘モニカはメトロポリタン・オペラでも活躍するソプラノ歌手。3大テノールのひとりホセ・カレーラスとの公演を終えベイルートから駆け付けた。グノーのオペラ『ロミオとジュリエット』からアリア<私は夢に生きたい>を絶唱。続いて父に捧げるプッチーニの歌劇『ジャンニ・スキッキ』から<私のお父さん>。最後はニューヨーカーらしく<サマータイム>で締めた。
司会の野中ともよに促されてステージで父娘対面を果たしたユヌス博士がそのまま英語版『絵のない絵本 この星が絵でうめつくされたら』を朗読。藤井郷子がピアノに覆いかぶさり弦をグリッサンドではじき即興で朗読に和していく。この『絵のない絵本』の日本語版は国際的な活躍で知られるグラフィック・デザイナーの稲吉紘実が書き下ろしたファンタジーで、彼らのプロジェクト「世界一大きな絵」とも連動している。同日にフレーベル館から刊行された日本語版には朗読と音楽のCDが添付されている(詳細については、本誌のLibrary #)を参照されたい)。ユヌス博士を継いだのは、CD収録の朗読も担当したモデルのCHIKA☆。英語版の刊行にあたってはユヌス博士が全編を朗読するとのこと。大きな話題になり、彼らの運動もさらに加速することだろう。

2部の冒頭、ユヌス博士の基調演説があった。ノーベル賞受賞の原点となった「ソーシャル・ビジネス」について事例を挙げながら噛んで含めるように説いていく。「社会的企業」とも訳されている「ソーシャル・ビジネス」は、貧困など社会的な問題を解決して行くために立ち上げるビジネスをいう。卑近な例では、東日本大震災で職をなくした人たちが自立して行けるために起こすビジネス。義援金はあくまで初期の救済策に過ぎず、根本的な解決にはなり難い。博士は、どこまでも無私の心を持って、決して無理をしないこと、継続することが大事。そのためには「小さく生んで、大きく育てること」を力説する。博士が国の内外で展開するマイクロクレジット・プログラムの思想である。「私は、貧困のない世界というのは、あらゆる人が生活に最低限必要なものを自分で手に入れる能力を持つ世の中を意味するのだと考えている」(『ムハマド・ユヌス自伝〜貧困なき世界をめざす銀行家』猪熊弘子訳・早川書房刊)。
博士の基調演説に次いで、各地から参集したパネラーがそれぞれの活動に基づいた事例を紹介していく。

2003年から3年間厚生事務次官の任にあった炭谷茂は、厚生省勤務時代から活動を続ける障害者、ホームレス、刑務所出所者などいわゆるハンディを負った人々の就業を通した社会参加について実情を紹介。現在もソーシャル・ファーム・ジャパンの理事長などを務める実践者である立場を鮮明にする。
ソーシャル・ファームの先駆けのひとり桑山和子は埼玉県で展開する農業を通じたソーシャル・ファームの事例を紹介。障害者、長期失業者への就労提供の成功例として成果をあげている貴重な事例である。
バングラデシュでユヌス博士のグラミン財団と合弁会社「グラミン雪国まいたけ」を立ち上げ、もやしの原料である緑豆の大量生産に成功した佐竹右行の事例は、ユヌス博士の思想の国際的なジョイント・ベンチャーのサンプルとして非常に有効である。農村部の貧困層8,000人の雇用創出を実現し、今年度は2,000トン近くの収穫が見込まれるという。
「残りの人生の半分を東松山の森林の再生に捧げる」と高らかに宣言したのは長野県黒姫山の一部を買取り、「アファンの森」として再生に成功した実績を持つC.W.ニコル。大震災で破滅的な被害を受けた東松島に早くから入り込み森林を中心とした再生活動に取り組む。ニコルはウェールズ出身だが1995年に日本に帰化している。
そのニコルと現地で手を組むのが宮城大学事業構想学部教授の風見正三。ニコルの決意を耳にし感涙にむせんだという。風見は、ソーシャル・ビジネス、コミュニティ・ビジネスを専門とし佐竹右行と並ぶユヌス博士の申し子的存在である。ユヌス博士の思想をベースにしながら被災地の再生という途方もなく時間と労力のかかる作業に取り組んで行く。
当日もうひとり登壇した人物が日本でユヌス博士の意を汲んでソーシャル・ビジネスの普及に邁進する九州大学知的財産本部特任教授岡田昌治。
官僚出身の炭谷茂から証券業界OBの佐竹右行まで、さまざまな出自を持つ逸材がハンディを負った人たち、貧困に身を置く人たちに「生活に最低限必要なものを自分で手に入れる」手立てを提供する努力を続けている。
当夜紹介された事例はその一端に過ぎないかもしれない。しかし、このイベントに参加した人たちは「新しい日本の創造をめざし」た確かな動きが永田町や霞ヶ関を離れた地域で進んでいることを確認し大きな勇気を得たに違いない。もちろん筆者もそのひとりである。
最後に、これだけの人材を一堂に集めた上、ユヌス博士の「ソーシャル・ビジネス・フォーラム」を中心に「世界一大きな絵ロンドン壮行セレモニー」と「絵のない絵本刊行記念」をひとつのイベントに仕立て上げたNPO法人会長河原裕子とイベントを仕切った野中ともよのそれぞれの手腕はじつに賞賛に値する。

http://www.earth-identity-project.com/723/
http://sbrc.kyushu-u.ac.jp/
http://www.jazztokyo.com/library/library067.html























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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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