Concert Report#461

第740回東京都交響楽団定期演奏会
一柳慧プロデュース<日本管弦楽の名曲とその源流-16>
2012年9月3日(月) @東京文化会館
Reported by Masanori Tada 多田雅範

東京都交響楽団
指揮:高関健
ピアノ:岡田博美

松平頼暁:コンフィギュレーションT/U
松平頼暁:オーケストラのための螺旋
ベリオ:協奏曲第2番「エコーイング・カーヴ」(ピアノと2つの楽器群のための)(日本初演)

松平頼暁(1931-)。総音列主義技法から出発、不確定性、旋法的な手法を経て、独自のピッチ・インターバル技法を開発。数理的発想にもとづくシステマティックな作曲法で知られる。

松平頼則(1907-2001)のフルート独奏「蘇莫者」(1961)、木ノ脇道元のフルートにこの世のものとは思えない表現を聴いた体験は忘れ難い。聖徳太子ファン必聴だ。頼則の長男が頼暁なのか。室伏父子みたいなものか。巨人の星か。なぜに現代音楽作曲家というマニアな道を。それにしても、父と異なる新しい音楽の道を拓いたのだ。

今日のプログラムはベリオと松平頼暁。なるほど、音列主義つながりなのですね。

「コンフィギュレーション」「オーケストラのための螺旋」、システマテッィクな発明だけで出来ているものか、それ以上のものは無い、のだった。ううう、これを聴く意味がわからない。後ろの席の妙齢のかわいいおばさんたちが「あたし、2箇所も蚊にさされたのよ、それを我慢しながら聴くの、とても不思議な感じ」「あらまあ辛い時間が続くわねー」と話しているのが楽しい。

しかし、そこは戦後日本の現代音楽を支えてきた東京文化会館の建物だ。建物がその歴史をまとった響かせかたで報せてくる、この響きは高度成長期の日本の輝きなのだよ、日本だけの独自な発明としての一柳慧、松平頼暁は新幹線ひかり・こだまなのだよ、海外最先端の栄光ある翻訳者でもあり、輸入してヴァージョンアップさせる戦後日本人のお家芸、夢の輝きだったのだよ、などと。

数学的な美しさというのはたしかに存在する。システマティックな技法の美しさはそのようなものだろうか。近藤譲なんかは、聴かなくても楽譜を見れば素晴らしさがわかると断言しているよな。おれの直感的な見立てでは近藤譲が世界最強の現代音楽批評家だと思う。

どうも私の耳は古いもので、親父さんの松平頼則を、こないだの企画「101年目からの松平頼則」の続きを聴きたいなあ、と、思うばかりであった。システマティックなのはもういい。パソコンにやらせておけばいい。現代音楽とはオケでしか表現できない領域の閉ざされた箱庭だ、ビートルズ出現以降は。伝えるものがなければ音楽とは言わないだろう。とはいえ私の認知できる「伝えるもの」なんてまだまだ底が浅い・・・。

そんなことを思いながら、後半のベリオ=岡田博美を待つ休憩時間、カップ自販機でホットココア110円で息をつく。おれは今日、前回と同じ会場だと思ってサントリーホール18時20分開場に並んで係員のおねえさんに「本日は日本フィルハーモニー交響楽団の公演でございます」と淀みなく案内されて、あわてて溜池山王駅までダッシュ、新橋で山手線に乗り換えてここに5分前に到着していたのだった。...なるほど、東京文化会館を会場にした理由は建物に語らせるためだったのか。

ベリオも似たようなもんだろ、と、思いきや。

岡田博美の、一音弾けば岡田博美であるという神の領域で遊ぶピアニズムは、岡田かピリスかポリーニかというくらいのもの(すまない、野島稔はまだ体験していないのだ)。タッチと響きに唖然とする。す、すごい。ベリオのこの曲は、ピアノの打音をオケが曲線を描いて追っかけて、花火のように空間消失させるという仕組み。オケの中にあって異質に思えるオルガンの間抜けな響きがいい効果を出している。おお、なかなかいいではないか。松平の「螺旋」ではストラヴィンスキーやエリントンを潜ませていてもダシが効いていないのに対し、ベリオに潜む狂気のダシには音楽的ロジックがある。

そして。心が叫んでいる。岡田博美にそういうアタックの強いブロックコードとかクラスターみたいなの弾かせないでほしー!指にへんなチカラがかかって、天上的にリリカルなタッチに影響があったらどうするんだ!どう責任を取ってくれるんだ。誰が責任取ってくれるんだ。ベリオはもう聴きたくない。4号機と同じくらい岡田の指が心配だ。ああ、でも素晴らしい。オルガンがせせら笑うように気持ちいい。早く終わってくれ。

おお、岡田博美が演奏前にインタビュー(http://www.youtube.com/watch?v=NbLU2BIHArw)に応じている!やっぱこのひとは音楽の天使だおー。話しかたでわかるでないの。ほらー、クラスター使い過ぎかなーって言ってるのが可笑しい!
http://www.youtube.com/watch?v=NbLU2BIHArw

日本の現代音楽は、戦後の団塊の世代を苗床にして未来に前進するエネルギーを肥料として、熱く燃えたものだった。アカデミズムは肥大して残った。そこで独自に光る作曲家も出るだろう。都響の会員のおじさまおばさまたちはげっそりお帰りモードだ。,,,あれれ、おれは何を書きたいのだろう。そうだ、文楽はあらゆる芸術の中で至高のものだとどこかで読んだが、まったくそう思うのだ、そこで今話題なのは大阪府の文楽への補助金打ち切りだ、東京都がかわりに支給してあげてほしい、...東京都交響楽団とはまったく関係のない話である。コンサートが終わり、CD販売コーナーに聴衆では5%程度の学究肌な眼差しの青年がふたり立っている、若い頃のおれたちを見ているみたいだ、おい、君たち、早まるな!

オーケストラの演奏は過不足なく素晴らしいものだった。お仕事とはいえ、大変だなあと思った。高関健の指揮も、丁寧で真摯であり、特にベリオの指揮は秀逸だった。それにしても、岡田博美はやはりすごい!サイトで年間ベストに挙げた(http://homepage3.nifty.com/musicircus/rova_n/rova_r32.htm)のですし。

※「101年目からの松平頼則」をチェックしたら、わたしのレビューが取り上げられていました(http://d.hatena.ne.jp/Y-T_Matsudaira/20090215)。2回目が行なわれていたのですね。行きそびれました...。



WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.