Live Report#458

カム・フライ・アウェイ(Come Fly Away - a new musical)
2012年7月24日(火)〜8月12日(日) @Bunkamura オーチャードホール
2012年8月15日(水)〜8月19日(日) @兵庫県立芸術文化センターKOBELCO 大ホール
2012年8月10日(金) @Bunkamura オーチャードホール
Reported by 竹村洋子 Yoko Takemura
Special Thanks for Picture: DeAnn Boise, Company Manager, Come Fly Away

構想、演出、振り付け:トワイラ・サープ
音楽監督、オーケストレーション、アレンジメント:デイブ・ピアース
ヴォーカル:フランク・シナトラ

バンドメンバー:
クリス・サージャント(conductor/piano)
ダグ・ローレンス、P.J.ペリー、ジュリアン・タナカ、アダム・シュローダー (reeds)
マイク・ヘリオット、ジム・キーン、サム・オッツ (trumpet)
マイケル・ジョイス、ジェームス・ネルソン、マーク・ウィリアムス (trombone)
クリフトン・ケレム (bass)
バディ・ファンブロ (guitar)
ポール・リンゲンバック(drums)

ダンサー:イオアナ・アルフォンソ、ジェレミー・コックス他、全22名

 ブロードウェイ直輸入の”極上の音楽”と”最高峰のダンス”というだけあり、その期待は裏切られず、90分のパフォーマンスはあっという間に終わってしまった。このニュー・ミュージカル「カム・フライ・アウェイ」は2009年にアトランタでスタートして以来、ショウビジネス界やメディアに賞賛されつづけている。

 構想、演出、振り付けは世界的なバレエ振り付け師、演出家のトワイラ・サープ。フランク・シナトラのオリジナル録音から歌のみを取り出し、ブレイク無しで全29曲をステージ上で生のビッグバンドが演奏し、14人のダンサー達が入れ替わり立ち代わり踊り続ける。取りたててストーリーはなく、4組のカップルがニューヨークのナイトクラブで踊り明かす賑やかな様子を若いダンサー達が演じる。 磨きぬかれた高度なテクニックを身につけたダンサー達の飛んだり跳ねたりのアクロバティックなダンスは大変見応えがあった。さらに、フランク・シナトラの歌のバックを演奏する14人編成のビッグバンドは、さすがにシナトラのバックだけあり、非常にレベルの高い演奏でショウ全体を盛り上げていた。

 オープニングの<スター・ダスト>のアカペラはシナトラが生涯にたった一度録音したというパフォーマンスをカナダの警察の科学捜査班の協力で歌だけ取り出したというもの。この舞台初日にシナトラの娘、ナンシー・シナトラがこれを聴いて涙した、というのも充分頷けた。<ラック・ビー・ア・レディ>や<フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン>などと次から次へと往年のシナトラのヒットナンバーがノンストップで続く。始まりから8曲目の<ユー・メイク・ミー・フィール・ソー・ヤング><ウィッチクラフト>辺りでは、もう、シナトラがラット・パックのメンバー達と一緒に、目の前で唄っているような感じさえした。 全曲を通して曲と曲のつながりも、音楽、ダンス共に非常にスムースで、パフォーマンスの進行と同時に、観ている方もぐいぐいとステージに引き込まれて行く。終盤のハイライトの<マイ・ウェイ>は、おそらく1980年代半ばのフランク・シナトラの録音であろう。ステージ中央からミラーボールが降りて来て、会場全体がキラキラと華やかな雰囲気が漂う中、ダンサー全員が甘く感情豊かに唄いあげるシナトラの声に酔ったかの様に美しく流れる様なダンスを披露した。

 ビッグバンドの演奏に関して言えば、洗練されたアンサンブルの見事さに加え、ソリスト達の活躍を特筆すべきだろう。<レッツ・フォール・イン・ラヴ>におけるマイク・へリオットの生き生きとしたトランペットのソロ。<メイキン・ウーピー>ではトロンボーンのジェームス・ネルソンのユーモラスなソロも楽しめた。ドラムスのポール・リンゲンバックも華のあるプレイを見せた。が、何と言っても<ボディ・アンド・ソウル>での P.J.ペリーの濃厚でセクシーなテナーサックスのソロは素晴らしかった。また、彼はショウ半ばのハイライトの一つでもあるカウント・ベイシー・オーケストラでおなじみのナンバー<ジャンピング・アット・ザ・ウッドサイド>でも70才とは思えない大迫力のバリバリのソロを披露した。P.J.ペリーはカナダを拠点に活動しており、ディジー・ガレスピー、ウッディ・ショウ、ミシェル・ルグランなど数多くのジャズ・ミュージシャンとの共演歴を持ち、多くの賞にも輝いている超一流のミュージシャンだ。
 バンドだけでカウント・ベイシー・ナンバーを数曲演奏したが、本家本元のカウント・ベイシー・オーケストラにも勝るとも劣らない迫力ある演奏だった。それもそのはず、カウント・ベイシー・オーケストラに席を置き、テナーサックスを担当するダグ・ローレンスがこのショウではリード・アルトサックスを担当。ショウ終盤、これまたベイシー・ナンバーの <ワーリー・バード>ではブラス・セクション全体を率いていた。彼は今回のバンド・メンバーの中ではただ一人、ショウ初演の2009年のオリジナル・メンバーである。これらのミュージシャンに限らず、バンド全体を統率するピアニストのクリス・サージャントを始め、バンド・メンバー14人全員が一流のベテラン揃い。シナトラの歌のバックを務めるに相応しいゴージャスなメンバーがゴージャスな演奏を披露した。
 メリハリのあるアレンジも聴衆を飽きさせなかった。音楽監督、オーケストレーション、アレンジメントはデイブ・ピアース。カナダを拠点に活躍し、2010年バンクーバー冬期オリンピックの音楽監督としてエミー賞を受賞している。

 レイ・チャールズ&カウント・ベイシー・オーケストラやナット・キング・コール&ナタリー・コール等が、昔の音源に新しい音をかぶせる手法をとったパフォーマンスで成功している。「カム・フライ・アウェイ」は主として1970〜80年代のシナトラのオリジナルの歌声に今現在のビッグバンドの音楽とダンスがパーフェクトにマッチし、究極のエンターテインメントとして成功している、と言っても過言ではないだろう。
 シナトラの歌90分でこれだけのショウを創り上げたトワイラ・サープの才能、創造力もさる事ながら、今さらながらフランク・シナトラの信じられない程の偉大さを再認識させられたのだった。


♪セットリスト:(*バンドのみの演奏)

Star Dust
Luck Be a Lady
Let’s Fall in Love
Fly Me to the Moon
I’ve Got a Crush On You
Body & Soul
Here’s to the Losers
You Make Me Feel So Young
Witchcraft
Yes Sir, That’s My Baby
Learnin’ The Blues
That’s Life
Makin’ Whoopee
I Like to Lead When I Dance
Jumpin’ at the Woodside *
Saturday Night is the Loneliest Night of the Week
I’m Gonna Live “ Til I Die”
Pick Yourself Up
Let’s Face the Music and Dance
Teach Me Tonight
Take Five
Lean Baby
Makin’ Whoopee (reprise)
One For My Baby
The Way You Look Tonight
My Funny Valentine
My Way
New York New York
Come Fly With Me *
Whirly Bird *
My Way (reprise)
New York New York (reprise)





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