Concert Report#460

第739回東京都交響楽団定期演奏会
一柳慧プロデュース<日本管弦楽の名曲とその源流-15>
2012年8月28日(火) @サントリーホール
Reported by Masanori Tada 多田雅範

東京都交響楽団
指揮/下野竜也
ピアノ/舘野泉

ケージ:エトセトラ2 (4群のオーケストラとテープのための)
【指揮/下野竜也、大河内雅彦、松村秀明、沖澤のどか】
一柳慧:ピアノ協奏曲第5番「フィンランド」−左手のための (世界初演)
一柳慧:交響曲第8番「Revelation 2011」

サントリーホールができた86年に、サントリーホールが委嘱、岩城宏之、一柳慧、黛敏郎、湯浅譲二の4人(すごい4人だ)の指揮で世界初演されたケージの曲。26年ぶりの里帰り。これは聴き逃せない。

これは聴き逃せない、と、日曜日にかけつけたケージの「ミュージサーカス」にも感じたことだけど、一度はケージの革命にアタマで衝撃を受けた青年時代の自分も51になってみれば。ケージ節(ぶし)だよなー、と、節と呼称するまでザックリとジョン・ケージ作品を相対化してしまった年月だったことを想う。今年はケージ生誕100周年、演奏する契機はある。それに、これだけの楽器の熟練した演奏家が揃って奏でていることだけで、耳をすませば得難い一期一会の響きであることは確かで、懐かしくもいとおしく思えてくる。

しかし。かかったテープ、録音物は、すでにフィールドレコーディングというジャンルが生成してヴィヴィッドに聴覚を振るわせる2012年に聴くには、あまりにセンスの無いお粗末なものだ。ケージが作曲していた当時のホンモノというわけでもない。むかしむかし、ジョン・ケージという作曲家がいました。とりあえず、演奏にステージの前に出てきてそれらしく弾く奏者のみなさんにお疲れさま。

後半。舘野泉が弾き始めると世界は一変した。こ、これが、行ったことのないフィンランドなのか。舘野泉のために一柳慧が書いた世界初演。柔らかい舘野のタッチに、オーケストラの霧のような響きが溶けてゆく。コンポジションとしては現代音楽の書法なのだけれど、とりとめの無さが妙に心地良い。「舘野さんのおかげで、技術的にも、イメージ的にも、左手に対する自在な発想がどんどん膨らんで、充実した作曲の時間を持つことができた。」「形式にとらわれないファンタジー的内容の自由なスタイルで書かれている。」と一柳の解説が書かれていた。舘野泉の奏でるピアノが空中にとどまって風のように過ぎてゆく。

続いて交響曲第8番「Revelation 2011」。311の大惨事を受けての作曲であることは聴く前に了解していたので、そういう構えを持って耳をそばだてていた。そんな、すぐに交響曲にできるような体験なのかしら?というイジワルで醒めた気分もあった。どんな壮大なオーケストレーションで奏でられても、それはチガウんじゃないか?と言うしかないような。演奏が始まって、どこからどう音を捕まえていいのかわからない時間が続いた。耳が空振りしている。肩透かしにあっている。現代音楽って、こんなにパワーが無いものだったろうか。感動したって仕方が無いような気分で聴いているワタシでもあることが余計に居心地の悪さを増幅させている。何か、何も起こらないでとうとう演奏が終わってしまった。拍手が起こり、一拍置いて「ブラボー!」と声が響く。

「いやあ、一柳の音楽はわからないなあ,,,」と言いながら会場をあとにした。

帰って検索してみたら、インタビューと記事があった。
「作曲家:一柳慧 東京都響定期で!」
http://www.youtube.com/watch?v=sUGI5epm0qs&feature=youtu.be
「フラジャイルな構造を持った音楽の実現」
http://www.tmso.or.jp/data/pdf/ichiyanagi.pdf

地震の起こる日本の土壌構造を、コンポジションの思考に結び付けていたのか。いや、それならわかる。聴いた音楽記憶を巻き戻してみる。そういう器用なことは普段はしていないのだが、今回はできた。とりとめの無い疑問符のついたものは意外と残っているものなのかな。作品にちからがあるということなのだろうか。音楽について、解説を読んで頭で理解したら感動が生成されるというのはチガウという見解もあるかもしれないが、そんなナイーブな話もないだろう。

もう一度、「Revelation 2011」をライブで体験したい気持ちである。



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